最近、米国で据置型ゲーム機の話題になると「PlayStation 3を見直した」という意見をよく耳にする。

これまでPS3がまるでダメだったというわけではないが、やはり米国ではXbox 360の人気が根強い。コンソール本体の発売からゲームタイトルの拡充、オンラインコミュニティづくりに至るまで、現世代の据置型では常にXbox 360がPS3に先んじてユーザーに浸透してきた。

で、この秋はPS3の「Move」とXbox 360の「Kinect」の勝負になっており、今回は一足先に発売できたMoveのおかげでPS3の評価が急上昇している……わけではない。そうした新インタフェースに興味を持つのは子供たちが中心で、実際にゲーム機にお金を支払う世代の間では、むしろこの秋の熱い話題はインターネットTVなのだ。ネット経由で配信される映画・TV番組、デジタルコンテンツを扱う各種オンラインサービスをTVで利用するための"何か"をそろそろ導入しようと考える人や家庭が増えている。その候補としてあらためてPS3を検討してみると、Netflixの映画/TV番組のストリーミング配信をDolby Digital Plus (5.1chサラウンド)で楽しめるし、HBOのコンテンツの入手も可能だ。MLB.TV Premiumのサブスクリプションにも対応する。Xbox 360の場合、Netflixやスポーツコンテンツの視聴にはXbox Live Goldの契約が必要になる。しかもPS3はBlu-rayプレイヤーとして機能する。米国Sonyがこの秋にGoogle TV機能を備えた液晶TVやBlu-rayプレイヤーを米国で発売するのを考えると少し皮肉な感じもするが、とりあえずインターネットTV機能っぽいものを実現できる何か1台と考えると、PS3は豊富な機能と幅広い対応サービス、手頃な価格のバランスが取れたエンターテインメント・ボックスになる。

それだけではない。PS3に対する評価を変えたもう1つの大きな要因、それが今回の本題Facebookだ。9月後半にリリースされたPS3のファームウェアv3.50で、Facebook APIとPS3のゲームの連携を実現した。ゲーム開発者向けのアップデートだが、これによりFacebookのプロフィール、写真、友だちリストなどをゲームプレイに反映できるようになるため、ユーザー側からの期待も高まっている。シンプルな活用例として、まず思いつくのは友だちとの対戦やスコア比較。Rock Bandのような音楽ゲームで、Facebookの情報をベースに自動的にトラックリストをカスタマイズというのも考えられる。レースゲーム内のビルボードなどを使ったゲーム内広告も、Facebookのデータを基に効果的に演出できるようになるだろう。よりパーソナルなゲーム、ゲームプレイを引き出せる。年内にもFacebookを統合したいくつかのタイトルが明らかになる見通しで、ゲーム大手が関心を示しているとも報じられている。

Xbox 360もFacebookをサポートしているが、こちらはFacebookでのコミュニケーションをXbox LIVEで実現するエンドユーザー向けの機能だ。Xbox 360にはXbox LIVEというオンラインコミュニティが最初から存在していたから、ゲーム用のソーシャルネットワークでいまさらFacebookに頼る必要はない。そこがXboxの強みだったが、ライバルがFacebookを利用するとなるとMicrosoftも頭がイタい。Facebookのソーシャルグラフには、ゲームだけではなく、ユーザーのオンラインでの行動や普段の生活全般が蓄積され続けている。今後、人のつながりがゲームにユニークなアクセントを加え、さらに人のつながりを土台に設計されたゲームが評価されるようになれば、ソーシャルグラフの質が勝負の分かれ目になり得る。現時点でFacebookは最善の選択であり、こうした見通しがPS3に対する評価を変えている。

ソーシャルグラフを安売りしないFacebook

しかしFacebookの活用は両刃の剣……いや、禁断の木の実と表現すべきかもしれない。

Facebook CEOのマーク・ザッカーバーグ氏

個人的にFacebookが使いやすいサービスとは思わないが、ユーザーを惹きつける魅力を備えているのは確かだ。先週、Facebookからさまざまなニュースがもたらされた。外出先で安全にアカウントにアクセスできるようにするワンタイムパスワードの提供、つながりを分類できるGroup機能、Microsoftとの提携のBingへの拡大などなど。Facebookの変化を好む傾向は危うくもあるが、ユーザーにとって便利なサービスであり続けようとする努力は伝わってくる。それがFacebook登録者が増え続けている大きな理由の1つだろう。

だが、そのソーシャルグラフを利用しようとする側に対してFacebookはスイートではない。タフな交渉相手に様変わりする。9月にAppleがiTunesユーザーの音楽ソーシャルネットワーク機能Pingを発表したときに、ユーザーからはFacebookとの連係の欠如に不満の声が上がった。その理由をAll Things DigitalのKara Swisher氏がSteve Jobs氏にたずねたところ、Facebookと交渉を重ねたもののAppleが受け入れられない条件を突きつけられたという。それならばと、Facebook抜きで船出してみたが、ユーザーからの反応は芳しくない。

Facebookは今年前半に、Facebookアプリの稼ぎ頭「FarmVille」を提供するZyngaとの交渉で大もめした。Facebook Creditsをめぐる分配比率にZyngaが不満を訴え、一時は全面撤退の可能性が濃厚な緊迫した状態になった。最終的にZyngaが矛を収め、5年間に及ぶパートナー契約で和解したが、TechCrunchの報道によると、その後ZyngaはGoogleから1億ドルから2億ドル規模の投資を受け、またYahoo!とパートナー契約に踏み切った。Facebookとの関係に反するような一連の行動からは、Facebookとの対立の根深さ、それでも離れられない皮肉な現状が浮き彫りになる。

前々回に紹介した映画「The Social Network」に描かれている面々のようにFacebookは強欲なのか? かつてGoogleの検索サービスがそう言われたように、ソーシャルネットワークも金にならないという見方が定着している。だがZyngaの例でわかるように、Facebookはソーシャルグラフの価値を安売りはしない。

苦労して手に入れたものは、何とか使いこなそうとするものである。そこから面白いサービス、革新的な活用法が生まれ、巡り巡ってユーザーに返ってくる。PS3のFacebook対応は、Facebookにとってカジュアルゲームから、より本格的なゲームに浸透するチャンスになる。今は対等な関係だが、ひとたびFacebookのソーシャルグラフを利用したゲームがユーザーに受け入れられたら、交渉カードはFacebookの手中に収まる。うるさい株主みたいな存在ではあるが、Facebookが「ユーザーにとってより便利サービス」を追求している限り、ユーザーの1人としてはソーシャルグラフの価値を掘り起こさせる同社のタフな交渉人ぶりはむしろ頼もしく思える。