米国時間の8日に、ひっそりとGoogle Mapsのストリートビューに「Flickr」との連携が追加された。ユーザーフォトを表示できる場所で、GoogleのPicasaとPanoramioのほか、Flickrの公開写真も閲覧できる。Flickrによると、同サービスには9,500万枚以上のジオタグが付けられた写真がアップロードされている。その効果は目に見えて明らかだ。特に規模の小さい観光名所の写真が充実したのはGoogle Mapsのようなサービスでは大きな前進である。Twitterのデータをめぐるかけひきが注目されているものの、大手サービスの間からは久しく唸らされるような"マッシュアップ"が出てこなかった。Google MapsとFlickrが結びついたのはユーザーにとってはうれしい限りだ。

Google Maps。シアトルのスペースニードルで、ストリートビューをユーザーフォトに切り換えてFlickrの写真を表示

ご存じの通りFlickrはYahoo!傘下のサービスで、そのYahoo!は検索分野でMicrosoftと提携している。「なのに、なぜGoogle?」と思っていたら、TED 2010(2月9日-13日)でMicrosoftのBlaise Aguera氏がFlickrの公開写真を利用したBing Mapsの新アプリケーション「Streetside Photos」のテクニカルプレビューを披露した。どうやらFlickrは、同サービスの財産と呼べるユーザーがアップロードした写真の利用をひろく認めていくようである。MicrosoftはTEDに合わせたためGoogleとのズレが生じたのだろう。

Aguera氏の名前でピンと来た方もいるかもしれないが、同社は画像を組み合わせて3D世界を構築する「Photosynth」に、ジオタグが付けられたFlickrの写真を関連づけた。

Microsoftの活用法はGoogleよりも少しだけ革新的だ。Flickrの写真を場所だけではなく、時間でも整理しており、自分が見ている場所に特定の時間のFlickrの写真をオーバーレイできる。たとえば、あるレストランが平日と土曜日の同じ時間でどのくらい混み具合が違うかを確認できる。Flickrで写真が公開されていれば、過去を遡れるという点ではタイムマシーンのようである。なおAguera氏の講演では、Photosynthの空間にリアルタイム動画をオーバーレイするデモも披露された。

Streetside Photos。Photosynthの最新画像によるシアトルのパイクプレース

Streetside Photosで、Flickrから03年6月の写真をオーバーレイ

ちなみに、こうしたマップサービスで公開されるFlickrでのライセンスは「Attribution Creative Commons」「Attribution-ShareAlike Creative Commons」「Attribution-NoDerivs Creative Commons」の3つのいずれかだ。

ノイズ情報の価値を引き出す

人は五感から得た情報に強く印象づけられる。たとえばテキストだけのレストランレビューよりも、数枚でも料理を撮影した写真が見られる情報の方が参考になるし、行ってみたいという気が起こる。

ストリートビューやStreetside Photosは、主に「見る」という感覚に訴える空間検索開発の一環である。3D空間でシアトルのパイクプレースを散策し、市場の店先に興味深いものが並んでいたら実際に行ってみたくなる。パイクプレースのWebサイトを読んで、どんなところか想像するよりもずっと大きな説得力である。

Flickrが他のオンラインサービスに公開写真の利用を認めたのは、これまでに蓄積されきた写真の価値を高めるためだ。Flickrで公開写真の一覧を見ても、なんだかよく分からない写真が多い。おいしそうな料理の写真を見つけても、それだけでは料理のスナップに過ぎない。そこにジオタグが付けられて、マップ上またはストリートビューやStreetside Photosのような空間に関連づけられたら「うまそうなレストラン」の情報になる。これはスマートフォンやタブレットなど、PC以外でのネットサービス利用が広がっているのに対応した動きと言える。

GoogleがGmailに統合した新ソーシャル機能「Buzz」のプライバシー問題が大きな議論となっているが、その発表会において同社は「今日のソーシャルサービスは使えば使うほどユーザーにとって必要のないノイズのような情報で溢れる」と指摘していた。Buzzについては今回触れないが、この指摘は的を射ているし、ここに新たな技術を持ち込むチャンスもある。Flickrのように、ノイズを多くの人にとって価値のある情報に変えようとするのもソリューションの1つだ。MicrosoftのAguera氏は、Bing Mapsの将来の世代においてFacebookのようなサービスの情報も取り込んでいく考えを示した。おそらくFacebookで公開されている写真や動画を取り込むだけではなく、同サービスから発信されている大量の情報を空間に結びつけて整理するつもりなのだろう。