Creative Commonsの創設者として知られるスタンフォード大学ロースクールのLawrence Lessig教授が「Change Congress」というWebベースの政治改革プログラムを立ち上げた。「大統領選キャンペーンを通じて"Change"(Obama候補のキャッチフレーズ)というレトリックがもてはやされているが、国民はみな大統領一人の力だけで抜本的な改革が実現しないことに気づいている」と同氏。Creative Commons、オープンソースプロジェクト、Wikipediaに見られる集合知、マッシュアップなどのメリットを取り入れ、ネットを通じて国民の力による本当の"Change"を実現しようというのがChange Congressである。目指す抜本改革は「民主政治の悪習となっている献金や裏金の排除」だ。

米国ではエレクションデーのような投票日が近づくと、対立候補の主張を批判したり、法案への信任または不信任への同意を求めたりするテレビCMが繰り返される。どのCMも自分のメリット、対立候補のデメリットをひたすら強調しているので、見ればうなずけるような出来である。それだけに両陣営のCMを見たらどちらの候補も信じられなくなる。そもそもネットワーク局の人気番組の間にCMを入れられる資金は一体どこから……という単純な疑問もわき上がってくる。CMを入れる資金のない、清く正しい政治家が実はいるんじゃないかと思うが、投票すべき候補や法案をきちんと調べるのは面倒な作業である。結局自分の生活によほど関わっていない限りなおざりになってしまい、大量のテレビCMで植え付けられた印象のまま投票してしまう。それでは企業からの献金や裏金に後押しされた候補者で議会が埋めつくされる。

献金拒否を宣言した政治家にChange Congress認定

そんな「政治と金」の問題をどげんかしようというChange Congressは3段階に分かれている。まずプログラムへの参加を希望する立候補者や政治家、市民が登録する際に「ロビイストやPAC(Political Action Committee)からの献金」「紐付き予算」「議会の情報開示」「公共資金による選挙運動」について自分の意見を明示してもらう。たとえば政治家には以下の4項目のうち、公約とするものを選択する。

  1. ロビイストおよびPACからの献金を受け取らない。
  2. 紐付き予算の廃止をサポートする。
  3. 議会活動の透明化を促進する改革をサポートする。
  4. 公的選挙における公共資金制導入をサポートする。

登録後、公約に応じたChange Congressアイコンを自らのWebサイトに貼り付けるためのコードが配布される。これはコンテンツ作成者が著作権の範囲を自ら決定し、その内容に応じたライセンス・アイコンが発行されるCreative Commonsの仕組みに似ている。国民の多くは政治家により多くの項目を公約にしてもらいたいと思うだろうが、政治家が信念をもってロビイストの支援を受けるのならば、それは評価の対象となり得る。

第2段階として4月からWikipediaのようなシステムを導入し、Change Congressに登録していない候補者や政治家についても、Change Congressの改革に対して、どのような考えを持ち、活動しているかを追跡する。市民レポータも上の4点について自分のChange Congress改革に対する考えを明らかにしているので、レポートを読む側がレポータの立場を考慮することで意見の偏りのバランスを調整できる。

全ての選挙区でChange Congress改革に対する議員の情報が集まったら、それらをマップにマッシュアップして公開するという。Change Congress改革の大きな規模、そして現状を広く認識してもらうのが主な目的で、年内のなるべく早い段階での公開を目標としている。

最終段階としてChange Congressを支援する立候補者を資金的にサポートする。これは女性政治家を支援する「Emily's List」をモデルとしている。EmilyとはEarly Money Is Like Yeastの略で、初期の資金はパンをふくらませるイースト菌のような効果があるという意味が込められている。Change Congressでは政治家が4項目を公約とするほどに資金繰りで苦労する可能性が高く、資金不足から意見を伝えることなく選挙戦から消えてしまわないようにサポートするのが目的だ。市民は「毎月10ドルを5名のChange Congress立候補者に」というように寄付する。

Dean旋風のスタッフが改革をけん引

Change Congressの効果については、様々な意見がLessig氏のブログなどに寄せられている。意外と多いのが、政治家の公約破りに馴れきった有権者が改革をあきらめているという指摘だ。90年代にも政治家に公約を宣誓してもらう取り組みがあったが、政治家よりもレポートする市民側の参加が乏しかったために失敗した。

ただ今年の大統領予備選で主要な候補がSNSを用意するなど、今や米国の政治家と有権者はネット上でより強く結びついている。Lessig氏と共にChange Congressを立ち上げたJoe Trippi氏は、2004年の民主党の大統領候補予備選でHoward Dean氏のキャンペーンマネージャーを務めたことで知られる。ネットを利用した選挙キャンペーンでDean旋風を巻き起こした人物だ。参加意識を高める手腕に長けており、Change Congressのオープンなレポートシステムが過去の失敗例を覆す可能性は高い。

政治家として力をつけるにはロビイストやPACからの申し出に耳を傾けるのも手段の一つである。だがChange Congressが機能し、その情報が有権者に広く影響するようなれば、早くからChange Congress支持の姿勢を示した方が得策とも考えられる。「以前は……」というようなレポートが先々の痛手となりかねない。Change Congressで宣言した公約を反古するなどとんでもない。「各候補は、それぞれの選挙区で自分たちを厳しくモニターし、レポートする有権者の力を認識することになる」とLessig氏。Change Congress対策は、これからの政治家にとって悩みどころとなりそうだ。