Googleに対する米反トラスト規制当局の監視が厳しくなっている。まず4月末に、Google Book Searchが独禁法に触れる可能性を米司法省が調査しているという報道があった。昨年10月にAuthors Guildおよび米出版者協会とGoogleが和解。権利の所在が不明な著作物(orphan works)のデジタル化をGoogleが一手に担うことになった。これが問題視されている。続いて先週にGoogleとAppleの癒着を米連邦取引委員会が調査し始めたという報道が出てきた。これはGoogle CEOのEric Schmidt氏とGenentech CEOのArt Levinson氏がともにAppleとGoogleの取締役を兼任しているためで、モバイル市場の競争を損なう可能性が疑われている。

逆風の強まりに対してGoogleは欧米において政治家、シンクタンクの代表、研究者、ジャーナリスト、広告代理店、業界団体に事業方針を説明する取り組みを開始、その内容をまとめた「競争とオープンネスの6原則」を公開した。また投資家向けサイトで提供していた「2008 Founders' Letter」を、7日にGoogleの公式ブログに掲載した。これは同日に開催された株主総会向け資料の一部ということだが、Googleの独占が話題になっているタイミングだけに世論対策の目的が強い印象を受けた。

だが、こうした競争とオープンネスをアピールするGoogleの説明も、すぐに反論の的になるのが現状である。Googleが「競争とオープンネスの6原則」を公開するや、消費者団体のConsumer WatchdogがGoogleの「競争とオープンネス」というプレゼンテーション資料に赤ペンで反対意見を書き込んだものを公開した。

Googleのプレゼンテーションに「競争とオープンネス」に赤字を入れたConsumer Watchdogの反論

巨大になれば強大な力が備わる。どのような企業でも"悪の帝国"のように見られるのは避けられない。しかし「邪悪になるな (Do no evil)」を標榜してきたGoogleだけに、米規制当局の対応が注目されている。打つ手を間違えれば、今日の経済情勢をさらに混迷させかねない難しい問題と指摘されている。

Googleの主張はCharm offensive?

Googleが公開した「競争とオープンネスの6原則」は以下の通りだ。

  • 他のビジネスの競争力強化を支援
  • ユーザーの乗り換えを容易に
  • クローズドに勝るオープン
  • わずかワンクリック差に過ぎない競争
  • クリックに対して、広告主はそれぞれに見合った価値を支払う
  • 動的な市場で、広告主が複数の選択肢を活用

補足すると、ユーザーの乗り換えというのはオープン形式などを含むサポートだ。例えばGoogle DocsからはWord、PDF、OpenOffice.orgなどの複数の形式にエクスポート可能である。Googleのサービスを媒介に、ユーザーは好みのソフトウエアを利用できる。

ワンクリック差の競争というのは、OSやソフトウエアの乗り換えと違って、Webサービスの場合はブックマークから異なるサービスを選択するだけで簡単に乗り換えられる点を指す。一例としてGoogleは1月31日のコーディング・エラーを挙げている。同社のWeb検索が30分にわたって機能せず、その間にYahoo!の利用が倍増した。わずか30分のトラブルでも変化する競争の激しい世界というわけだ。今月の18日には、Googleキラーの呼び声が高いWolfram|Alphaが登場する。新テクノロジの台頭によっても、すぐに逆転が起こる可能性がある。

独占的という批判に対してGoogleはマクロな視点で反論している。テレビやラジオ、ビルボードなども含めた広告市場全体における同社のシェアは3%程度であり、市場をコントロールするような力はないという。

だがWeb検索に限れば、今年に入っても3分の2程度のシェアを維持し続けている。Consumer Watchdogは検索広告を含むWeb検索分野におけるGoogleの独占、さらに広告オークション・システムやクオリティ・スコア、PageRankなどの不透明性を指摘。Googleの主張を「行動が伴わないCharm offensive(自身のカリスマ性をアピールして支持者を引きつける広報行為)」と手厳しく批判している。

必ずしも悪ではないモノポリー

今のGoogleの状況を90年代のMicrosoftに重ね合わせる見方が多い中で面白かったのは、Wall Street Journal紙に掲載されたJames Stewart氏の分析だ。今日のGoogleを「ナチュラル・モノポリー(Natuaral Monopoly)という稀少な例」と表現している。Googleは独占的だが、技術と先見性、そして邪悪にならない産業規模の取り組みによって競争を勝ち抜いてきたのもまた事実であるというのが同氏の見方だ。Web検索のようなビジネス的にも成功している分野もあるが、Googleには理想やテクノロジを追求しているだけのケースも多い。例えばBook Searchについて2008 Founders' Letterの中でSergey Brin氏は、絶版の書籍を残し、それらに世界中の人がアクセスできる環境を整える目標を語っている。しばらく前まで同サービスにはいくつかのライバルが存在したが、採算が合わず次々に撤退した。結果的にGoogleの独占状態になったものの、同サービスのビジネスの見通しには今なお疑問符が付くし、同サービスには社会貢献の意味合いが色濃い。米当局がしゃにむに競争ばかりを奨励すれば、「モノポリーは違法行為を伴うどころか、必ずしも悪ではないという事実を見逃す」とStewart氏は警告している。

巨大化するGoogleに対して規制当局は厳しい目を向け続けるべきである。ただし"ナチュラル・モノポリー"なGoogleへの対応を誤ると、クローズドな見かけだけの競争になりかねない。Googleの独占的な力を認めながらも、規制当局が慎重になっている所以である。