Google本社近くにオフィスを構えるスタートアップの23andMeがDNA解析サービスを開始した。Google創設者の一人であるSegey Brin氏の妻Anne Wojcicki氏と、Linda Avey氏が設立した会社で、Googleが投資したことで春頃に話題になった。解析料金は1人999ドル。高いと思ったし、DNAの内容を知ることは好ましくない先入観につながるとも指摘されている。なので、利用するつもりなど全くなく、単なる冷やかしで同社のサイトをのぞいてみたのだが、同サービスには自分研究と呼べるようなユニークな一面がある模様。特にWebサイトを通じて提供されている遺伝子のエクスプローラサービスが面白いらしく、体験談を併せ読むうちに、だんだん999ドルが手頃に思えてきた……。

自分の不思議をDNA検索

23andMEのサービスを利用するには、まずWebサイトで申し込む。するとサンプル採取キットが送られてくるので、それに唾液をつけて返送する。抽出されたDNAは、55万以上のSNP(一塩基多型)を読み取るIllumina BeadChipで処理され、さらに23andMeのスタッフの研究成果を加えた60万近いポイントからゲノムが分析される。ユーザーはサンプル送付から待つこと4~6週間。解析が完了したらパスワード保護されたパーソナルWebぺージにアクセス可能になり、そこで自身の遺伝コードを知り、その意味を学べる。

このパーソナルサイトで行う"自分研究"に惹かれるのだ。同サイトは、ユーザー個々のゲノムを理解するための「Gene Journal」、先祖からの遺伝を知る「Ancestry」、科学的に自分の遺伝子データを研究する「Genome Labs」、遺伝子に関する基本的な情報や研究データにアクセスできる「Genetics 101」の4つのチャンネルで構成されている。たとえばGene Journalで前立腺ガンの項目に進むと、遺伝から罹患する割合が数値で示され、さらに環境など他の要因との関連を比較できる。Ancestryでは、DNAをベースにした人類全体の系図の中で、起源からこれまで自分の先祖がたどってきた歴史を確認できる。またもっと近い範囲で、自分の肉親から受け継いだ遺伝の影響を知ることも可能だ。Genome Labsでは、自分の染色体まで掘り下げて遺伝子がどのように構成されているかを知り、その影響を確認できるGenome Explorerや、家族や友人の遺伝子と比較するGenetic Comparisonsなどが用意されている。

Genome Explorerは遺伝子やSNPから関連情報を検索する機能を備えている。サービス開始前から23andMeを試していたNew York Times紙の記者によると、自分のDNAを検索するのは中毒になりそうなほど面白く、Genome Explorerを操作し始めたらすぐに数時間が経ってしまうそうだ。自分の起源を知ったり、自分でも分からない癖や身体的な特徴のナゾを遺伝子で理解するのは新鮮な発見なのだろう。

以前ならば遺伝子データが分かっても、そこから引き出せる情報に限りがあったと思う。だが今は検索機能のおかげで、インタラクティブに自分のケースに合致する情報を引き出せる。検索機能を駆使して、広く深淵なゲノムの世界を自在に探求できるのが23andMeの面白さであり、おそらく、そこにGoogleがDNA解析に興味を持った理由があるように思える。

正しく理解しなければ諸刃のデータ

23andMeに挑戦してみたいけど躊躇する理由の1つは、DNA解析が自分研究と割り切れるとは限らないからだ。ユーザーのほとんどは結果が出たら真っ先にヘルスへの影響を確認するそうだ。データの内容を考えれば、自然な反応だと思う。自分を客観的に見ることに長けた人ならば、人生をうまく過ごすためにデータを活用できるだろう。遺伝的に特定の病気の可能性が高くても、その情報を基に生活改善に努めればいいのだ。しかしポジティブに受け止められるとは限らない。たとえば解析結果に直面した人の多くが、類似点よりも相違点ばかりを気にするという。実際には類似点と相違点は同様に重要であり、その考えを持てないと結果を悪く受け止めてしまう可能性が高まる。

欠点や不得意を克服するからこそ、人間は成長するという考えもある。自分の子供がピアノを習いたいと言い始めたとき、DNA解析から音楽的な才能がないことを知っていたとしたら、どのように応じるだろう。効率的なアドバイスをするか、それとも挑戦してみる努力が糧になると考えるか……。

23andMeのサイトには、医療関係者や研究者へのメッセージが掲載されている。 解析結果を知ったユーザーとのトラブルを配慮しているのだろうが、正直なところ、今後予想される問題を考えると心許ない。個人のDNA解析が可能である以上、人々の好奇心を押さえつけるのは難しい。となると重要なのは遺伝コードに対する人々の理解を深め、有効に活用できるようにする環境作りである。例えば2008年のDNA解析サービス提供を予定している米Navigenicsは1人あたり2500ドル程度と割高だが、サービスには電話によるコンサルティングが含まれる。

23andMeは面白く、新しいモデルを作り出しそうなインパクトを備えるが、万人向けとは言い難い。実験的と表現したくなるようなネットサービスであり、その革新性がDNA解析というセンシティブな分野でも通用するかが気になるところだ。