9月末にTechCrunch Disruptにおいて、Google CEOのEric Schmidt氏がAppleのiOSのクローズドさについて熱弁をふるったのに対し、10月18日にApple CEOのSteve Jobs氏が決算発表においてAndroidの分裂ぶりを指摘した。今年のGoogle I/Oあたりから米国におけるAndroidとiOSの対立は、ヤンキースとレッドソックス、あるいはドジャースとジャイアンツ(優勝おめでとう!)のような激しさである。

5月のGoogle I/Oで、Googleは"自由なAndroid"をアピール

Googleに言わせれば、オープンなAndroidはユーザーと開発者に幅広い選択肢を提供し、クローズドなiOSはユーザーや開発者を箱庭に閉じ込める。一方Appleに言わせると、自由に使えるAndroidは多種多様なソフトウエアとハードウエアを生み出し、日ごとに進む分裂が開発者やユーザーを混乱させている。iOSプラットフォームはソフトウエアとハードウエア、サービスが統合的に設計/管理されているから、長期的な安心と使い勝手の良さを提供する……となる。同じ「Android vs iOS」がGoogleの見方では「オープンvsクローズド」になり、Appleの視点では「分裂vs統合」になる。この2つ見事に平行線なのに、どちらの言い分にも納得できるから困ったものだ。

ユーザーロジストとして知られるシリコンバレーのコラムニストMike Elgan氏が、この問題をユニークな視点で切り取っている。「オープンvsクローズド」「分裂vs統合」、一見きちんと整理されているようだが、議論がややこしくなっているのは、そこに矛盾が存在するから。クローズドだけど統合的というAppleに対する見方は完全に当てはまるが、Googleがオープンかというと、同じ土俵ではAppleと同様にクローズドだというのだ。

どういうことかというと、AppleにとってiOSデバイスは売上げに直接むすびつく製品である。だが、AndroidはGoogleが売上を意識している製品ではない。iOSデバイスに相当するGoogleの製品は広告である。GoogleはAppleがiOSプラットフォームにユーザーや開発者を囲い込んでいると言うが、Googleも同様にたとえばAdWordsではGoogleの広告プラットフォームやツールに顧客を縛り付けている。事業の根幹を成す製品に関しては、GoogleもAppleやほかの企業と同じようにクローズドであるというわけだ。

さらにモバイルOS市場におけるAppleとGoogleの関係を、前者を不動産王のDonald Trump氏に、後者をハンバーガーのMcDonald'sに喩えて説明している。Trump OrganizationもMcDonald'sも土地を手に入れて整備し、戦略的に建物を造っていくという点では同じである。だがTrumpが建物そのものを販売または賃貸するのに対して、McDonald'sにとっての不動産取引はハンバーガーという別の商品を売るための環境作りである。ビジネスの種類が違うから、クローズドな部分も異なる。Trumpは契約に至るまで不動産取引の戦略や内容を決して口外しないが、McDonald'sはフランチャイズ希望者などと積極的に情報を共有する。では、McDonald'sがすべてにオープンかというと、レシピが同社の社外秘である。不動産取引に関してTrumpとMcDonald'sを比較するのは不毛であり、同様に「ビジネスという観点においてAndroidとiOSは同類ではなく比較するのは誤りだ」と述べている。

Google先生から隠れられない!!

AndroidとiOSの比較について、Elgan氏の見方は巧みに視点をズラしているところがある。AndroidがiOSの脅威に成長していることを考えると、ビジネス的にも比較対象になり得ると思う。ただ「本業においてGoogleもクローズドである」というのは的を射た指摘だ。これを実感させられたのが、先週Googleがサービス展開を開始したGoogle検索への「Places (プレイス)」の統合である。

これまでユニバーサル検索の結果におけるローカル情報はMaps (地図)中心の簡単なものだったが、プレイスではローカルビジネスのデータ、レビューやプレイスページ、ローカル情報サイトへのリンクなど豊富な情報が表示される。肝となるのは、検索ユーザーがローカル情報を探しているのかどうかという判断だ。たとえば米国で「pizza」と入れると、Googleは「こりゃ、間違いなく近所のピザ屋を探している」と判断するらしく、近所のピザ屋の情報がずらりと並ぶ。ピザのWikipediaページはスクロールしないと現れない。これが「ramen」だったら、Wikipediaページがトップで、ショッピング検索結果(インスタントラーメン)に続いて、ローカルのラーメン屋の情報が3つ並ぶ。米国では去年あたりからラーメンブームが本格化しているものの、まだまだニッチであり、ピザとラーメンの結果表示の違いはなかなか的確である。このようにプレイスが統合された最新のGoogle検索では地名や住所などを指定しなくても、ユーザーの検索動向からインテリジェントにローカル情報を表示してくれる。

米国では「pizza」と検索するとローカル検索結果(赤いピン)がずらりと並ぶ。やはりハンバーガーに次ぐ国民食だけに、ほぼローカル検索と判断されるらしい

米国で「ramen」だと、今でもWikipediaページが結果のトップになる

で、しばらく試していて、はたと気づいた。「pizza」と入れるだけで、近所のピザ屋の情報が並ぶのはうれしいが、なんで自動的にプレイスで自分のロケーションの情報が表示されるんだ……と。使っているGoogleアカウントではMy Locationが無効になっているはずだ。試しにログオフ状態で検索しても、ちゃんとうちの近所のピザ屋が並んだ。

いろいろと調べてみたら、My Locationを使っていなくてもIPアドレスから自動的にロケーションを検出していることがわかった。しかもロケーションによる検索カスタマイズを、ユーザーは無効にできない。Web検索のヘルプには「ロケーションベースの検索結果のカスタマイズは、高品質な検索体験を一貫して実現するための重要なコンポーネントであり、ロケーションによるカスタマイズを無効にする方法を用意していません」と書かれている。

Googleがプレイスに用いているデータは、新たに収集し始めたものではなく、これまでにも存在していたデータを上手く活用しているに過ぎない。あらためてプライバシー云々を問うような新機能ではないのは分かっている。それでも「pizza」の一言が自動的にローカル検索と判断されて、しかも検索している場所も正確に特定されると、便利なんだけど、便利すぎてどこまで行ってもGoogleから隠れられないようなうすら寒さを覚えてしまう。そのうち慣れてしまって、逆に検索サービスが居場所を自動的に反映してくれないと物足りなく思うようになるのだろうか……。

このGoogle検索の思い切った前進に対して「こりゃ、ちょっと行きすぎじゃないの」と不満をもらしたら、Googleは「ユーザーに優れた検索体験を提供する"統合的"なソリューション」とアピールするんだろうな、たぶん。