米国のApple StoreではiPhone 3G発売日の購入者に、MobileMeの1年間の契約を3割引にするクーポンを提供していた。.MacからMobileMeへの変化はAppleのオンラインサービスをPCユーザーに広げるものとなるが、やはりiPhoneのための進化という意味合いが強そうだ。実際ケーブル接続で同期することなく、iPhoneにカレンダーやコンタクトなどの各種データが配信されてくるのは快感である。iPhoneと複数のパソコンを利用している人にはおすすめのサービスだ。ただ、だからこそ残念なところが1点ある。

iPhone 3G購入の行列の中でMobileMeが話題になった時に、リモートワイプに相当する機能がついていれば契約するという人がいた。自分の場合はすでに.Macユーザーなので契約する/しないに関係なく自動的にMobileMeユーザーとなるのだが、個人的にも紛失・盗難対策機能を備えているかは気になる点だった。Appleが事前に示していた機能リストには含まれていなかったが、MobileMeを同社は「Exchange for the rest of us」とアピールしていたのだから……。

Eye-Fiカードがデジカメ泥棒特定の決め手に

今年6月、フロリダ州でWi-Fi機能付きSDカード「Eye-Fi」によって、盗られたデジカメを持ち主が見つけ出したという記事をロイターが配信した。被害にあった女性はデジカメに入れたEye-Fiカードが無線LANに接続すると、撮影した写真を自動的に写真共有サービスなどに送信するように設定していた。そこでデジカメをなくしたことに気づいた後、試しに送信先に指定していた場所を確認したところ、自分が写したおぼえのない写真が送られていた。それらを見て、すぐにピンときた。ディナーで利用したレストランの店員だったのだ。カメラは女性がテーブルに置き忘れたようだが、店員たちは黙ってそれを自分たちのものにしていた。女性は警察に通報しなかったものの、店側は関わった従業員たちをすぐに解雇したそうだ。

同じ月にサンノゼマーキュリーにも似たような記事が掲載された。ある女性が車からMacBookを盗まれた後に、友人がネットを通じて窃盗犯を割り出し、逮捕を実現したという話だ。この友人は女性のテックサポートのような存在で、女性がMacBookを購入した際に.Macの契約を勧め、契約後にネット経由でMacにリモートアクセスできる機能「どこでもMy Mac」(要.Mac/ MobileMe)を有効にしておいた。そのため盗まれたMacBookで犯人がインターネットに接続してからの行動が筒抜けだったのだ。犯人は女性のeBayアカウントへのアクセスを試み、ファイル共有ツールを使って音楽をダウンロードするなど、ネットライフをエンジョイしていた。逮捕の決め手になったのは、IPアドレス、犯人がデートサイトに書き込んだ自身の情報や特徴、そしてiSightカメラで犯人が自らを撮影した写真だ。友人は、それらの観察記をブログで公開している。

一般ユーザーが持ち歩くデータの価値

上の記事からは、ノートPCや携帯電話、デジカメなどの紛失や盗難がウイルスやマルウエアによる攻撃以上に個人情報漏えいのリスクに直結しているのが分かる。ノートPCだけではなく、多機能化が進む携帯電話も貴重な情報を扱うようになった。盗まれればコンタクトだけではなく、メールや各種ドキュメント、写真、ビデオ、契約しているWebサービスのパスワードまでのぞかれる可能性がある。iPhone 3Gが199ドルから、(Eee PCのような)ネットブックが400ドル程度から購入できるのだから、今や一般のコンシューマにとっても紛失・盗難の被害はハードウエアよりもデータのほうが痛い。

同時にインターネットに接続してこそ真価を発揮するデバイスでは、アイディア次第で様々な方法で紛失・盗難対策を施せる可能性も伝わってくる。上の記事ではセキュリティ目的ではないオンラインサービスが紛失・盗難対策として機能したところが愉快である。ただ、それはコンシューマ向け機器のセキュリティの欠如も意味している。

iPhoneではパスコードで画面をロックできるが、個人的にはiPhone内のデータの価値を考えると4桁の数字を組み合わせたパスコードだけでは到底安心できない。iPhone 3G購入後にApple Storeのジーニアスバーで、iPhoneを紛失した場合にデータをMobileMeから消去できるかたずねてみたら、リモートワイプを実現するにはExchangeが必要だと言われた。Apple以外に目を向ければ、英国のiRedHandedという会社がiPhone紛失・盗難の際のデータ消去、ロケーショントラッキング、利用モニタリングを実現する仕組みを開発している。App Store用アプリケーションも手がけているという話だったが、現時点では見あたらない。それどころかApp Storeにセキュリティというセクションすら存在しないのが現状だ。

iPhone 2.0で強化されたエンタープライズ向け機能ではリモートワイプをサポートするが……

これは他の携帯電話/スマートフォン、ネットブック、モバイルノートPCに至るまで幅広いデバイスが抱える問題であるが、特にiPhoneはプラットフォームとしてまとまっているだけに、紛失・盗難対策でも一歩先ゆくような試みを期待していたのだ。自分のケースではiPhoneが他人の手にわたれば、交友範囲や仕事のつきあいから日頃のコミュニケーション、音楽や映画の趣味、利用しているWebサービスに至るまで丸わかりになってしまう。これが行方不明になったら……と思うだけでめまいがしそうだ。とりあえず気付けにパスコードと、iPhoneの一部機能を使うとオンラインマップにロケーションが反映されるサービスを利用している。コンシューマ側から紛失・盗難対策を強く求める声がわき上がってこないのは不思議である。