【コラム】
サンフランシスコの町を散歩したりドライブしていると、時々はっとするような芸術的なグラフィティに出会う。歩道橋の真ん中やビルボードの裏側など、一体どうやってペイントしたんだろうと思わせるところに描かれているものもある。それに比べると、夜中に手早くシャッターに落書きしたのが丸わかりの中途半端なグラフィティの狙いは何なんだろう。メッセージを伝えたくても習作以下にしか見えない出来では逆効果だろうし、マーキングだとしてもあれじゃチームの士気が下がるんじゃないか。練習せずにライブデビューしたミュージシャンの演奏のようなグラフィティを見ていると、街の景観破壊うんぬんよりも先に、ペイントを購入して捕まるリスクを冒してまでやってるのに結局これかい……みたいなトホホな気分になってしまう。ただ、そんな落書きの方が圧倒的に多い。グラフィティを推奨するわけではないが、絵心のある人なら、それらを眺めながらこっそりと「オレならこう塗る!」と思ってしまうのではないか。
カリフォルニア州バークレーにあるearthmineというスタートアップが「Wild Style City」というオンライン3Dマッピングサービスを開始した。Googleのストリートビューのように街(現在無料公開されている場所はサンフランシスコのみ)を散策でき、実際の街をキャンバスにビルや建物の壁面にグラフィティを描ける。ローラーとスプレー、マジックなどのペイント・ツールは、ちゃんとグラフィティ・アーティストの意見を聞いて設計したという。ただ、いきなり描いてみてもうまくいかない。earthmineのスタッフが実演すると、ホンモノのような見事なグラフィティが出来上がる。なにごともテクニックと修練である。
ホンモノのグラフィティと同様、Wild Style Cityのグラフィティも誰かが描いた作品を塗りつぶしてペイント可能だ。ただし、オンラインサービスだから塗り重ねられた後でも、その下にある古い作品を閲覧できる。またグラフィティに投票する仕組みも用意されている。今のところ支持されている作品の上位リストのみだが、コミュニティによるブーイングにスポットライトを当てる仕組みも考えているようだ。これがどのように機能するかが興味深いところである。サンフランスコのヘイト-アシュベリーのようなグラフィティをある程度認めている地域でも、きちんと管理しないとすぐに荒んだ街という雰囲気になってしまう。投票によって街の雰囲気を損なわない作品のみが残るのなら、グラフィティと共存する手段として評価システムは効果があるかもしれない。
Wild Style City提供の狙いはearthmineの技術紹介にある。仮想グラフィティ・サービスなんて始めると柔らかい会社と思われそうだが、同社は2年ほど前から都市の3Dキャプチャ技術で注目されてきた。当時Googleのストリートビューがビデオ撮影した低い解像度であったのに対して、earthmineは距離を測るレーザーと複数の角度から撮影した写真の組み合わせによる精細な360度のパノラマ世界をアピールしていた。ところが、その後Googleもストリートビューを改善し、今日サンフランシスコに限ればストリートビューの方がよりリアルなパノラマ世界を実現している。そこでearthmineは作戦を変えて、3D世界にフィットする形でイメージ・レイヤをマッシュアップする技術の組み合わせをアピールし始めた。
Wild Style Cityのアプリケーション自体はFlash Viewer APIを通じて開発され、Flash、FlexまたはAIRベースのアプリケーションからearthmineのデータ・ライブラリにアクセスできるように設計されている。Wild Style CityはWebブラウザを通じて誰でも無料で利用できるが、earthmineはこの3Dマッピングのデータを有料サービスとしてビジネスユーザーに提供する計画を持っている。例えば不動産や建築、テーマパーク、インフラ管理など可能性は様々だ。全ての都市をキャプチャしようとしているGoogleのストリートビューに対して、特定の範囲に限定した用途ならばプライバシー問題をクリアしやすい。
今日こうした技術のライセンシーとして有望視されるのが地方政府である。ネットを活用した透明度の高い政府を目指すオバマ政権の誕生に経済危機も加わり、今年の初め頃からWebの力による政府改革が大きなトピックになっている。例えばWeb 2.0ブームの火付け役であるO'Reilly Mediaが、今年9月にGov 2.0 SummitというWeb技術を用いた政治・経済の再建を議論するカンファレンスを開催する。シリコンバレー企業にとってGov 2.0に絡む技術やサービスはグリーン技術と共に、今日の大きなビジネスチャンスになっているのだ。earthmineもその1つである。例えばサンフランスコ市が進めているダウンタウンの路上駐車場改革において、サンフランシスコの3Dマップに駐車スペース案や関係者の意見を書き込み、その変化する街を市民が散策できるようにすればどうだろう。Wild Style Cityのグラフィティのような投票システムを設けるのも面白い。
グラフィティは描いて楽しくクールだから注目されやすい。そして"都市問題"でもある。だからearthmineは技術アピールの手段としてグラフィティを選んだのだ。
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