iPhoneの発表と共に始まった2007年は、ハードウエア/ソフトウエア、ネット、サービスの様々な融合の形が見られた面白い1年だった。個人的にには、Enlightenmentの開発メンバーなどが作り出した「gOS」の印象が引っかかるように残っている。Googleを快適に利用するためのOSであり、デスクトップにはGoogle検索、アプリケーションを起動させるドックにはGmailやGoogle MapsなどGoogleのWebアプリへのリンクがずらりと並ぶ。OS全体がGoogleに結びついている。Webのクイックな動作が求められる部分ではWebRunnerが用いられるなど工夫も盛りだくさんだが、特に新しいテクノロジを備えたOSではない。それでもWebサービスを日常的に使うためにデザインされたOSというスタイルには、先進的なアイディアを感じた。

gOSっぽいUIをMacで体験

gOSで面白いと思ったのは、Webアプリへのリンクがパソコン上でアプリケーションのように扱われている点だ。Gmailなどへのリンクがプログラムとして登録されているし、ドック内のアイコンをダブルクリックすれば起動(アクセス)できる。WindowsやMacではWebアプリへのアクセスはWebサイトのリンクであり、URLとして扱われる。ちょっとした違いだが、リンクがアプリケーション側にあるだけで、Webアプリの利用体験が随分と変わったような気がした。

「Fluid」というツールを使えば、この違いをMacでも体験できる。WebアプリのURLから、そのWebアプリ専用のブラウザを「アプリケーション」に生成してくれる。生成されたブラウザのアイコンをダブルクリックすると、アプリケーションのようにWebアプリが起動するし、Dockのアプリケーション側に入れることも可能だ。今は0.3βで動作が不安定だが、アイディアとしては面白い。Webアプリのリンクをアプリケーション化することで、Google ToolbarやGoogle Desktopを導入してもしっくりこなかったGoogleとMac OSの統合のすき間を埋められる。

FluidでWebアプリのURL (YouTube)と名前を入力して専用ブラウザを作成

アプリケーションに作成されたYouTubeの専用ブラウザ

Dockのアプリケーション欄への登録も可能

ダブルクリックすると、YouTubeの専用アプリケーションのように起動

iPhoneに最適化された"使えるWebアプリ"が増加

Webブラウザの検索機能で、ユーザーが任意の検索サービスを選択できるようになるまでにも長い時間がかかった。パソコン利用の比重がネット寄りになっているとはいえ、現在一般的に利用されているパソコン用のOSがすぐに幅広いWebアプリをサポートするようになるとは考えにくい。WindowsはMicrosoftの、Mac OSはAppleのWebサービスを浸透させる武器として存在し続けるだろう。

ただWebアプリを使うためのデバイスなら話は別である。そう、Webアプリでサードパーティの開発者をサポートすることが議論となった「iPhone」である。SDKリリースまで、あと3カ月程度という段階では、どうでもいい話題と思うかもしれないが、iPhoneが発売された頃に比べると、iPhone向けWebアプリが格段に使いやすくなっているのだ。

たとえば今月初旬に提供開始されたGoogleのiPhone/iPod touch向けのインタフェース。実にきびきびと動作する。Wi-Fi経由ではなく低速のEDGEだと、その差をはっきりと実感できる。Web検索をポータルに、GmailやGoogle Calendar、Google Readerなど、Googleが提供するモバイルサービスに素早く切り替えられるのも便利だ。iPhone/iPod touch版のSafariにはWeb検索が統合されているが、専用ユーザーインタフェースの方が使い勝手がよく、ひと手間増えても今は「www.google.com」で検索するようになった。

iPhoneに最適化されたGoogle。検索ボックスに英語を入力すると、キーワード候補がリストされ、1文字打つごとにどんどん絞られていく

時々間違えてしまうぐらいiPhoneの電話機能にそっくりなJAJAHの新インタフェース

iPhone発売直後、すぐに対応したIP電話のJAJAHも今月初旬にiPhone向け新インタフェースを投入した。これまではPC向けのサービスをモバイル用にシンプル化したようなユーザーインタフェースで使い勝手が今ひとつだったが、新版ではiPhoneの電話機能を操作するのと同じ感覚でJAJAHのサービスを利用できる。モバイル環境で国際電話を節約するためのキラーアプリ/サービスとしてお勧めできる。

先進的に見せられなかったところに残念感

今年6月のWWDCでSteve Jobs氏が「Web 2.0 + Ajax」でサードパーティの開発者をサポートすると発表したとき、開発者にとっては厳しいモノになりそうだと思ったが、ユーザーの視点では一歩進んだ考えに感じられた。メール、写真・ビデオ、ブックマーク、ネット利用動向と、ユーザーのデータがどんどんネット上に貯まっていく中で、それらの情報にiPhoneのユーザーインタフェースとタッチ操作でアクセスできるのなら、面白いことになるんじゃないかと思った。

ただ残念なのは、特に手を加えなければiPhoneのホーム画面から直接Webアプリへとアクセスする手段がなかったことだ。Safariの起動が必須である。「Web 2.0 + Ajax」だからこそ、Webアプリへのリンクをアプリケーションのように扱える仕組みを用意してほしかった。そうすればiPhoneの印象もまた変わっていたかもしれない。iPhone購入時に標準アプリのMaps(Google Maps)を使って他のWebアプリでも同様の仕組みが欲しいなと思い、今GoogleやJAJAHなどiPhoneに最適化された使い勝手の良いWebアプリが登場し始めて再び残念感に浸っている。

ホーム画面はAppleのビジネスの場という意味もあるのだろうが、「Web 2.0 + Ajax」の制限がある時期に、gOSのようにWebアプリを扱うことをiPhoneが体現していたら面白かっただろうな……と思ってしまう。