先週参加したWhere 2.0で最も面白かったのは、MicrosoftのVincent Tao氏のGeoweb進化論だった。ちなみに同氏はGeoTango創設者で、Microsoftによって買収されてからVirtual EarthとLocal/Mobile Search部門の技術戦略を担っている。同氏曰く、ネットによって距離を問わない情報伝達やコミュニケーションを実現したのが"1.0"、その効果で人々の実生活における行動範囲が小さくなり、今後ロケーションが重視されるようになるのが"2.0"だという。

1.0に関しては、その効果を身にしみて実感している。ライター稼業はネットによって随分とこなしやすくなった。特に米国在住だと、原稿をFAXで送り、写真を郵送していた頃は、1回のやり取りに数日の時間と少なからずコストを費やしていたものだ。それが今や、IMと電子メール、コラボレーションツールを使って、日本国内にいるのと変わらない能率で作業できる。インタビューや現地取材がなければ、仕事をする場所は問われない。先日急用で帰国した時は、仕事を中断できなかったため、そのまま仕事を続けていたら、取引先には全く気づかれないまま米国に戻ってこれた。

最近はWebベースのプレゼンテーション・ツールを通じて説明会が行われることが多い。質問は電子メールやIMで受け付けるので、プレゼンテーション中の写真を撮る必要がない限り、Webキャストに参加した方が効率的である。シリコンバレーが会場のときは現場に行ってみるが、20人程度しか集まっていなかったりする。東京に集中する日本国内と違って、米国の場合は3時間の時差がある東西にそれぞれ主要都市が分散しているので、どこにいても参加できるWebキャストは不可欠になりつつある。

その結果、足を使わない取材が増え、たしかに行動範囲が狭まっているように思える。便利だけど、これでいいのかと思いながら、今日もGoogleのWebキャストに参加したばかりだ……。ではTao氏の言う"2.0"とはどういうことだろうと考えてみたら、まさに4月に参加したWeb 2.0 ExpoとWhere 2.0で、その効果を体験していた。

リアルネーム+リアルピープルのSNSがイベントを効率化

発表会や説明会と同様に、技術カンファレンスにもネット導入の動きが見られる。特にO'Reillyのように情報共有に積極的な主催者の場合、プレゼンテーション・ファイルや主要な講演のビデオを公開してくれる。それはうれしいのだが、トレンドや情報をアップデートするだけなら、わざわざ参加する必要はないんじゃないかと思えてくる。もちろんイベント参加はネットワークを拡大する大きなチャンスだ。その1点で参加し続けているとも言える。ただ、どのイベントでも、あいさつしたい人や話を聞きたい人はたくさんいるのに、実際のところ3日程度の短い時間で、会場でつかまえて話を聞ける人数はごくわずかだ。すると開催場所が遠ければ、旅行費を費やしてまで参加する価値があるのかなと思えてくる。特にWebキャストなどが用意されているイベントなら、なおさらだ。

そんな思いがWeb 2.0 ExpoやWhere 2.0に参加して180度変わってしまった。いずれもFacebook、Twitter、Wikiなどのほか、ロケーションサービスなどが導入されていて、とにかくすぐに参加者同士がつながれるのだ。特に秀逸だったのが、Web 2.0 ExpoとWhere 2.0に続いて行われたWhereCampで採用されていた、SNSプラットフォームのCrowdvineだ。両イベントの専用SNSが構築され、スピーカーや運営者を含む参加者同士のメッセージ交換や情報アップデートが可能だった。スケジュールページではセッションごとにコメントを書き込んだり、ページ上で講演者に質問できる。ソーシャルネットワーキングのインタフェースには参加者の写真が大々的に扱われていて、日程が2日目になる頃には会場内、そしてSNS内で「どこかで見たような……」という顔に常に出くわすようになる。相手のコメントを憶えていれば、会場内でも声をかけやすい。通常講演者とタイトルで参加するセッションを選ぶが、Web 2.0 Expoでは参加を予定している人の顔ぶれや過去のコメントの方が参考になった。イベント終了後には立派なアーカイブとなり、イベントを様々な角度からながめ直せるし、新たなネットワーク作りにも利用できる。

セッションの合間に、プレゼンテーション用のスクリーンにはイベントSNSのURLなどが通知され続けた

今回は期間中に各種Webサービスを使い切れていないところが多々あったのが残念だが、間違いなくこれまでで最も容易に目的の人物にコンタクトでき、同好の士とつながれるイベントだった。ディナーパーティでも、分散していた会場のメニューや各会場の人気度がリアルタイムに共有され、すぐに人気会場に移動できたというように、密なコミュニケーションのおかげで隅々まで満足度を高められた。

参加者のネット度を試すかのように分散していたWeb 2.0 Expoのディナーパーティ会場

現地でこれだけ活発につながれるのならイベントに参加する価値は高い。自分のロケーションの価値を高めるためのネット活用といえる。Webサービスの大胆な導入はO'Reillyならではで、カンファレンス2.0と呼ぶ声もあるが、やはりユーザー側がSNSやTwitterなどでのコミュニケーションに慣れてきたのが、上手く機能した大きな理由ではないだろうか。他のイベントで導入されても、同様の成果が期待できると思う。