Webサイトのパフォーマンスを議論するカンファレンス「Velocity 2009」で、GoogleとMicrosoft (Bing)の競演が実現した。Webサイトのスピードの変化がユーザーに与える影響を実験した結果を、両社がレポートするセッションだ。パネルセッションでそれぞれの代表が意見を述べ合うことはよくあるが、両社が協力して1つのセッションを作り上げたのは、少なくとも筆者の記憶では初めてだ。Bingの開発リードを務めるEric Schurman氏によると、Webサイトのスピードは速い方が好ましいのは明らかだが、現実的にはサービスの精度向上や機能追加とのバランスの見極めが重要になる。その判断を手助けするデータが少ないことから、両社の競演が実現したそうだ。

両社が披露したのはサーバ側の遅延に対するユーザーの反応のデータだ。Microsoftは5つの小グループに対して、検索結果を表示する前に50ms、200ms、500ms、1,000ms、2,000msの遅延をはさみ込んだ。そして通常のユーザーの反応との比較で、それぞれがユーザーに遅延が与えるネガティブな影響を集計した。結果は以下の通りだ。

遅延時間 ユーザー単位の検索数 検索絞り込み ユーザー単位の収入 クリック数 満足度 結果クリックまでの時間
50ms
200ms -0.3% -0.4% 500ms
500ms -0.6% -1.2% -1.0% -0.9% 1200
1000ms -0.7% -0.9% -2.8% -1.9% -1.6% 1900
2000ms -1.8% -2.1% -4.3% -4.4% -3.8% 3100

遅延の長さに比例するようにネガティブな影響が拡大している。遅延による満足度の減少から検索絞り込みやクリック数が減少するのは予想できるが、結果をクリックするまでの時間も長引いている。この点についてSchurman氏は「わずかな遅れでも、ユーザーの検索への集中を逸らす要因になる」とした。

減少は数%にとどまるものの、これが長期に及べば損失の規模は大きくなる。ユーザー数が数百万単位であれば、なおさらだ。Googleはヘッダの後に入れた200msと400msの遅延が各ユーザーの1日の検索数に与えた影響を、時間の経過を含めて示した。

遅延が各ユーザーの1日の検索数に与える影響。黒線が200msの遅延、赤線が400ms

遅延時間が長いほどネガティブな影響が大きく、また6週間にわたって同じ割合のまま拡大した。

続いて下の表は7週目に遅延を取り除いた後の動向をトラッキングしたものだ。

遅延がなくなると、すぐにユーザーの検索数も向上したが……

通常のスピードに戻ると、すぐに検索数は回復したものの5週間が経過しても0%のレベルには戻らなかった。また、このパフォーマンスに差のない段階においても200msのグループが-0.08%、400msのグループが-0.21%と、400msのグループの検索数の方が大幅に少ない。パフォーマンス低下の影響が根強く残っている。GoogleのJake Brutlag氏によると、-0.08%は無視できる範囲であるものの、400msのグループの-0.21%は下落と判断されるそうだ。

「"スピードこそが重要"というのは、単なるリップサービスではない」というのが両者の結論である。500ms以下の遅延であっても、ユーザーの満足度や集中を引き下げるという点ではビジネスに影響を及ぼす。また遅延による負債は時間と共に増加し、そして負の影響が大きいほどに回復が難しくなる。

ユーザーの目をページにとどめる

Microsoftはサーバー側の遅延のほかにも2つのテストを行っていた。まずページ・ファイルのサイズが与える影響だ。長いコメントがページの最初の方にあるほどユーザーに嫌われる傾向が認められたものの、今日の検索サイトとブロードバンド回線の組み合わせにおいてページ・サイズの影響はほとんど見られなかった。およそ5倍のサイズにしても、クリック数で-0.55%、検索数では変化なしだった。

もう1つはプログレッシブ・レンダリングだ。ページ全体をまとめて表示するのではなく、素速く表示できるヘッダ部分を検索結果部分よりも先に提供する。結果は検索絞り込みで+2.2%、クリック数で+0.7%、満足度で+0.7%の効果が見られた。また、ユーザーが結果をクリックするまでの時間も9%短縮された。ヘッダは検索結果に関係ないものの、先にヘッダが表示されれば、ユーザーの集中が途切れず、またBingのヘッダには検索ボックスが含まれるためユーザーがすぐに絞り込みについて考え始める。ページ全体が素速く表示されるのが最も望ましいものの、表示にギャップがある場合はユーザーの作業を継続させる工夫が効果を発揮する。

赤線より上がスピーディに表示できるヘッダ部分

これら3つのテストを総合すると、ユーザーがインタラクトできるかが、スピードのバランスを見極めるポイントであるように推測できる。例えば検索の結果が素速く返ってきて、調子よくリサーチを絞り込めると、われわれはWebサービスを使いこなしている気分になる。逆に検索サービスの反応が遅いと、Webサービスに囚われているような気分になり、集中が途切れてしまう。スピードの違いによってユーザーの心理が変わり、それがWebサービスのユーザー体験に影響する。ユーザーがWebサービスを使いこなしている状態にとどめておくのがポイントである。とはいえ500ms以下のわずかな遅延であってもユーザーの満足度が減退するという両社のコメントは非常に厳しいレベルである。だが逆の捉え方をすれば、スピードの追求には大きな見返りが期待できることを指し示すものでもある。