【コラム】
レッドウッドシティにあるAmpexが米国の会社更生法にあたるチャプター11の適用を申請した。1944年に設立された同社はテープレコーダーで成功し、デジタル画像処理や大容量データストレージに事業を拡大してきた。スタートアップという言葉が使われる以前から存在したスタートアップ企業であり、今日のシリコンバレーの企業文化を切り開いた会社のひとつである。レッドウッドシティはOracle本社で有名だが、シリコンバレーを古くから知っている人の中にはAmpexを同市の顔に挙げる人も多い。ネットの話題から離れてしまうが、元祖スタートアップの行き詰まりを、今日のネット企業の先行きを含めて考えてみたい。
Ampexに台頭をもたらしたのは1940年代半ば、当時ラジオで最も人気のあったビング・クロスビーだった。生放送を嫌い、録音の導入をNBCに持ちかけたところ、NBCは当時のアセテートディスクへの録音では音質が放送レベルではないと判断。その結果、クロスビーが出演を拒否するという騒動に発展した。それを解決したのがAmpexのテープ録音技術だった。ABCがAmpex初のテープレコーダー「Ampex Model 200」を採用したのをきっかけに、録音放送がラジオ産業を変え、さらにレス・ポールがModel 200をマルチトラックレコーダーに改造したことからレコーディング産業の成長も始まった。今日、音楽産業を改革するAppleをミュージシャンがサポートし、その関係がiPodのプロモーションになっているように、Ampexも技術にカルチャーを融合させた存在だったそうだ。1950年代にはテープ式のビデオ録画機(Quadruplexレコーダー)を完成させ、ビデオ技術でも名声を博した。
OBの錚々たる顔ぶれも、過去のAmpexの勢いを現在に伝える。例えば、現Oracle CEOのLarry Ellison氏は、学生時代からAmpexでプログラマとして働き、そこで出会ったRobert Miner氏とEd Oates氏と共にOracleの前身であるSoftware Development Labsを設立した。Atariの創業者Nolan Bushnell氏もAmpex出身だ。またQuadruplexの開発には後にDolby Laboratoriesを作るRay Dolby氏が参加していた。
ここ数年のAmpexというと、04年にデジカメのサムネイルを一覧表示する技術の特許を主張してデジカメ・メーカーを片っ端から提訴したのが話題になったぐらいである。かつてSonyやAppleのような影響力があったと言われても、今のAmpexの姿からはピンとこない。その原因を探っても「マジックを失った」というような表現ばかりで、どうもはっきりとしない。
個人的な推測だが、衰退のきっかけとなったと思われるのはコンシューマ向けVCR(ビデオカセットレコーダー)の失敗である。1970年にAmpexはInstavideoという初のコンシューマ向けVCRを発表したものの、市場規模が小さいと判断して72年には同レコーダーのプロジェクトを解消してしまった。ところがAmpexからヘリカルスキャン技術をライセンスした日本企業が、より安く、よりコンシューマにとって便利なVCRを投入。米国市場を席巻してしまった。
VCRにおけるAmpexと日本企業に違いは、Doblinの共同創設者で、様々な大学で企業文化に関する講義を行っているLarry Keeley氏の「インベンション(発明:invention)とイノベーション(革新:innovation)の定義」に当てはまる。同氏の考えでは、インベンションは何もないところに新たな何かを発見または創造する作業である。一方、イノベーションは既存のアイディアを発展または組み合わせるなどして、新たにユニークで人を引きつける何かを作り出す作業になる。イノベーションでは真っさらなところから何かを生み出すは必要ない。例えば、初のMP3プレーヤーの投入はインベンションであり、それをメディアプレーヤー・ソフトやオンラインショップと組み合わせて音楽を楽しむソリューションにするのはイノベーションとなる。
発明できなくても、より良い製品に仕立てるのが上手かった70年代の日本企業はKeeley氏の言葉で言い換えればイノベーティブな企業たちだった。当時Ampexの製造マネージャーだったRichard J. Elkus Jr.氏は、日本企業との競争を経て、テクノロジが次への足がかりとなるだけではなく、あらゆる製品が次への土台になることを学んだと述べている。例えばVCR市場はしばらく小さいままだったが、新種の素材やディスプレイなど様々な分野の開拓につながった。そして広がった市場を紡ぎ合わせ、または再構成することで、さらにユニークなイノベーションが生まれた。たが、それもVCR事業に関わり続けてこそである。短期的な見通しを改善するための経営判断でVCR市場から撤退したAmpexはいつの間にか完全に置き去りになっていた。撤退と同時に同社は、事業のスケール効果という可能性を葬ってしまったのだ。
もちろん早期撤退という経営判断が奏功するケースも多いだろう。イノベーションの可能性と天秤にかけた判断が求められるが、70年代のAmpexはビング・クロスビー問題を解決できるような会社ではなかったのではないか。
現状に当てはめると、昨年からの不振と大株主の圧力で携帯電話事業の分離計画を進めるMotorolaは、まさにAmpexと同じ道を歩んでいるように思える。MicrosoftによるYahoo!買収はどうだろう。MicrosoftはMotorola同様に短期的な効果を狙ったアプローチではないだろうか。逆に長期戦略へのフィットを訴えるYahoo!はイノベーティブな考えに基づいていると言える。だから3カ年計画をアピールし、検索広告分野におけるGoogleとの提携すら模索しているのだろう。長期的な視野から、Yahoo!がイノベーションの維持を「株主の価値を最大限化する選択肢」と考えているとしたら、おそらくそれは正しい。ただAmpexがイノベーションを見失ってしまったように、長期的な価値を株主に理解してもらいながら事業を進めるのは難しいのだ。その辺りのジレンマをYahoo!がしっかりと認識しているように思えるだけに、どのような答えで同社が4月26日に臨むのかが気になる。
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