ローリングストーンズの「メイン・ストリートのならず者(Exile on Main Street)」が29日付けのUKチャートのアルバム部門で1位を獲得した。1972年の作品に未発表曲などを加えた再発盤なのだが、米国でもレイトナイトショー(Late Night with Jimmy Fallon)が「ローリングストーンズウィーク」と題し、1週間にわたってミュージシャンゲストにストーンズの曲をカバーさせる盛り上がりぶり。ストーンズ自身も積極的にプロモーションしていたので1位獲得は納得の出来事だ。

プロモーションの中で面白かったのがBBCのミック・ジャガーのインタビューだ。ネットと音楽の問題ついて、インターネットに限らず歴史的に音楽とテクノロジは切っても切れない関係にあったとしながら、今のレコード/CDモデルの論争や、音楽販売の議論は複雑な割につまらないとばっさり。ストーンズがデビューした頃はレコードからまったく収入がなく(売れなかったのではなく、レコード会社が支払わなかった)、1970年になってようやく印税が入るようになり、それから1997年まではミュージシャンにとって天国だったという。しかし、それも違法ファイル共有や違法ダウンロードでつぶれてしまった。ただ過去100年の音楽の歴史を振り返れば、ミュージシャンが経済的に非常に潤った時期は約25年間だけで、その期間のビジネスモデルを音楽業界のあるべき姿としてこだわるのはいかがなものか……という口ぶりだ。今インターネットに対しては、リラックスしてつきあえているという。「誰もが無料ですべてをダウンロードする期間もあったが、今は簡単にモノが買えるグレー期間(gray period)にある。お金がある人は思わず買ってしまうということさ」と、なかなか鋭いコメントだ。今回の「メイン・ストリートのならず者」のプロモーションにしても、Late Night with Jimmy Fallonのようなネットユーザーへの影響力が強い番組などを明らかに優先している。なんとも抜け目ない大ベテランである。

MozillaがオープンWebアプリストアの原案を公開

米GoogleがWebアプリストア「Chrome Web Store」を発表した翌日、Mozilla BlogでJay Sullivan氏がオープンなWebアプリストアに対するMozillaの考えを公開した。

Webはオープンでアクセシブルなプラットフォームであってこそ革新的な場になる。Webアプリストアも例外ではなく、そのために以下のようなオープンWebアプリストアの原案を示し、ネットコミュニティからの意見・コメント、アイディアを求めている。

  • 非互換やロックインの問題を避けられるように、HTML5、CSS、JavaScriptなどオープン標準をベースとしたWebアプリをホスティング。
  • すべてのモダンブラウザで発見、配信、利用できる。
  • 編集、セキュリティ、品質レビューのガイドラインの明示。透明なプロセス。
  • プライバシー保護。
  • すべてのアプリ作成者、アプリ利用者にとってオープンかつアクセス可能な場である。

公開のタイミングを考えると、MozillaはChrome Web Storeが十分にオープンなWebストアではないと考えているように思える。

GoogleはChrome Web Storeのページで「Chrome Web StoreにリストされたWebアプリは、標準的なWebツールとテクノロジで構築された一般的なWebアプリである。同じWebアプリが、これらのテクノロジをサポートする他のモダンブラウザでも動作する」としている。Chrome Web Storeで配信されているWebアプリはFirefoxでも動作するはずだ。だが、実際のところChrome Web StoreはMozillaが考えるオープンなWebストアとは言い難い。

Chrome Web StoreはWebアプリの導入・利用において、Chrome/ Chrome OS専用ストアと言える。Chrome Web Storeから入手したWebアプリはChrome/ Chrome OSにインストールするような形になり、その過程で動作の特徴、例えばローカルストレージの利用などをユーザーにきちんと伝える。Webアプリは自動的にChrome/ Chrome OSのアプリページに配置され、Webアプリ専用タブなどChrome/ Chrome OSでWebアプリはWebアプリとして振る舞う。Webアプリ作成者はWebアプリ自体に手を加える必要はないが、Chrome Web Store向けにメタデータを含む.crxファイルという特殊なZip形式で提供する。

Chrome Web Storeから入手したWebアプリをChromeにインストール。「Webアプリにインストールプロセスが必要か?」という議論も出てきそうだが、アプリケーションを扱っている感覚は強まる

Webアプリ専用タブ(左側の3つ)で、WebアプリとWebページを明確に区別

このChrome Web Storeのインストールプロセスを、他のモダンブラウザがサポートすることも可能だろう。だがChrome Web Storeが目指しているのは、Mozillaが考えるオープンWebストアとは違うものであるように思う。

驚くほど簡単に買えれば、消費者の意識は変わる

完全にオープンではないからChrome Web Storeがダメだと言いたいのではない。現在Chromeのアクティブユーザーは7,000万人超だというが、Webブラウザユーザー全体から見れば、まだまだ少数派だ。それでもChrome/ Chrome OS向けのWebアプリストア提供にGoogleがふみ切ったところが興味深い。

理由はいくつか考えられる。Google I/Oの基調講演では「Webアプリ発見のサポート」を挙げていたが、それだけならばChrome/ Chrome OSにこだわる必要はない。開発者向けのChrome Web Storeのページを読んでみると、Webアプリをアプリケーションとしてユーザーに意識させたいという意志が伝わってくる。開発者にとってWebアプリはアプリケーションだが、ユーザーの多くはテキスト/画像のWebページと同じように接しており、またWebブラウザでの扱いも同じである。Webアプリをアプリケーションとして開花させるには、まずこの意識の違いを解消し、Webアプリがアプリケーションとして扱われるようにする必要がある。

プロダクトマネージメント担当バイスプレジデントのSundar Pichai氏は、Google I/OのQ&Aセッションで、Chrome Web Storeを通じてWebアプリが見つけやすくなり、そして格段に使いやすくなると熱く語っていた。これは試してみたいと思ったが、残念ながら今はその術はない……。筆者が誤解していなければ「使いやすくなる」というのは、ブラウザのブックマークから探し出したり、複数のタブから目的のアプリのタブを見つけ出すというような混乱がなくなり、アプリとしてスムースに利用できるようになるということだろう。また同氏はアプリ開発者が決済・配信に悩まされることなくアプリ開発に集中でき、ユーザーが数クリックで有料Webアプリを購入できる決済サービスの提供も大きなポイントとして挙げた(Google Checkoutがベストソリューションであるかは異論があるところ……)。

ソフトウエア産業には音楽産業ほどの長い歴史はないが、パソコン向けパッケージソフトはレコード/CDに相当するのではないだろうか。約25年間に一部のミュージシャンが潤ったように、パッケージソフト時代に大手ソフトウエア会社が台頭した。いまは移行期を迎えてビジネスモデルに混乱が生じている。Webアプリはより幅広い開発者にチャンスをもたらすものの、そこから収益を上げるのは簡単ではない。一般のネットユーザーはWebブラウザで動作するWebアプリに対して料金を支払って利用するものという感覚はない。iPhoneアプリは、ミック・ジャガーが指摘する「今は(ネットから)簡単にモノが買えるグレー期間(Jaibreakもあるので……)にある。お金がある人は思わず買ってしまう」という状況を提供している。Webアプリもつくり出したいところである。

WebアプリがWebプラットフォームの一部である限りMozillaのようなオープンへのこだわりは必要である。だがテクノロジだけではなく、ビジネス的な観点からもWebアプリのエコシステムを開花させるには、「使い勝手」と「入手しやすさ」の基準を一気に引き上げる試みが今は必要だ。そもそもChromeはWebアプリを実行するためのWebブラウザの進化を導く存在として投入された。Chrome Web StoreはWebアプリを使うための進化を先導する役割を担う。