今年の秋からサンフランシスコ市で、路上駐車スペースの空きをスマートフォンやパソコンから確認できるサービスのテストが始まるそうだ。その準備のために同市に本拠を置くStreetlineがセンサーを路肩に埋め込む様子をニューヨークタイムス紙が伝えていた。

Streetlineのセンサーは、内蔵するバッテリで5年~10年は稼働する低消費電力のトランシーバを備える。センサー同士をTime Synchronized Mesh Protocol (TSMP)で結びつけたメッシュネットワークを通じて、それぞれのセンサーが感知した駐車スペースの車の出入りの情報が街頭に設置されたゲートウエイに送られ、そこからセルラーネットワークを 経由でサーバに送信される。Streetlineはデータをリアルタイムに分析し、Webインタフェースを通じたサービスに仕上げる。

サンフランシスコ市内の路上駐車スペースに埋め込まれているStreetlineのセンサー

Streetlineのセンサーがサンフランシスコの道路に埋め込まれるのは今回が初めてではない。去年に今頃にもテストが行われており、終了後に一度すべて撤去されたはずだ。センサー1個が約300ドル、さらに1個あたり月額10ドルのサービス料金がかかる。面白い試みだったが、コスト的に継続的な設置は難しいと見られていた。それが今回、復活しただけだけではなく、市内に24,000カ所あるメーター式の路上駐車スペースの1/4に相当する約6,000カ所に設置されるというのだ。ほぼ実用化を見据えたテストと言えるのではないだろうか。

スマートフォンユーザーの増加でセンサー設置へ

昨年と今年では同じセンサーの設置でも目的がずいぶんと異なる。昨年は、駐車スペースの利用状況のデータを収集するためだけの設置で、サービスとして提供する計画ではなかった。収集されたデータから駐車スペースの利用頻度や一日のうちのピーク時間帯などを割り出し、それを基に時間帯によってメーターの駐車料金を変動させれば、駐車スペースからの売上げを向上できると考えたのだ。そのために市全体にセンサーを設置する必要はない。観光地やビジネス地域など市内の要所に、数カ月設置してデータを集めれば十分である。

一転して今年は収集したデータを活用する可能性のテストだ。市民や観光客がスマートフォンのマップ上で、空いている路上駐車スポットやメーターの残り時間をひと目で確認できるようなサービスを想定している。実用化となれば市全体への設置になるだろう。

坂道の街で、道幅も狭いサンフランシスコでは路上駐車が頭痛の種である。特に観光地やビジネス地域、レストランが集中する場所で駐車スペースを探すのは苦労だ。駐車場がない地域が多く、ディナーのピーク時などは空きスペースを求めてレストランの周りをぐるぐると回りつづけることになる。それがさらなる渋滞を呼び、ムダなガソリン消費にもつながる。駐車スペースの空き状況をひと目で確認できれば、目的地から多少離れていても構わないというドライバーは多いだろう。センサー設置は路上駐車スペースを効率的に埋め、市の収入を増加させるだけではなく、省エネにもなるというのが市の主張だ。

Streetlineのシステムは過去にロサンゼルスなどでもテスト導入されたが、いずれも一部地域に限られており、市の主要地域全体におよぶ広範な地域でテストを行われるのは、今回のサンフランシスコが初めてだという。わずか1年で同市が大胆なテストに切り替えたのは、昨年のiPhone発売をきっかけに米国でもネットに接続できる携帯電話を持ち歩く人が増えているからだろう。特にベイエリアは他の都市よりも、明らかに携帯のデータサービス契約者の比率が高い。センサーを設置しても宝の持ち腐れにならないと踏んだからこそ、大規模テストに乗り出した。ある意味、これも一般ユーザーにデータ通信を広めたiPhone効果と言える。また米国初のセンサー導入都市となれば、話題性もコスト償却の手助けになるだろうし、内容がテクノロジだけにサンフランシスコ市としては米国"初"の称号が欲しいところだろう。同市としてはセンサーネットワークをゆくゆくは防犯や空気汚染のモニターなど幅広く活用できると期待しているようだ。

新しもの好きのサンフランシスコの過去をふり返れば、最近では市全体をカバーする無料公共Wi-Fi提供にいち早く乗り出して失敗した。ただ公共Wi-Fiに関しては、サービスのスピードが最大300kbpsと遅く、実用性に乏しかった。少し探せばすぐにカフェなどのもっと速いサービスが見つかるのだ。莫大なコストに比して、市民の反応は冷ややかだった。それに比べると、駐車スポットセンサーは実用性が高く、市民から歓迎されそうだ。それに昨年まで集めたデータを市が独占する形だったのを、より大きな可能性を求めて市民や観光客にも提供する形となったのは、少しだけオープンな方向に展開したようで好感が持てる。駐車スペースのオンラインマップは効果的なローカル広告の場所になりそうだ。いっそのことデータへの外部のアクセスを認めてくれれば、駐車スペースが空きの時間は連動して周囲のレストランがクーポンを表示したりして、より効果が高まりそうだが、さすがにそれは無理か……。