米国では感謝祭(11月第4木曜日)の翌日の金曜日"ブラックフライデー"から年末商戦がスタートする。小売店が未明から開店し、1日だけの大幅値下げを行う。最近では翌月曜日が、オンラインストアでのホリデーシーズンセールが始まる"サイバーマンデー"とも呼ばれている。しかし今年はそんなホリデーシーズンのお約束を無視して、フライングする小売店が続出。先週の月曜日ごろからブラックフライデー価格で買い物できる店が多かった。その甲斐あってか、ブラックフライデーにショッピングモールや家電量販店などをひと回りしてきた感じでは、"低調な出足"と報じられているほどキビしい状況ではなかった。ただ混雑していても、例年よりレジに並ぶ人の列は短かいように思えた。値下げに関心はあっても、買い物客のサイフの紐は固いということか……。

このままだとクリスマスプレゼントの支出が4割減ほどになる可能性があるという。そのためか雑誌やWeb媒体でのプレゼント特集でも価格が抑え気味で、50ドル以下の製品が目立つ。ということで今回は、なかなか予算を抑えるのが難しいギーク向けプレゼントのおすすめをひとつ。Alcatel Lucentの「tikitag」だ。

tikitagは手軽にRFIDソリューションを導入できるキットだ。今年9月のDemoで技術デモンストレーションが初披露され、限定ユーザーを対象としたアルファサービスが始まった。いつの間にか一般ベータが始まっていたようで、先月Amazon.comからのおすすめで誰でも購入できるようになっていたことに気づいた次第だ。

50ドルのスタータキットにはUSB接続のRFIDリーダーとRFIDタグ×10個が含まれる。まずtikitagのWebサイトでアカウントを作成し、PCにtikitagソフト(Windows / Mac)をインストールする。自分のアカウントにログインしてDashboardを開き、テンプレートを使ってtikitagアプリケーションを作成、タグに関連づける。

USB接続のtikitagリーダーとtikitagタグ

例えば入力フィールドに特定のURLを入れてタグに関連づけると、そのタグをリーダーにかざすだけで自動的にURLのWebサイトが開く。Flickrにヒモづけたタグを貼ったサンプル写真を配布すれば、もらった人はサンプルから簡単にアルバムにアクセスできる。ほかにもtikitagのWebサイトでは、音楽プレーヤーのコントロール、スカイプ通話、複数のGmailアカウントの切り換え、ソーシャルビジネスカードなどのアプリケーション例が紹介されている。

帯に短したすきに長しなtikitag

tikitagが面白いのは、RFIDタグを通じて現実のオブジェクトとオンラインの世界をリンクさせる独自のアプリケーションを作成し、実際に試せる点だ。プログラミングの知識があれば、サービスAPIが公開されているので、より高度な機能を追加できる。NFC (Near Field Communication)携帯電話もサポートするので、ホビイストからシンプルなRFIDサービスにまで幅広く対応できる。

ただし、実際には「RFIDを一般に」と喧伝されているほど実用的ではない。専用リーダーとの組み合わせが基本的な使用モデルであり、PCユーザーの多くがtikitagリーダーを所有するような状況になるとは考えにくい。となると前述のFlickrにアクセスするサンプル写真や、自分のブログやWebサイトに自動アクセスするソーシャルビジネスカードのような活用法は現実的ではなくなる。テンプレートを使ったアプリケーション構築は手軽だが、それだけでは満足できなくなり、機能を追求するとコーディングが難しくなる。一般向けというには、少々敷居が高い。作成したアプリケーションを共有する機能があるので開発者コミュニティの広がりに期待しているのだろうが、残念ながら今のところ広がる気配が見えない……。また大量に使ってこそRFIDタグだと思うのだが、tikitagタグは25枚セットで29.95ドル。1枚約1.20ドル(約113円)と、気兼ねせずに貼ったり、配布できるほど安くはない。

加えて、プライバシーの問題だ。危ういシステムだとは思わないが、タグにヒモづく情報が格納されるtikitagサービスのセキュリティについてはベータ期間を通じてさらに検証される必要がある。「RFIDソリューションのアイディアを手軽に試せるプラットフォーム」ではあるものの、これらの課題を考え合わせるとアイディアを実用的なレベルで運用できる範囲は限られる。RFIDを使ってちょっと変わったことを試してみたいという人を超えたヒットになるとは考えにくい。

それでもtikitagが面白いと思うのは、RFIDテクノロジーの可能性にスポットライトを当てる製品だからだ。RFIDは、物流、在庫管理、品質管理、セキュリティなどでの活用が期待されている一方で、特に米国においてはプライバシー問題に対する懸念が根強く、一般消費者がRFIDのメリットを実感できるB2C分野での浸透は足踏み状態である。クレジッドカードやキャッシュカードの情報を読み取った犯罪が実在することを考えるとナーバスになって当然だと思うし、RFIDにプライバシーの問題が存在するのも事実だ。しかし、そのような問題をきちんと把握した上でソリューションを考えれば、安全で便利な技術になる。

tikitagを試すと、タグにどのようなデータが付され、どのようにサーバに問い合わせて、それにヒモづく情報を引っ張ってくるかが理解できる。制限のあるtikitagのRFIDソリューションでも、使い方によってはプライバシー問題を引き起こす可能性が十分にあり、きちんとケアする必要がある。それらを理解した上で接すれば、RFIDを活用するアイディアを実際の形で楽しめる。「こんなトラブルが起きてしまうできてしまうんじゃないか」という不安に躊躇せず、「こんなことができるんじゃないか」という可能性に挑戦できるRFIDの箱庭だ。景気減速、停滞の雰囲気ばかりの昨今、このような前向きな遊び心は大切にしたい。

それでもRFIDの実験キットに自腹で50ドルは微妙なところ……その点でもプレゼント向きである。