救済を求める自動車ビッグスリー経営陣のドタバタぶりは、まるでコメディを見ているようである。世界を大混乱に陥れるかもしれない大事であるのは重々承知だが、実に面白い。

自動車産業は国家戦略上でも重要な存在であり、ビッグスリーの破綻となれば関連産業を含めて数百万人規模の職が危うくなる。倒れるには、あまりにも大きすぎる"too big to fail"なのだ。だから国民の混乱へのおそれから「救済やむなし」という声を、ビッグスリーは味方にできた。ところが、その陳情のために、いきなり巨大な専用機でワシントンDC入りである。それが非難されたら、今度はエコカーで片道10時間のドライブだ。心を入れ換えた証しの必死のパフォーマンスなのだろうが、今は今月中にも破綻するかもしれない1分1秒が大事な時だ。当然「どうして普通に旅客機で移動できないのか」となる。やるべきことを見通せない経営陣であるのを自ら露呈した形だ。さらに議会での発言からも時折、緊急性をきちんと把握していない様子が見え隠れし、経営陣が動くほどに救済の危うさの方が国民に伝わってしまう。全く裏目だ。このままなら救済の手が差し伸べられるにせよ、トップの退陣を含む抜本的な改革からは免れられそうにない。

今年1月、家電総合展示会CESに参加し燃料電池車「PROVOQ」を披露したGeneral Motors CEOのRick Wagoner氏。変わる姿勢を示したものの、ガソリン価格高騰と金融危機で破綻寸前に

しかしひと昔前でも、このようにビッグスリー経営陣の陳情をこっけいに思えただろうか?

おそらく以前のようなニュースや新聞報道だけが頼りの状況だったら、パニックモードのまっただ中だったのではないだろうか。それが今は新聞のオンライン版が議会でのビッグスリー経営陣の発言をライブブログで伝え、リアルタイムで複数の専門家が逐一コメントを入れる。その全容を基に、すぐにブログなどで議論がわき上がる。インターネットの浸透による透明性の高まりが長期的な見通しを我々に与え、それがビッグスリー改革に伴う短期的な痛みへのおそれを和らげているように思える。

例えばテクノロジー分野の有名ブロガーであるRobert Scoble氏が「米国車を愛するがゆえに」と前置きした上で、米国の自動車メーカーは設計から製造までをこなす垂直型を捨てて、技術開発と設計デザインに徹し、製造は中国に任せたらどうだと提案している。巨大な産業を維持するためにチープな車を量産し続けるよりも、ずっと素晴らしい米国車のブランドを確立できると主張する。パソコン産業の影響が色濃い意見だと思うが、これに対してコメント欄で電気スーパーカーTeslaを例にした議論が延々と続き、批判も含めて「革新的な米国車を実現するためには製造をあきらめるような痛みも必要」という考えが根づいている。こんな従来ならどこかの酒場での議論程度にとどまっていたような意見がしっかりと形になっているのは、昨今の選挙同様、インターネットの効果と言える。

誇張しすぎたGoogle叩き

同様の例をもうひとつ。先週、NetCompetition.orgがGoogleの通信帯域独占を指摘するレポートを公開した。調査を行ったScott Cleland氏によると「2009年に米コンシューマのインターネットトラフィックの16.5%をGoogleが使用し、そのシェアは2009年に25%、2010年には37%に増加する」という。米コンシューマが支払う帯域コストに対するGoogleの負担シェアはわずか0.8%であり、その21倍をGoogleは使用していると指摘。使用コスト分をGoogleが支払えば、ブロードバンドサービスの使用料は大幅に引き下がるとまとめている。Googleの広告市場でのシェアを考えると、16.5%は十分にあり得えそうだ。Yahoo!との提携も反トラスト法違反に問われそうになっていたし、このレポートを読むと最早Googleは「Don't be evil」な企業ではないように思える。

ところがGoogleの反論よりも早く、ネットのあちこちからレポートは世論の誘導ではないかという声が上がり始めた。まずNetCompetition.orgとコンサルタントのCleland氏は、ネットの中立性問題でGoogleと対立する電話会社やケーブル会社のサポートを受けている。ISP業界のロビイストなのだ。それでもレポートの内容が正しければ問題はないが、コンシューマの通信帯域とインターネット全体のトラフィックをごちゃ混ぜにしているじゃないかと指摘されている。Cleland氏がGoogleのシェアとしているコンシューマの通信帯域は、コンシューマがISPにサービス料金を支払い、その意志で使用しているものだ。これをGoogleが乗っ取っているというのは無理がある。小売店まで商品を届ける輸送費はGoogleが負担すべきだが、Cleland氏の見解だと消費者が小売店に赴いて商品を受け取る際のガソリン代もGoogleが支払うべきということになる。またユーザーをインターネットの世界に結ぶ検索サービスの役割についても、Cleland氏は外部のサイトへのリンクも含めてGoogleのシェアとしている。

ビッグスリー経営陣のエコカーでのワシントン入り、派手な数字で耳目を引こうとしたCleland氏のロビー活動は、新聞やニュース向けのパフォーマンスとしては効果的だったと思う。実際、TVニュースで見たワシントン到着の写真は感動的だったし、Googleの帯域独占だけを切り取った新聞報道も目にした。だがネットにおいてはパフォーマンスだけが切り取られることなく、逆にその裏側までもが浮き彫りにされる。結果、情報操作の試みが裏目に出てしまう。

ただし物事の裏・表が伝わるのが望ましいかというと、その点にも疑問符がつく。ビッグスリーの垂直型構造の解体などは、その破壊影響を考えれば、想像しても口には出せないパンドラの箱の中身のようなものだった。その意見が形になるのは、場合によっては痛みを伴う。そのように考えると、インターネットの透明性の高さはパンドラの箱を開けるようなものでもある。その後の世界にも対処していけるかが試される。