Googleのスマートフォン用の無料GPSナビゲーションサービス「Google Maps Navigation」(ベータ)を体験してきた。音声入力に対応し、また同社のローカル検索と融合しているのが特徴だ。解説ビデオでは「navigate to the museum with the king tut exhibit in san francisco (サンフランシスコでツタンカーメン展を開催している美術館に)」と携帯電話に話しかけただけで、いきなりde Young Museumへのナビゲーションが始まった。なんだか、ちょっと未来的である。


Google Maps NavigationはPND(Personal Navigation Device)と競合する。通常のPNDがフラッシュメモリに地図やPOI(Point of Interest)情報を格納しているのに対して、Google Maps Navigationはデバイス(携帯電話)に地図データがプリインストールされないオフボードナビだ。基本的にインターネット経由でGoogle Mapsやローカル検索機能にアクセスしながら機能する。それゆえに柔軟である。目的知を設定する際に「ピザ屋」や「美術館」など、ローカル検索を使って様々な絞り込みが可能。たとえばナビ中にドーナッツ屋を検索すると、現在地から目的地までのルート周辺のドーナツ屋にピンが立つ。またPOI情報に掲載されていないような会社やレストランであっても、正確な住所を入力することなくビジネス名だけで目的地に設定できる。

"無料サービス"が大きな話題になっているが、個人的にはむしろ「インターネット+Googleサービス」なナビであるところが気になる。これがどんどん進んでいけば、たとえば「次のアポイントメントの場所まで」とするだけでGoogle Calendarから次の約束の場所を取得してルートしてくれたり、Social Searchをベースに「歩いて20分以内で、友だちが勧めているピザ屋に」など、様々な可能性が考えられる。Google Latitudeに登録されている友だちを目的地にするというのも面白そう。その友だちが移動にあわせて動的にルートが修正されるのだ。

簡易ナビとしての信頼性は十分

実際に使ってみたGoogle Maps Navigationだが、実力はローカル検索次第だった。

現状では良くも悪くもシンプルな英語での利用に限られる。たとえば「サンフランシスコのアップルストアまでのナビデーション」とするだけですぐにフラッグシップ店までのルートが作られるし、「サンフランシスコでリチャード・アベドン展を開催している美術館まで」としたら、ちゃんと近代美術館が候補のトップになった。「WWDCの会場まで」「レートの高い中華料理店」「ゴールデンゲートパーク周辺の中華料理屋」などにも対応した。シンプルな英語で、すばやく検索できて便利である。では「サンフランシスコでジョージ・ルーカスが立ち寄ったレストランまで」が可能かというと、そうしたレストランも候補に挙がるが、"レストラン"と"ジョージ・ルーカス"がコメントに含まれていたためであり、文章の意味を反映した結果とは言い難い。

ローカル検索が対応できるシンプルな英語のパターンを把握しないと、Google Maps Navigationの柔軟さが不正確なものに思えてくる。パターンを使いこなせれば、既存のPNDでは不可能なナビゲーションを楽しめる。

現時点で統合されているGoogleサービスはMaps+ローカル検索のみ。GoogleアカウントユーザーがGoogleベースのオフボードナビに期待するのは、日常のネット利用を反映したパーソナルなサービスである。この可能性が盛り込まれていないのは残念なところであり、今後の期待点だ。

音声入力機能は、正確に認識してもらうのが難しい。ただ日本企業名で試したところ、英語発音よりも日本語発音の方がより認識された。だからこれはGoogleではなく、単にネイティブにはほど遠い個人的な発音の問題かもしれない……。

音声入力をサポート。なかなか難しく、発音の訓練を受けているような気分になる。ちなみにArmadillo Willy'sはバーベキューレストラン・チェーン

ナビゲーションのルート沿いにIn-N-Out Burgerを検索。In-N-Outはカリフォルニアのファーストフードでは最もおすすめ

Googleだからストリートビュー・モードでのナビも可能

オフボードナビの課題は圏外エリアだ。3Gサービスを使えない場所ではどうなるのかというと、Google Maps Navigationはルートが確定した時点で目的地までの地図データを携帯にダウンロードしてしまう。インターネットにアクセスできない場所では携帯に保存された以上のデータや機能は使えないが、突然マップが消えてしまうことはない。ナビとしての最低限の信頼性は確保される。ただ広大な米国では都市や高速道路から離れるとすぐに圏外になってしまうので、キャンプなどで使うのはキビしいかもしれない。

無料モデル登場でGarmin株急落

現時点でGoogle Maps Navigationは、既存のオンボードPNDを圧倒するような存在ではない。スマートフォンのボーナス機能としては十分に魅力的という程度である。だが既存のPNDベンダーにとって脅威であることに変わりはない。

Google Maps NavigationにはAndroid 2.0が必要で、現時点で利用できるのは11月6日に米国で発売されたMotorolaの「DROID」のみ。将来的にBlackBerryやiPhoneにも拡大される模様だが、リリース・スケジュールは未定だ。またナビゲーションサービスを有料提供しているモバイル通信キャリアがあるなど、サポート拡大の道のりは険しい。それでも"無料"のインパクトは大きく、10月28日にGoogleが同サービスを発表するや、PNDを提供するGarminやTomTomの株価が急落した。

10月26日から1週間のGarmin株の推移

PNDは安価な簡易カーナビとして、欧米では据置型のカーナビを大きく上回るペースで出荷されている。しかし、ここ数年は低価格競争に向かい、期待されていた携帯電話との融合によるテレマティクス的なサービス向上が鈍っていた。手頃な価格はうれしいが、どれも同じような製品で面白くない。

そうした状況が今年iPhone OS 3.0で変わり始め、そしてGoogle Maps Navigationの登場である。PND市場が一気にあわただしくなった。特にGoogleはナビゲーションサービスの提供が目的ではなく、モバイル検索利用者を増やすための手段として無料ナビゲーションに目を付けたから厄介だ。動機が違うから、ビジネスモデルも異なる。これは先々Googleならではの機能となっても現れるだろう。クラウドからの黒船襲来である。