Googleのサービスでお気に入りのものを挙げてもらえば、洋の東西を問わず、Gmail、Googleマップ、Web検索あたりで上位が占められるだろう。だが、個人的にはGoogleが2007年7月に買収したGrandCentralを推したい。使い始めてから電話利用が一変した。限定数ベータのため米国でも利用者が少ないものの、使った人の評価は高い。そのGrandCentralをGoogleは11日に、「Google Voice」という名称のGoogleサービスとして再デビューさせた。使ってみないと便利さを実感しにくいサービスであるためあまり話題になっていないが、GrandCentralのGoogleサービス化は様々な意味で2004年にGmailがスタートした時を思い出させる。うまく受け入れられれば、業界をひっくり返しそうなインパクトを備える。

生涯ひとつの電話番号

GrandCentral(=Google Voice)は、電話番号を電子メールアドレスのように扱えるようにするWebベースのサービスだ。契約すると電話番号がひとつ割り与えられる。次に自分のアカウントのページに行って自分の電話を登録する。すると、Google Voice番号にかかってきた電話が登録番号に転送されるのだ。例えば自宅の電話と携帯を登録しておけば、2台の電話が同時に鳴り、どちらでも受けられる。家族や一部の友人からの電話は携帯に、仕事関係はオフィスの電話、その他はボイスメールというように、相手によって振り分けることも可能だ。

Google Voice番号を自分の電話番号とすれば、引っ越しや電話会社を変更しても自分の電話番号は変わらない。「生涯ひとつの電話番号」を実現してくれる。これがGoogle Voiceを利用する最大のメリットだ。

電話は手軽にコミュニケーションできる便利なサービスだが、ユーザーが電話機にしばりつけられるという点で非常に不便なサービスとも言える。携帯によってモバイルが可能になったものの、サービスが端末にしばられることに変わりはない。Google Voiceは電話サービスを端末ではなくユーザーに結びつけ、ひとつの電話番号をどのような電話機でも利用できるようにした。まず、これがGmailのインパクトを思い出させる第1点だ。

Gmail以前は、ISPから提供されたメールアドレスを利用し、メッセージはパソコン内の電子メールクライアントで送受信していた。パソコンにしばられていたため、パソコンが変わるとメールにアクセスできない。またISPを変更するとメールアドレスが変わってしまう。大容量ストレージでクラウドにメールボックスを移管させたGmailは、これらの問題を解決し、無料サービスで「生涯ひとつのメールアドレス」を実現した。

Labsで新機能を提供できるGoogleの強み

2つめの共通点は"アーカイブ&検索"だ。GmailでGoogleは、メールを削除せずに貯めっぱなしにし、整理もラベル付けだけで、必要なメールは検索機能で掘り出すという利用スタイルを提案した。

GrandCentralも同じだ。ボイスメールをメールのようにアーカイブしておける。Google VoiceではWeb版のユーザーインタフェースがGmailのようになり、よりメールのようにボイスメールを管理できるようになった。またボイスメールを自動的にテキスト化する機能が追加されたことで、メッセージを再生せずに内容を確認できる。これにより検索機能との親和性も高まった。

ボイスメールを視覚的に確認できるGrandCentralのインボックス。ボイスメールを並べたiPhoneのビジュアルボイスメールのようなUI

Google VoiceはGmailのようなUIに。SMSや低価格な国際電話サービスが追加され、コミュニケーションハブのような役割が強化された

自分のような個人事業の場合、一つ一つの電話に対応できない時間の方が多い。GrandCentralを利用するようになってから、重要な相手からの電話は携帯に転送し、残りはすべてボイスメール設定にしておいてWebページから管理するようになった。ボイスメールは電子メール同様にフラグを立てたりメモを付けて振り分けたりしながら、緊急の用件以外は時間があるときにまとめて対応している。

3つめの類似点は"Webブラウザ版への引き込み"だ。最近自宅のPCからでも、WebブラウザでGmailを使うことが多い。Gmail Labsが始まってからのGmailの進化はめざましく、マルチトレイ、ToDo、ビデオチャット、SMS送信、ロケーション機能、テーマなど、実に豊富な機能を備える。次々に新しい機能が追加され、パーツを交換するように自在にカスタマイズできる。これはWebサービスならではの柔軟性であり、メールソフトでは味わえない面白さだ。

昨年後半からGoogleにおいても不採算サービスがカットされている中で、Gmailはまるで聖域であるのかのようだが、この注力の背景には広告がある。comScoreの調査によれば、Gmailの08年のユニークビジター数は43%増の2,960万だった。数だけを比べれば、Yahoo!の9,190万、Hotmail(MS)の4,350万を下回る。だが伸び率はそれぞれ11%増と5%減だ。トップ3の成長ペースが変わらなければ、Gmailは今年中にHotmailを抜き、11年頃にはトップに躍り出る可能性がある。メールはターゲット広告に使いやすく、景気低迷で広告費が削減される中、この伸びの強化は自然な流れと言える。

Googleはいまだに"Beta"を冠するGmailで、Labsという名前の下で大胆に新機能を投入している。そんな危なっかしいサービスを提供できるのは、アカデミックな社風のGoogleだけだろう。信頼性が求められるメールサービスでMicrosoftやYahoo!が同じことをやれば、批判の対象になる可能性が高い。ところがGoogleの自由さが、伸び率の違いになって現れている形だ。

Google VoiceもGmail同様に、電話をWeb版で管理してもらうほどに広告と絡めやすくなる。ボイスメールの自動テキスト化は、広告掲載を見据えた機能でもあるだろう。加えて電子メール同様に、電話もあまり遊べないサービスである。機能よりも信頼性や安全性が重視される。だが、すでにGoogle Voiceは豊富な機能を備えている。これもGoogleならではだ。そのうちGoogle Voice Labsが用意されても不思議ではない。