Skype創業者のJanus Friis氏とNiklas Zennstrom氏が立ち上げたオンライン音楽サービス「Rdio」のクローズドベータが今月前半から米国で始まった。Twitterのような仕組みを備えたソーシャル音楽サービスである。今やTwitterみたいなソーシャル機能も、音楽のストリーミングサービスもめずらしくないから、なにも新味はないのだが、この2つはとても相性が良く、面白い化学反応を起こしている。

音楽に詳しい人をフォローする

Rdioは、EMI Music、Sony Music Entertainment、Universal Music Group、Warner Music Groupなどのメジャーレーベル、数多くのインディレーベルとライセンス契約しており、これらのレーベルの楽曲をパソコン(Webブラウザ、RIAアプリ)、またはiOSアプリを使ってストリーミングで楽しめる。AndroidアプリとBlackBerryアプリも準備中である。

Rdioには2つの特徴がある。まずユーザーが所有する音楽の「Web版の音楽プレイヤー」である。RIAアプリ「Rdio Desktop」を使ってパソコン内のiTunesまたはWindows Media Playerのライブラリをスキャンすると、自分が所有している音楽がRdioにコレクションとして登録される。あとはインターネット接続さえあれば、いつでもどこからでも自分の音楽コレクションにアクセスして再生できる。

RIAアプリ「Rdio Desktop」でiTunesライブラリをスキャンしてRdioに登録。23,000曲を5分程度で完了

ちなみに筆者のiTunesライブラリ内の23,677曲のうちRdioに登録されたのは7,837曲だった。1割ぐらいは英語圏で販売されていない音楽である。またRdioで再生できるのは同サービスがライセンスを持つ楽曲に限られる。それらを勘案しても少なすぎる。おそらく、まだサービスに音楽を追加し続けている段階なのだろう。新しい音楽をiTunesライブラリに追加していないのに、新しいアルバムがRdioのコレクションに登録されたという通知が毎日届く。

もう一つの特徴は「ソーシャル機能」だ。Rdioでは自分のコレクション、作成したプレイリスト、最近聴いた曲、頻繁に聴く曲やアルバムが全て他のメンバーに公開される。加えて他のメンバーを、Twiiterのようにフォローする機能を備える。

具体的には、アルバムのページに、そのアルバムや収録曲を最近聴いたメンバー、またはプレイリストに入れているメンバーなどが表示される。自分の気に入っている曲やアーティストのページから、自分と音楽の趣味が近いメンバーをたどり、その人のページでコレクションやプレイリスト、ヘビーローテーションをチェックする。他のメンバーのプレイリストや聴いた曲も、ワンクリックで購読したり、自分の再生キューに追加できる。気になる存在だったらフォローすると、その人のアクティビティ(プレイリストの作成・追加、コレクションの追加、フォローの開始など)が自分のダッシュボードに表示される。フォローを通じて自分のネットワークを広げていくことが新しい音楽の"発見"につながる仕組みだ。

曲ごとに、最近の再生傾向、最近再生したメンバー数、コレクションに入れているメンバー数、プレイリストに入れているメンバー数、レビュー数などが表示され、そこから他のメンバーのページに移動可能

メンバーページ。右側にフォロー数、フォローしている数などが表示されるのはTwitterと同じ

メンバーの規模が小さかったベータテスト開始直後は面白いプレイリストが少なく、ソーシャル機能があまり有効ではなかったのだが、2週間でがらりと変わった。最近は自分のプレイリストを聴くことがめっきり減少し、もっぱらフォローしているメンバーのアクティビティから拾ってきた曲やプレイリストを再生している。

フォローしあうRdio上のネットワークはゆるいつながりである。だからこそ、自分のプレイリストが重要になる。プレイリスト作りに力を注げば、より早くネットワークが広がり、プレイリストがユニークであるほどに面白い音楽を聴いている人が集まってくる。これが想像していたよりも面白い。どのような音楽を聴くかは完全にユーザー自身がコントロールし、またメンバー個々がリスナーであると同時にDJでもある。かつてのラジオとも、今日のネットラジオとも違う新しい音楽発見の仕組みである。

Webスタートアップのお手本のようなサービス

Rdioを2週間使ってみて感心したのは、新しいソーシャルネットワークサービスを浸透させる戦略の巧みさだ。例えばソーシャルネットワークサービスのスタートアップが失敗する大きな原因の1つとして「ユーザーの孤立」が挙げられる。アカウントを作ってみたものの、同じサービスを使っている知り合いがいないから楽しめない。FacebookのBret Taylor氏は、サービスに5人以上の知り合いがいなければユーザーは利用を止めてしまうと述べていた。Rdioの場合、ソーシャルサービスでも音楽の趣味でつながるから、サービス内に実際の知り合いがいなくてもネットワークが広がっていく。

またスタートアップがオンラインサービスを定着させるは、その分野に詳しいアーリーアダプタの小さなグループを核に少しずつに拡大していくのが望ましいと言われる。広く浅くは失敗の元なのだ。現在のRdioのメンバー数は不明だが、同じメンバーによく出会うので、それほど大規模ではないだろう。凝ったテーマでプレイリストを作成する人ばかりである。こうしたプレイリストが増えれば、今年後半に一般公開になった時に、カジュアルリスナーもアーリーアダプタのプレイリストを取り込むだけで簡単にユニークな再生キューを作れる環境が整う。ちなみにRdioはクローズドベータだが、完全クローズドではなく、各ユーザーに10人の招待権を与える初期のGmailの手法を用いている。過去のオンラインサービスの失敗例と成功例を調べ尽くした結果、Rdioに行きついたのではないかと疑いたくなるほど周到だ。

不安材料があるとすれば、現在の楽曲数では、日の目を見ずにいる音楽にスポットライトを当て、埋もれてしまった音楽を掘り起こそうとするアーリーアダプタの意欲に応えられない。聴きたい曲は購入すればいいが、勧めたい曲がクラウドに揃っていなければ不満が募るばかりだ。それではアーリーアダプタが離れてしまう。中途半端な曲揃えでは、Rdioは機能しない。

また76年生まれのJanus Friis氏の世代(Niklas Zennstrom氏は66年生まれ)ぐらいまでは音楽との出会いに価値を見出すが、さらに下の世代が音楽の発見に時間を費やしてくれるだろうか? Rdioのアーリーアダプタの年齢層の高さに、古い音楽の発掘にはなっても、新しい音楽の発見にはつながらないような一抹の不安を抱いてしまう。そういえばTwitterも米国では若者には浸透していないという統計データがあったような気が……。