米国時間の4月24日にAppleのオンライン・アプリストアApp Storeが10億ダウンロードを達成した。iPhoneアプリが出回り始めてからすでに2~3年は経過したような錯覚を覚えるが、まだ9カ月である。この短期間でのマイルストーン到達は、iPhone人気に拠るところが大きいのは疑う余地がない。だが、Appleとしては先々むしろiPhoneアプリがあるからユーザーがiPhoneやiPodを選択するような状況に持ち込みたいだろう。昨年後半から米国のApple StoreをiPhoneアプリのアイコンで飾り付け、決算発表やイベントでの情報アップデートでは必ずiPhoneアプリ開発者コミュニティの広がりをアピールしていたところにiPhoneアプリへの意気込みが現れていた。その点で10億ダウンロード・キャンペーンを13歳のティーンエイジャーが「Bump」をダウンロードして射止めたというのは、出来すぎというか……Appleにとって最も望ましいシナリオになったと思う。

10億ダウンロード・キャンペーンに運も見方?

「Bump」。現在配布中のバージョンは無料。近々、写真の送受信や複数プロフィールの使い分け(個人、仕事、学校など)、複数コンタクトなど多機能な有料版を提供開始するという

これまでのところiPhoneアプリの主力はゲームであり、欧米ではiPhone/ iPod touchがニンテンドーDSやPSPのライバルになるという見方が定着している。その一方で「iPhoneプラットフォームは高い」というイメージも根強い。実際には今やiPod touchを229ドルから入手できるのだが、iPhone初代モデルを経てきた米国では「iPhoneプラットフォームは大人向け」と見る向きが多く、今回の"13歳"のキャンペーン勝者はiPhone/ iPod touchのティーンエイジャーへの浸透を強くアピールするものになった。

10億番目を射止めたティーンエイジャーがiPhoneとiPod touchのどちらのユーザーかは分からないが、ティーンエイジャーに多機能電話を持たせるのに難色を示す家庭も多い。そうなるとiPod touchの存在がiPhoneプラットフォームの強みになる。Android MarketやWindows Market Placeなどモバイルプラットフォームのライバルが増える中で、これはポイントだ。

10億ダウンロード目がコンタクト情報交換アプリの「Bump」だったというのもAppleにとってプラス材料だった。Bumpは文字通りバンプ(衝突)させてコンタクト情報を無線で交換するツールである。詳しくはこちらの記事を読んでいただきたい。今年夏に登場するiPhone OS 3.0ではBluetoothのピアツーピアの利用例としてコンタクト交換が挙げられているが、Bumpはデータをインターネット経由で交換することでiPhone OS 2.2でも同様のソリューションを実現している。開発者のアイディアが伝わってくるアプリであり、だからAppleは1億ダウンロード達成時にはプレスリリースに記さなかったアプリ名を今回は公表したのだろう。これが、おならアプリのiFartだったら10億ダウンロードの盛り上がりも微妙なものになってしまう……。

プレスを凌駕するApp Storeの宣伝効果

今回のBumpのようにプレスリリースできっちりとアプリが紹介されれば、開発者にとって励みになる。10億ダウンロード・キャンペーンがユーザーのアプリ・ダウンロードを促したのと同じように、今後は節目のイベントをプロモーションのチャンスと見てアプリ作成に勤しむ開発者が増えそうだ。

iPhoneアプリの開発者の1人であるBuster McLeod氏が、3月17日にApp Storeで発売開始されたローカル食材アプリ「Locavore」の1ヶ月間の販売データを公開している。

Locavoreは、ユーザーのロケーションを基に、その地域の季節の野菜や果物、地元農家によるファーマーズマーケットの情報などを提供する。すぐにGizmodoやLifehackerなどの人気サイトで紹介され良好なスタートを切ったが、販売動向が劇的に変わったのは21日目~22日目にAppleのApp Storeのフロントページを飾ってからだ。1日に50件前後、人気サイトに取り上げられても500件近くだった1日の売上げが一気に1,000件程度に伸び、その状態がしばらく続いた。McLeod氏は「最も望ましいプレスによる紹介の効果も、Appleのマーケティングチームからの祝福には遠く及ばなかった」とコメントしている。iPhoneプラットフォームという閉じられた世界なのでAppleの力が強いのは想像できたが、これほどまでとは驚きである。

Locavoreの発売から1カ月の売上げ動向

iPhoneアプリ開発者にとって気になるのは、どうすればApp Storeのフロントページを飾れるかだ。AppleのマーケティングチームもApp Storeを盛り上げるためにフロントページで紹介するアプリを吟味している。だから「"面白いものをつくる"というマーケティング/ プロモーションの鉄則が生きており、すべてはわれわれ次第である」とMcLeod氏。ユーザーの"役に立つ"ユニークなアプリであること、そして適正な価格がApp Storeチームの目にとまるポイントになるという。

このようなデータを見たらAppleの支配的な力を問題視する声も出てきそうだが、今のところAppleの力が開発者のアイディアを引き出し、ユニークなアプリの登場がわずか9カ月での10億ダウンロードにつながるという理想的な流れの中で拡大し続けている。McLeod氏に「役に立つアプリをつくるのが売上げを伸ばすポイント」と言わしめたところに今日のiPhoneプラットフォームの強さが現れている。