カジュアルゲームがゲーム市場の底辺を拡大すると言われるようになって久しいが、それを証明するように米国でワードゲーム「Scrabble」をベースにしたオンラインゲーム"Scrabulous"が人気だ。Facebookアプリとしても提供されており、これまでFacebookへのアクセスが週数回程度だったユーザーを常駐させるほど盛り上がっている。おかげで本家Scrabbleの売上げも急伸。ただ問題はこのScrabulous……ライセンスを取得していないのだ。権利を持つMattelとHasbroは「Scrabulousは海賊行為」と怒りを露わにしているものの、Scrabbleブームの火は消したくないというジレンマに陥っている。

Scrabulous

Scrabbleは15×15のマス目にアルファベットのタイルを並べて単語を完成させるボードゲームだ。1930年代にAlfred Mosher Butts氏が大元となるゲームを作り、40年代後半にScrabbleという名称で販売が開始された。50年代に全国的に広く知られるようになり、80年代にはNBCがScrabbleをベースにしたゲームショウを制作していたが、その後テレビゲーム人気に押されてボードゲームが下火になるとともにScrabbleで遊ぶ人も減少の一途だ。現在Hasbroが北米、Mattelがその他の地域での権利を所有している。

Scrabulousを作ったのはRajatとJayantのAgarwalla兄弟だ。2人は利益を上げるのが目的ではなく、小さい頃から遊んでいたScrabbleをパソコンでプレイできるようにしたかったのだという。しかしニューヨークタイムズの記事によると、今や200万人近くがScrabulousに登録し、70万人以上が毎日プレイしているそうだ。その結果、Agarwalla兄弟は毎月約25,000ドルもの広告収入を得ているという。

HasbroはRealNetworksとElectronic Artsの2社とライセンス契約を結んでおり、今年1月にScrabulousのサービス停止を要求、FacebookにもScrabulousの削除勧告を送付した。だが、特に期限などが設けられていないため、今もScrabulousは存続している。怒っているはずなのに弱腰、それどころかScrabulousを気づかっているところすらある。その理由はただ1つ……Scrabulousユーザーだ。サービス停止に乗り出したとたんに、Facebookで「Save Scrabulous」という存続を求めるグループが組織され、今も参加者が増え続けている。民意はScrabulous側にありという雰囲気なのだ。しかもSave Scrabulousのリーダーは15歳である。今時のティーンエイジャーがScrabbleに熱中するなんて、ボードゲーム・メーカーには考えられないことであり、その火を消してしまうのはあまりにももったいない。ScrabulousをつぶしてしまうのがHasbroやMattelの本意ではなく、なんとかScrabulous人気を正規のサービスとして取り込みたい。そこでRealNetworksがScrabulousを買い取るという案も出ているようだ。

ソーシャルネットワーク効果を証明

Scrabulousは時間制限がなく、他のScrabbleベースのオンラインゲームのようにリアルタイムで対戦する必要はない。Facebookを開いておいて、時間が空いている時に手を進めるという、ゆる~い遊び方が可能であり、そこが受け入れられている理由の1つとなっているようだ。メッセージ交換機能もあり、新種のコミュニケーションツールのようでもある。ただScrabbleベースのゲームが数多く存在する中でScrabulousがブームを呼び起こしたのは、Facebookのソーシャルネットワークとの相乗効果のおかげと言える。

ユーザーの間では、チェスのようにScrabbleもパブリックドメインとして扱われるべきではないかという議論も行われている。そのようなユーザーの声がHasbroやMattelに届いているのは素晴らしいことだ。ただ両社が腫れ物にでも触るようにScrabulousに対している現状は奇妙でもある。ゲームとしてのScrabulousのオリジナリティを考えると、そのまんまScrabbleなので、権利侵害とするHasbroやMattelの言い分は正当なものだ。そのように考えると、提供プラットフォームであるFacebookの役割も無関係とは言えない。オープンさはユーザー本位と言えるかもしれないが、このままで著作権保有者やベンダーを含めたエコシステムを拡大できるだろうか……。

さて、今週はAppleがスペシャルイベントを予定している。iPhoneとiPod touch用の開発キットの詳細が明らかになると期待されているが、早くもネット上では様々な制限が設けられる可能性が指摘されている。たとえばアプリケーションのインストールがiTunes経由に限られる、プログラムの動作がSafariベースになる等々。予想の中身はともかくとして、ほとんどが制限を歓迎していないのが気になるところ。PCやPalmのような自由さがないからといって、一概に否定はできない。ネット家電には、セキュリティに加えて、対応サービスを含めたエコシステムをバランスよく広げるための仕組みが必要である。SDK提供にはSafari戦略も絡んできそうだし、それがユーザーをしばる制限なのか、プラットフォームとしての役割なのかを見極める必要があるように思える。