スマートフォンで使うFacebookに、データ伝送量1MBあたり2セントが課金されるとしたらFacebookアプリを使用するだろうか?

モバイルアプリの登場で、ビデオストリーミングやVoIPなど数年前には考えられなかったことが携帯でできるようになってきた。一方で、こうした新しいモバイルアプリの成長が想定外のトラフィック増を引き起こし、ネットワークが逼迫に向かいつつある。そこで限りある通信帯域を効率的に運用するために、負担になる種類のアプリやWebサービスに接続料や回線使用料を課すという案が検討されているのだ。

冒頭のFacebook 2セント/MBは、Allot CommunicationsとOpenetが14日に行ったモバイルオペレータ向けのWebセミナー「管理不可能を覆す: 手に負えないアプリケーションをコントロールし売上につなげる」で示した、あるVodafoneユーザーを想定した例だ。このユーザーはFacebook以外にも、Skype (3ユーロ/月)とYouTube (50セント/月)を有料で使用している。しかしVodafoneが提供するサービス(例: 動画ストリーミング)は無料で使える。

「ただ乗り」させず、モバイルアプリ利用との共存を図るモバイルオペレータ

セミナーを行ったAllotはIPサービスを最適化するソリューションをブロードバンドオペレータや企業に提供しており、またOpenetはTier 1およびメディアサービスプロバイダ向けにSOS(Subscriber Optimization Software)を提供している。2社は7日にモバイルブロードバンド向けのオンラインポリシーマネージメント・ソリューションを共同で発表した。AllotのサービスゲートウエイがPCEF (ポリシーおよび課金施行機能)として機能し、OpenetのPolicy ManagerがPCRF(ポリシーおよび課金ルール機能)となる。つまり、ユーザーのモバイルデータ利用をモバイルオペレータがモニターし、ネットワークの流れをコントロールするポリシーをリアルタイムで適用できるのだ。上記の例のようにエンドユーザーのアプリやWebサービスの利用に応じて料金を課すだけではない。セミナーでは、負担になるデータ利用のオフピーク時間帯への誘導、コンテンツプロバイダとネットワークオペレータの売上分配などさまざまなアイデアが示された。

このようにモバイルアプリ利用に対するポリシー適用と新しい課金モデルは、すでに単なるビジョンではない。まるで、それが既定路線であるかのように着々と準備が進められている。ちなみにOpenetらの顧客には、Vodafone、Orange、AT&T、Verizonなどの通信事業者大手が揃っている。

"ネット中立性"ルールが完全適用されないモバイル

さて21日に連邦通信委員会(FCC)の会議において、オバマ政権のネット政策の核ともいえる"ネット中立性ルール"の投票が行われる。おそらく、このコラムがみなさんの目に触れるころには結果が出ていることだろう。

現在のFCCが考えるオープンなインターネットには6つ原則がある。そのうち4つは2005年にインターネットポリシーとして承認された「ネットでの表現およびコンテンツ受信の自由」「合法的なアプリおよびサービスを使う自由」「デバイス選択の自由」「競争促進」。その後、ネットワーク管理に関する基本情報をユーザーに開示する「透明性」、トラフィックに優劣をつけない「平等な扱い」が加わえられた。

最終的なルール提案では、正当な理由に基づいたトラフィックの差別化を認め、ネットワークの混雑や遅延を排除する管理も容認している。またFCCは有線と無線のブロードバンドを同じようには扱わず、最後の「平等な扱い(Nondiscrimination)」の対象から無線を外した。過度に不当な差別やネットワーク管理は認められないものの、FCCはモニターするのみで、しばらくはモバイルブロードバンドの成長を見守っていく姿勢を明らかにしている。

それで大丈夫なのかという議論はもちろん出てきているし、具体的に「Facebook、2セント/MB」という例を目の当たりにすると考え込んでしまう。だが7年以上にわたる議論を経て、ネット中立性に対する見方が変化しているのだ。そもそもブロードバンドは民間企業が提供する"サービス"である。通信事業者が「より便利で、より速い」サービスを開発できる状態でなければ、ユーザーは増えないし、発展も望めない。平等を追求するあまり、ユーザーにとって便利なサービスにつながる芽を摘むような規制を施しては意味がない。かつてのように頑なにオープンで平等なインターネットを主張する声は鳴りを潜め、今日では中立性推進派もネットワークの優先サービスやオペレータによる付加価値サービスが必要だと認めている。今年8月にGoogleがVerizonと共に、優先サービスを含む形で"オープンなインターネット"の提案を行ったのが、その象徴といえるだろう。

こうした変化をコロンビア大学ロースクール教授Tim Wu氏は「The Master Switch」という著書の中で、「みんなのホビーが、だれかの産業へと発展する"サイクル"」と表現している。かつて電話、ラジオ、映画、ケーブルTVなどにも見られた。自由だけど無秩序な状態が、技術的なイノベーションを経て、少数によるコントロールに集中する……産業全体を動かすマスタースイッチへの変化だ。それにはオープンからクローズドなシステムへの移行も含まれる。

現在、米国では「ピュアGoogle」というキャッチコピーでNexus Sが販売されている。キャリアのソフトウェアを含まない純粋なAndroidという意味だが、将来違う意味で"ピュアGoogle"な携帯が登場するかもしれない……

AllotとOpenetが提案するケーブルTVサービスのようなモバイルブロードバンドサービスに、従来のオープンなインターネットモデルに慣れ親しんだわれわれは違和感を覚えてしまう。だが通信事業者がより大きな役割を担う無線ブロードバンドは、よりマスタースイッチに近い存在と考えられる。だからFCCも有線と無線を区別して扱っているのだろう。将来、無線ブロードバンドが有線を追い抜き、その利用モデルが行き渡れば、マスタースイッチは有線にも及ぶかもしれない。

だからこそネットワークの運用/管理が本当に正当なものなのか、また新進のサービスが成長する余地が残されているのかをチェックできる"透明性"の確保が、これからは重要になる。かつてラジオは新しい音楽の楽しみ方を生み出す革新的なプラットフォームだった。今でもラジオ番組は無料で聞けるものの、マスタースイッチが設けられてからラジオはレコード会社の方を向いた面白味に欠ける局ばかりになってしまった。有線であれ、無線であれ、インターネットにはそうなってほしくない。