CES取材から帰ってまいりました。今回の私個人のベストオブCESは、会場で偶然見つけたCloud Enginesの「Pogoplug」でした。

ShowStoppers会場で机ひとつ分の小さなスペースに黒山の人だかりができているブースがあった。それがCloud Enginesだった。聞けばサンフランシスコの会社で、スタッフの1人は日本で暮らした経験があるという。それなのに、これまで全く聞いたことがなかった。

Cloud Enginesが3月発売を予定しているPogoplugはNASアダプタと言える。ACアダプターのような形状をしていて、有線LANとUSB 2.0用のポートを1つずつ備える。Pogoplugをコンセントに差し込み、USBストレージ(外付けHDD、USBドライブなど)とブロードバンドルーターを接続。my.pogoplug.comでPogoplugコードを登録すればセットアップ完了だ。Internet Explorer (v7以上)、Firefox、Sarari、Opera、ChromeなどのWebブラウザから、インターネット経由でPogoplugに接続したストレージにアクセスできる。iPhoneアプリも用意するそうだ。また専用ソフトをインストールすれば、WindowsではWindows Explorer、MacではFinderからネットワークドライブとして扱える。

ネットワークドライブ内のデータをクラウド化する「Pogoplug」。Macユーザーの心に響く製品なので、もう少しデザインをなんとかしてほしい……

Webブラウザからのストレージにアクセスするmy.ogoplug.comは単なるファイルブラウザではなく、保存されているファイルを写真/ビデオ/音楽、アルバムなどで分類するメディア管理機能を備えていた。このWeb版がWebサービスとしてどんどん進化するのがPogoplugの特徴のひとつだ。Cloud Enginesは同サービスのAPIを提供する計画で、すでに他のサービスとの連携でバックアップ、ファイル同期、写真印刷などの追加を予定している。

WebブラウザからPogoplugに接続したストレージにアクセス。メディア管理機能を備える

MacのFinderからPogoplug接続ストレージにアクセス

ネットワークドライブとクラウドを結ぶ「CloudPlug」

CESでは、似たような製品としてイスラエルのCTERA Networksの「CloudPlug」というのもあった。やはりLANポートとUSBポートを備えたACアダプタ型のNASアダプタで、こちらは接続したストレージをネットワークドライブとしてのみ使用する。CloudPlugはネットワークドライブ内のファイルを自動的にオンラインストレージにバックアップする。CTERAは、このオンラインバックアップを引き受けるISPやMSPとのパートナーシップをビジネスモデルとしている。ISPなどがオンラインにバックアップされたファイルに、PCやスマートフォンなどからアクセスできるようにするのを次世代のブロードバンドサービスとして思い描いているという。同社は、この仕組みと技術を「Cloud Attached Storage」と呼んでいた。

CTERAの「CloudPlug」

ローカルドライブがクラウドにつながる快適さ

Flickrのジオタグ機能やPicasa Web Albumsの顔認識機能などは便利だが、これらのWebサービスは写真をアップロードしなければ利用できない。その作業が面倒だ。例えば私の場合、出張前に仕事が終わらず、旅先のホテルで原稿書きという悲惨な状況が度々ある。そのため過去数年分の写真を2.5インチHDDの外付けドライブに入れて持ち歩いている。一度Flickrに全ての写真をアップロードして、いつでもどこからでも引き出せる体制を作ろうと試みたことがあったが、タグを付けてアップロードするだけでも面倒すぎてあきらめた。取材が続けば、写真は月1,000枚近くになる。ローカルドライブに作った月とイベントごとのフォルダに無造作に投げ込むぐらいシンプルじゃないと続かない。

Pogoplug、CloudPlugともにWebサービスを見すえているのに、ファイルはユーザーの手元のストレージの中にある。ここが面白い。ローカルドライブに無造作に投げ込んだファイルを、Webサービスを通じて便利に利用・共有できる。そんな可能性を秘めている。しかもWindows限定とかではなく、クロスプラットフォームだ。Pogoplugの場合は、オンラインサービスにつきもののストレージ容量の制限から開放されるというメリットもある。

AppleがiLifeを初めてリリースした時に、開発者の方に「写真を楽しむ上でiPhotoは便利だが、タグ付けや分類を簡単に行える仕組みが必要だと思いませんか?」と質問した。正直iPhotoを楽しめるようにするまでが面倒で、それでは宝の持ち腐れだと思った。その後iPhoto '08でEventsが組み込まれ、発表されたばかりのiPhoto '09ではFacesとPlacesが追加された。自動分類と簡単なタグ付けが可能になったことで、iPhotoは格段に使いやすくなった。

公開・共有する、投稿するなどが比較的あたらしい行為であるためかもしれないが、出口は充実していても、入り口がなおざりになっているケースが多い。だがユーザーにとっては、どんなに素晴らしい出口が待っていても、入り口が開けてなければ入りにくいし使いづらい。

そのためか現状では入り口における革新がより大きなインパクトにつながっているように思える。例えば昨年9月にベータサービスが始まったDropboxだ。オンラインストレージとして特別に変わった機能はないのだが、ローカルフォルダに無造作に投げ込んだファイルが自動的にオンラインストレージに反映されるシンプルな入り口が用意されているため圧倒的に使いやすい。同様に"クラウド"の入り口を変えようとしているPogoplug、CloudPlugには期待している。