ゴールデンウィーク中に米カリフォルニア州サンマテオ市で「Maker Faire」が行われた。O'Reilly MediaのDIY(Do It Yourself)専門誌「Make:」とクラフト専門誌「Craft:」で取り上げられた作品に直接触れられるフェスティバルだ。サンマテオでの開催は今年で3回目で、発明家やホビイスト、クラフターの年に一度のお祭りとしてベイエリアでは完全に定着した感がある(秋にオースチンでも開催される)。

Maker Faireメイン会場の前に、巨大な蝶のロボット

会場のあちこちに巨大なオブジェ

ギークなイベントなのに一般人も参加で大盛況

1回目のMaker Faireに参加した時は、Make:が2年目を迎えた頃で、Craft:はまだ準備段階だった。正直なところ雑誌不況が叫ばれる中で、DIY専門誌というのは冒険すぎる……と思ったものだ。日本に負けず劣らず米国にもこだわりのあるホビイストはいるものの、米国のホビー市場は日本ほどビジネスとしての規模は大きくない。例えば、きちんとプラモデルを作ろうと思えば作れるが、一般の人の行動範囲には、そのようなツールを売っているホビーショップは少ない。単純にプラモ作りを比べても、米国のほうがはるかに苦労する。一方、自分で家に手を加えたり、車を修理する人は日本よりもずっと多い。中には自ら家を増築したり、ほぼ建て直しと思えるような改造を施す人もいる。木を削り、鉄板を加工し、配線して、自ら作り出す。そんな生活の中でのDIYが父親の"できる度"を測る尺度の1つとなっているところがある。それが高じてDIYにのめり込み、趣味的なもの作りに手を染める人は多い。その意味ではDIYという狙いは正しいし、一部からは熱狂的に支持されると思ったが、それでもニッチ市場と言わざるを得ない。技術者の多いシリコンバレーではMake:の刊行が話題になっていたため、1回目のMaker Faireには約200組のMakerと約20,000人の参加者が集まったものの、発明家やホビイストの交流の場という雰囲気を否めなかった。個人的には楽しめたし、様々な場所で宣伝したのだが、内心では第1回がピークで終わる可能性が高いと思っていた。

ところが……だ。昨年の第2回目のMaker Faireには500組以上のMakerと45,000人以上の参加者が集まった。明らかに一般からの参加者、家族連れ、学校の課外授業などが増加し、Makerが一般の人にDIYやクラフトを広める場という雰囲気になった。今年の参加者数はまだ明らかになっていないが、会場内は昨年を上回る混雑ぶりだった。完全にフェスティバルという様相で、ギーク色がずい分と薄まり、ロボットバトルや戦艦バトルなど単純にイベントとして楽しめるものが目立った。工作やクラフトは、一般の人が興味を持ち、理解できるように、これまでよりも分かりやすく説明・展示されていた。AdobeやMicrosoft、HPなどの企業スポンサーも、以前のように技術的な説明をメインにするのではなくエンターテインメント主体。難しい話だけでは、今のMaker Faire参加者の興味を引けないのだ。お遊び色が強すぎて「DIYというには、ちょっと……」なものが多かったのも事実だが、エンターテインメント性が高まったからこそ今日のMaker Faireの成功があると言える。例えば「Neverwas Haul」というビクトリア調の3階建ての家がトレーラーに乗っかったハウルの動く城のミニチュア版のような作品があった。乗り物として子供たちに大人気だったが、過去の蒸気技術を説明するという意味合いも持つ。販売コーナーでMakerのプロジェクトのDIYキットが飛ぶように売れていたのは、ホビイストや発明家と一般の人の距離がぐっと近づいた証拠と言える。

キャプ会場中を走り回っていたカップケーキの電動カー

「Build、Craft、Hack、Play、Make」がMaker Faireのテーマ。以前は写真の「iPhone Hacks」のようなものが目立ったが、最近は"Play"が主役に

キャプ砂の上に幾何学的な模様を自動的に描くキネティック・スカルプチャー

リアル版「ハウルの動く城」、その名も「Neverwas Haul」。ビクトリア調の3階建ての家がトレーラーの上に乗っかっている

Makerコミュニティを作り出したのは……

Maker Faireの成長を支えているのはMakerコミュニティだ。古くからのスタイルのホビイストも多いのでMake:という雑誌の存在も大きいとは思うが、オンライン版の影響が大きい。3年前はどれぐらい存在するかと思えたMakerだが、ネットで紡いでいけば、やはり巨大なコミュニティなのだ。今、Make:のサイトのプロジェクトはDIYのSNSである「Instructables」に連動している。ちょっと検索すれば、同好の士を見つけられるし、DIY上の悩みもすぐに解決してもらえる。これまでは近所に同じ趣味を持つ人がいない、ちょっと変わった存在だった人でも、自分を上回るギークに出会えるのだ。フォーラムやMeker同士のイベントでは、教育的な側面を含めてコミュニティを広げていく方法が議論され、それがMaker Faireの見せ方の変化につながっているのだろう。雑誌Make:は今でもニッチ規模の読み物だと思うが、Makerの結びつきはより大きなムーブメントを生み出す原動力になっている。特にベイエリアのMaker Faireは、シリコンバレー気質やヒッピー文化が入り混じった独特の雰囲気となっているので、もし、春にベイエリアを訪れる機会があれば同フェアに参加することを強くおすすめする。

キャプ100mpg+のプラグイン・プリウスの隣にゴミアートのテントというごった煮ぶり

キャプMicrosoftブースの出し物の1つ。Webカムを搭載したラジコンカーからの映像をノートPCで確認できる。ラジコンカーをコントロールするリモコンがWiiリモート。大人の事情よりもキッズフレンドリーが重視されるMaker Faire

Segwayと同じ原理だというセルフバランスのスケートボード

自動スコアリング、自動ビデオリプレー、プレー統計、バーチャルアナウンサー、プレーヤーのバイオ認証まで備えたデジタル・テーブルサッカー

写真を撮影して、その場で参加者が自らの影絵の行灯を作れるAndon Booth

キャプ今年はDisneyが企業スポンサーに。ブース入り口には手で触れると現在のミッキーマウスが昔の絵に変わるディスプレー

まもなく公開のWALL・Eのロボットが人気。これはDIYではなく、Disneyのもの

こちらはDIY版のR2D2