インターネットのエコシステムに関する2つのレポートが話題になっている。1つはデータトラフィックの爆発的な増加に対応できずにインターネットがまもなく機能トラブルに陥るという大胆な予測、もう1つのレポートは逆にインターネットの進化を指摘している。片や停滞を嘆き、もう一方は変化を評価しているのだが、面白いことに、どちらの道をたどっても最後は一部の巨大ネット企業による支配的な状況の問題に行き当たる。

"インターネットの終わり"を予言しているのは、Nemertes ResearchのJohna Till Johnson氏のコラム「Hello net neutrality, goodbye Internet(ネットの中立性の実現で、失われるインターネット)」だ。

同氏によると、インターネットは毎年50~100%の割合で拡大し続けている。インターネットのコア部分は急速な成長に対応できるだけの準備が整っているものの、問題はアクセスプロバイダーだという。急激なネット需要の伸びは、機材の整備やインフラのアップグレードを含めてプロバイダに重い負担としてのしかかっている。米連邦通信委員会(FCC)が後押しする「ネットの中立性」が法制化されれば、P2Pクライアントのトラフィックだけを拒否したり、ユーザーが利用しているサービスの種類をベースに料金を調整するなどのコスト対策が採れなくなる。そうなるとトラフィックに応じた従量課金を採用せざるを得なくなり、連鎖的に現在Tier 1プロバイダ同士の無料ピアリングによって成立しているバランスが崩れるというのだ。無料ピアリングが見直されれば、考えられる可能性は2つ。1つはエンドユーザーが支払う額に接続コストの増加分を上乗せするか、もう1つは接続が今日のように優先されなくなるという。

仮にピアリングが失われれば、インターネットはいくつかのネットワークの島になってしまう。たとえば2005年にLevel 3とCogentがトラフィック量で仲違いしてピアリング契約を解消した時、それぞれの顧客がアクセストラブルに巻き込まれた。一方サービス提供者はネットユーザーを幅広くカバーするために、すべての島を網羅しなければならない。GoogleやAmazonなど資金力のあるサービスならともかく、中小サービスやスタートアップは世界中につながれるインターネットのメリットを活用しにくくなる。同氏は、これが有力なネット企業がネットの中立性を熱心に支持する理由だと指摘している。

Tier 1プロバイダから離れるネット・トラフィック

ただインターネットが機能不全に陥る寸前だと言われても、正直なところぴんと来ない。実際、今月9日にはYouTube CEOのChad Hurley氏が公式ブログで、Googleによる買収から3年が経ち、YouTubeが1日に10億以上のビューを稼ぐサービスに成長したと語っている。それでもインターネットはがたがたにならずに、YouTubeはむしろ以前よりもきびきびと動作しているでないか……。

そこで19日(米国時間)に発表予定の、もう1つのレポート「NANOG47」だ。これはArbor Networks/ ミシガン大学/ Merit Networkが、ケーブル事業者、トランジット・バックボーン、地域ネットワーク、コンテンツプロバイダなど110組織の過去2年分の詳細なトラフィック統計を分析した調査レポートだ。対象となったトラフィック・データの合計は256エクサバイト以上だという。世界の商用インターネット・トラフィック統計としては過去最大規模になるという点でも注目されている。

同レポートが指摘しているのは「インターネットのエコシステムの変化」だ。インターネットの構造は階層的であり、下位のプロバイダから送られてくる経路情報を上位のプロバイダが保持し、上位のプロバイダ同士が経路情報を交換することで全体の接続性が確保されている。その階層のトップにあるのがTier-1プロバイダだ。ユーザーが契約しているプロバイダは、必ずどこかのTier 1プロバイダにつながっている。ところが、そうしたTier 1プロバイダのつながりから下へと階層的に広がるインターネットの形態が、影響力のあるネット企業の登場で5年ほど前から崩れ始めた。それまでネット上に分散していたコンテンツが少しずつ一部のホスティング企業、クラウドおよびコンテンツ・プロバイダーに集まり始め、今日ではインターネット・トラフィックの大きなボリュームが、大規模なコンテンツプロバイダ、データセンター/ CDN、コンシューマ・ネットワークの間を直接的に流れている。Arborによると、今日インターネット・トラフィックの約30%がLimelight、Facebook、Google、Microsoft、YouTubeなど、30のインターネット企業によって生成・消費されているという。これらの企業を同社は"ハイパー・ジャイアンツ"と呼んでいる。

たとえばYouTubeを含むGoogleのサービスをより快適に提供したければ、今はGoogleのネットワークにどのようにつなぐかが課題になる。下位プロバイダから上位プロバイダへと流れていたトランジットの関係が、ハイパー・ジャイアンツの台頭によって少しずつ崩れ始め、以前はピラミッド型だったインターネットの形態が少しずつ平坦になっている。同時にTier 1プロバイダのビジネスモデルも、従来のIP卸売りから大規模なクラウド/ エンタープライズ・サービス、VPN、コンテンツ・ホスティングなどへと変遷しているという。

平面型の方が相互接続的であり、より効率的なデータ伝送が可能になる。しかしながら3次元的な結びつきのピラミッド型に比べると、平面型は1つがダウンしたときにぽっかりと穴が空く。もし、それが数多くがつながる大きなネットワークなら被害は甚大だ。

以下はArbor Networksが今年5月にセキュリティブログで公開した5月14日(米国時間)の平均トラフィックデータ(北米10のTier 1/ 2)だ。Googleのサービス障害が起こった時間だけすっぽりと落ち込んでいる。

当時は「インターネットの5%(Googleのトラフィック)が消えたらどうなる」というシンプルなグラフだったが、今こうして見ると、急激な落ち込みの背後にある平面型への変化の影響を読み取れる。