5日(米国時間)に発表されたAndroid 2.1携帯「Nexus One」。Googleブランドの携帯として大きな話題になったが、発表前および発表会で一部のジャーナリストやアナリスト、ブロガーにNexus Oneが配られたことも小さな話題になった。

というのも、米国では昨年12月1日に連邦取引委員会(FTC)が定めた宣伝やお勧めに関する新ガイドラインが有効になったからだ。今回初めてブロガーやセレブ、有名人などを含む規定が盛り込まれており、ブロガーに対してはスポンサー関係の明記を課している。たとえばゲーム関連のブログを書いている学生がゲーム会社から無料で貰ったコピーで遊んで、好意的な感想を公開する場合、"無料提供"の事実をはっきりと読者に伝えなければならない。ほかにも金銭的な支援、広告代理店経由で報酬の発生するレビュー依頼などもスポンサー関係に当てはまる。違反が疑われる場合はFTCが調査を行い、悪質な違反には最大11,000ドルの罰金が科せられる。

話題性の高いNexus Oneのマーケティングに、この新ガイドラインがどのように影響するかが注目されたというわけだ。

昨年のGoogle I/Oでは参加者全員にAndroid携帯が配られたが、今後はFTCガイドライン通知の徹底も必要になる

スポンサーとブロガーの両方に通知義務

5日の発表会でGoogleは、会場に集まった報道関係者やブロガーがNexus Oneの無料進呈を受けるか、または30日間の貸し出しを選択できるようにしたという。

製品レビュー、もしくはそれに近い記事を書く場合、製品の無料提供の機会を断るジャーナリストは少なくない。報酬を受け取ったような関係が明らかになれば、本当に勧めたいときに何を書いても説得力に欠ける。だから自分の意見の価値を落とさないように、貸し出しすら受け入れないレビュワーもいる。

Googleの説明会の招待者は厳選された少数に限られていたため、集まったジャーナリストやブロガーは、その辺りの道理はわきまえていたと思う。それでもGoogleがきちんと30日間の貸し出しを提示したのは、FTCの新ガイドラインがあったためと考えられる。読者にスポンサー関係を伝える義務はブロガーとスポンサーの両方にあり、スポンサー側は支援を行う際にガイドラインへの準拠をブロガーに伝えなければならない。

これまでのところ、Googleからの"無料提供"を明記した上でNexus Oneについて書いたブログは1本しか見あたらない。Googleが発表会に参加した顔ぶれを考えると、貸し出しまたは自腹を選択した人が多かったのかもしれない。

ブロガーとジャーナリストの間を埋めるガイドライン

パソコンや家電製品も対象になるものの、FTCが特に懸念しているのは、一般の体験談を人々が信じやすいダイエットサプリメントや食品、健康関連などだ。クチコミ効果の高いブログやソーシャルネットワーキングを通じて、体験談を装った宣伝が事実と異なる説明につながるのを危ぶんでいる。新ガイドラインはどちらかと言えば、ブロガーよりも企業や広告代理店の自主規制を求めるのが狙いと考えられる。

FTCは、書き込みが宣伝行為に該当するかをケースバイケースで判断するという。新ガイドラインにはグレイゾーンが多く、たとえばブロガーが情報収集のつもりでメーカーとの関係を強めたことがスポンサー関係と判断される可能性もある。そのため一部のブロガーからは、表現の自由を損なうものになるという批判も見られる。

だがこうしたルールが設けられることで、長い目で見れば、ジャーナリスティックに活動しようとするブロガーの可能性が広がるのではなだろうか。

同じブロガーでも、より自由な活動の場をブログに求める"プロのジャーナリスト"は、FTCのルールなど比べものにならないほど厳しいガイドラインを自ら設けている。たとえばWall Street Journalのブログ媒体「All Things Digital」の人気コラムニストWalt Mossberg翁だ。同氏は「Walt’s Ethics Statement」と題して、コラムやレビューを執筆する上でのルールを公開している。取材対象分野の企業から金銭や無料製品の提供を受けない、取材対象分野の企業の株式を取得しない、企業の収益に関係なく製品やサービスそのものにフォーカスするなど、実に細かい。取材対象分野と自身の年金プランの関係にまで言及している。

Mossberg氏はジャーナリストのプロ中のプロであり、多くのブロガーとは一線を画する存在だ。ただ自らの発言の影響を自覚するという点で、同氏の姿勢はすべてのジャーナリスティックなブロガーにとって参考になる。

ここ数年の間にブログが報道媒体としての地位を確立しつつある。数年前には、プレスリリース配信よりも早く発表内容が伝わるのは好ましくないという理由から、基調講演中に会場からのブログ更新が禁止されたこともあった。しかし今では企業やイベント主催者がブログのリアルタイム性や、ブログの影響力を認めており、どこの会場でもライブブロギングをサポートする体制が整っている。

先週参加した北米最大の家電見本市CESでは、開幕前々日にプレスデーが行われた会場のプレスルームがブロガーラウンジを兼ねていた。公開できない情報も飛び交うプレスルームは出入りが厳しくチェックされ、それとは別に比較的容易に出入りできるブロガー用のブロガーラウンジが設けられるのが通常だ。CESのような大きなイベントでプレスとブロガーが同じ部屋を共用というのは、自分の経験では初めてだった。

これまで報道関係者やプロのジャーナリストしか立ち入れなかった世界に、少しずつではあるが、ブロガーも関われるようになってきた。FTCのガイドラインは読者の保護を目的としたものだが、幅広くブロガーが情報発信者としてのルールを考えるきっかけになれば、こうしたブロガーのチャンスがさらに広がるのではないだろうか。