【コラム】
ヤンキース戦の中継を見ていたらバックネット裏でポール・マッカートニーが観戦していた。アナウンサーはジャック・ニコルソンとの2ショットばかりを話題にしていたが、Appleウォッチャーは「いま米国にいるのか……」と思ったはず。9日は、どこのイベントに登場するのだろう。
9日のAppleのスペシャルイベントは、ビートルズ作品のほかにも、iPodの新モデルやジョブズCEOの登場など、様々な噂や予想が飛び交っている。個人的には、8月中旬に報道された巨大データセンター建設計画の行方が気になるところである。これはData Center Knowledgeのリッチ・ミラー氏にインタビューしたCult of the Macブログの記事が詳しい。
場所はノースカロライナ州シャーロット郊外のメイデンという街で、建物面積は50万平方フィート。ミラー氏によると、通常のデータセンターは10万から20万平方フィートに収まるというから、まさに巨大データセンターである。バージニア州も候補地になっていたが、税制優遇措置および格安の電気代でノースカロライナ州に決めたそうだ。Duke Energyとの契約での電気代は1kWhあたり4-5セント。カリフォルニア州だと7-12セントはかかるという。
Appleのデータセンターというと、やはり真っ先に思いつくのはiTunes Storeの強化だ。デジタル音楽販売に加えて、映画やTV番組の配信も成長しており、トレーラー映像の提供も増えている。配信コストを削減するために自前のコンテンツ配信ネットワーク(CDN)を強化するのは妥当な一手だろう。
ところがメイデンという場所は接続性がよくない。報道されている契約が事実だとすれば、AppleはCDNに求められる接続性よりも、低コスト性やスケーラビリティを優先していることになる。飛び抜けて大きな規模も考え合わせると、コンテンツ配信ではなく、クラウドコンピューティング強化を見据えた計画というのがミラー氏の見方だ。
今回のスペシャルイベントで、このデータセンター建設の目的が見えてくることはないだろう。しかし、こうしたオンラインサービス強化の姿勢が、今日の製品に反映されたとしても不思議ではない。
03年にiTunes Music Storeを発表したときに、スティーブ・ジョブズ氏はユーザーがデジタル音楽を"所有"できる点を強くアピールしていた。さらに自由になっているので、今ふり返ると当時は制限がきつかったように感じるが、その頃はiTunes Music StoreがレコードやCDの利用スタイルに最も近いオンライン音楽ストアだった。iPod/ iTunes/ iTunes Music Storeの成功はiPod人気にけん引されたものだったが、音楽ファンの音楽の楽しみ方をよく捉え、巧みにデジタル音楽に反映させたのも大きかったと個人的には考えている。その後に登場したWindows Media DRMをサポートする音楽配信サービスは、ひと月十数ドルのサブスクリプションを支払えば数百万曲を自由に聞ける。こちらの方が圧倒的にお得なサービスに思えたが、消費者には浸透しなかった。後発の不利に加えて、レコードやCDとあまりにも違いすぎて、その利用スタイルやメリットを消費者がイメージできなかった影響もあったと思う。
さて、これまでなんの不満もなくiPod/ iTunesを使い続けてきたのだが、最近ここに割って入ってきたサービスがある。Lala.comだ。
中古音楽CDのオンライン交換サービスとしてスタートしたLalaは、08年6月にユーザーが所有する音楽をLalaにアップロードし、それらをWebストリーミングで聞けるようにするサービスを開始した。
アップロードは大変な作業になるが、すでにLalaのサーバに存在する曲は登録されるのみで、サーバにない曲だけがアップロードされる。そのため数百曲でも数分で完了する。無料だし、もしかしたらストリーミングを使う機会があるかもしれないと思って、とりあえずiTunesライブラリをアップロードしてみた。これが予想以上に便利で、利用する機会が多いのだ。Webベースだから、どのパソコンからでもすぐに自分のライブラリ内の音楽を再生できる。インターフェイスはiTunes風で、iTunes DJに相当するプレイリスト機能もある。Webプレイヤーは軽快に動作し、マシンへの負担が少ないのも気に入っているポイントだ。
「所有している音楽をアップロードしてストリーミング利用する」……購入者の権利として問題ないのだろうが、レコードとCDで同じアルバムを買いなおしてきた身には、最初は強引なこじつけに思えた。曲によっては登録されるだけだ。違う見方をすれば、他人がアップロードした曲を共有することになる。分かっていても、「それは自分の曲なのか……」と感じてしまう。ユーザー本人がそう思うぐらいだから、当然レコード会社にとっては面白くないサービスだっただろう。
しかし変われば変わるもので、GmailやAmazon.comの電子ブックストアなどクラウドサービスの利用が増えてくるにつれて、Lalaに対する抵抗感もいつの間にか霧散してしまった。いまでは登録するだけのLalaのアップロードが、非常に効率的な仕組みに思える。昨年10月にLalaは、このストリーミング・サービスのみで再生できる音楽販売サービスを開始した。1曲10セントだ。DRMフリーのMP3楽曲も79-89セントで販売しているが、ストリーミングサービスを使う機会が増えてからは、購入に迷うような曲はストリーミング版で入手している。以前だったら、こんな買い物も考えられなかった。
Appleの4-6月期決算で、同社のCOOであるTim Cook氏が、iPod、iPod nano、iPod shuffleなどトラディショナルなスタイルのiPod製品の縮小を明らかにした。その分の市場はiPod touchやiPhoneに引き継がれていく。これらは多機能でモバイルアプリをサポートし、そしてネット端末である。レコードやCDに思い入れがなく、ネットでの音楽サービスになじんでいるユーザーが少なからず含まれるだろう。
今回はiPhone/ iPod touchへのシフトを明らかにしてから、初の音楽・映像関連のスペシャルイベントである。個人的には、その点に最も注目している。iPhone/ iPod touchへのシフトは、サービスモデルが仕切り直しの時期を迎えたことも意味する。こうした新世代(iPhone/ iPod touch)ユーザーの心を、どのようにしてつかむのか。03年のイベントのような展望のある展開を期待している。
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