早いものでMicrosoftのメディアプレーヤー「Zune」も登場から3年目に突入し、バージョン3.0に到達した。ソフトウエアのアップデートは年2回で、バージョンが0.5ずつ上がっていく。ソフトウエアのメジャーバージョンアップのタイミングで年に1回、新ハードウエアが登場する。07年モデルまでは投入のタイミングが遅れ気味になり、年末商戦で完全にAppleの後手に回っていたが、今年はiPodよりも早く発表し、同タイミングでの発売だ。3年目にして初めてZuneとiPodが同じ土俵でぶつかるという雰囲気になっている。しかもZune 3.0に対するアナリストやメディアの評価が悪くない。中にはiPodを上回るという指摘も見られる。前回iPod touch/ iTunes 8を取り上げているので、今回は対抗勢力の筆頭を目指すZune 3.0を使ってみた印象を紹介する。

ファームアップで初代モデルもバージョン3.0に

Zuneを使っていてうれしいのは旧モデルのサポートだ。過去のモデルでもファームウエアとソフトウエアをアップデートすれば、最新モデルと同様に機能する。iPodの場合、新機能が最新モデルに限定されるケースが多い。それにより最新モデルへの買い換えが促されるのだろうが、ユーザーは旧モデルがどんどん色あせていく気分になる。一方これまでのZuneの新モデルは色や操作パッドが変更されたものの、地味な変化にとどまっていた。iPodほど新モデルを手に入れたいという気分が盛り上がらない。その代わりに、全てのユーザーが最新の機能を利用できる。そのメリットが少しずつZuneユーザーの間で認識されるようになり、3年目の今ではZuneで一番の評価点になっている。もちろん将来的にZuneもハードウエアが代替わりするだろうが、長期にわたる新機能提供は次の世代にも引き継がれるのではないだろうか。

初代モデルのZune 30。ファームウエアのアップグレードで最新モデルと同じ機能を利用可能に

音楽を視覚的に探訪できるMixView

Zuneは06年11月に登場した最初のモデルからWi-Fi機能やFMラジオを備えていた。ただ当時はWi-Fi機能もZune同士を接続するだけ。機能が多くても活用できていないと酷評された。ところが07年のアップデートでWi-Fi経由の同期を実現。Zune用のオンライン音楽ストア/ オンラインコミュニティ「Zune Marketplace」にも直接接続できるようになった。バージョン3.0では、FMラジオで曲がかかっている時に選択ボタンを押すと、メニュー画面があらわれ、曲情報を記録する機能が追加された。ZuneがWi-FiネットワークまたはPCに接続した際に、その曲を購入/ ダウンロードできる。宝の持ち腐れ状態だった機能群が、次々に紡がれて、新たなサービスや機能となっている。

Zuneのもう一つの魅力が、Zune Marketplaceで利用できるサブスクリプション形式のサービスだ。月額のサービス料金を支払っている間は数百万曲の音楽を自由にダウンロードして、Zuneに転送できる。サブスクリプション自体はNapsterやRhapsody、Yahoo! Musicなどでも採用されているのでめずらしくないが、Zuneの場合は、数百万曲を自由に聴けるサブスクリプションの特徴をソーシャル機能に結びつけている。例えばZuneユーザーはZune Cardというプロフィールを作成でき、同カードを通じてプレーヤー上でユーザー同士が音楽情報を交換し合い、友だちの作成したプレイリストや友だちが聴いている曲をすぐにフル再生できる。前述のFM機能でもインターネットにつながれば、サブスクリプション会員はすぐに音楽を入手できる。

最新版のZune SoftwareにはMixViewという音楽の関係を視覚的に表示するおすすめ機能が追加された。たとえばプリンスの「パープル・レイン」でMixViewをオンにすると、シック(プリンスが影響を受けたアーティスト)、シーラE(関連アルバム)、ザ・タイム(関連アルバム)、エジプシャン・ラヴァー(プリンスから影響を受けたアーティスト)などのアルバムが周りに並ぶ。周囲のアルバムをクリックすると、新しい関係の輪が広がり、クリックしながら次々に新しい音楽を探していける。

選択した曲/アーティストに関連するアルバムやアーティストが視覚的に表示されるMixView

AppleのGeniusと比較されることが多いが、実際に使った感じでは全く異なる。Geniusはプレイリストを作成するための機能であり、MixViewは音楽を探訪する機能だ。Geniusの場合、自分のライブラリ内の曲が少ないとあまり楽しめないし、iTunes Storeからのおすすめは宣伝を見ているような気分になる。MixViewはサブスクリプション会員ならば数百万曲のライブラリを所有しているも同然なので、存分に音楽探訪を楽しめる。

爆発的な伸びは期待できないが……

以上のような紹介だと、ZuneがiPodを上回っている印象ではないだろうか。実際Zuneをほめるレビューが多いのもうなずけるのだが、使い続けてみるとZuneの満足度はまだiPodに届かない。例えばFMラジオでかかっている曲を購入できる機能は対応しているラジオ局が少ない。しかも対応しているのはClear Channel傘下でメジャーな曲ばかりかける局ばかり。DJがおすすめの曲をどんどん紹介するような局では利用できないのだ。

またサブスクリプションでダウンロードできる曲がNapsterやRhapsodyの1/4から1/3程度という印象で、まだまだ少ない。サブスクリプション対象曲を前提としたプレイリスト交換ならいいが、それ以外では対象曲ではなくてがっかりすることが多い。

とは言え、Zuneはユニークな存在になってきた。メディアプレーヤー/ソフトウエア/サービスの組み合わせという点でiPodとZuneは同じだが、前者がプレーヤーを看板としているのに対して、Zuneの本質はソフトウエア+サービスである。iPod/ iTunesはレコードやCD時代から続く音楽を収集して楽しむスタイルを引き継いでいるが、Zuneは音楽をサービスとして楽しむことを追究している。ラジオやテレビに近い。同じようなデジタルメディアプラットフォームならiPodが独走する現状のシェアの差は埋めがたいものの、同じようでいて全く異なる利用体験だからZuneにもチャンスがあるように思える。

米国のデジタルメディアプレーヤー市場におけるシェアはiPodの73%に対してZuneはわずか3%。ただ旧モデルサポートが評価され始めたように、じわじわとユーザーを広げそうな存在になってきた。最大の課題であるサブスクリプション対象曲の拡充も着実に対処していけば解決できる。今年はZuneプレーヤーを十分に活用できるソフトウエア/ サービスにとどまっているが、来年は"存分"に活用できる体制を整えそうだ。同じハードウエアでどんどん面白くなるところがZuneの魅力を増幅させており、シェアの差ほどAppleは楽観できないように思える。