米国時間の11月14日にMicrosoftがコンシューマ向け統合セキュリティソフト / サービス「Windows Live OneCare」の新版をリリースした。バージョン1.0の提供が始まったのが昨年の6月。サブスクリプション形式のPCケア・サービスというセキュリティとPC管理の新コンセプトを開拓した。だがユーザーはウイルス / スパイウエア対策機能に関心を持つ傾向が強く、ウイルス検出率などの調査スコアが芳しくなかったことから、リリース前の期待ほどの成功には至らなかった。

今年7月、初期導入者のサブスクリプションが切れ始めるのにタイミングを合わせるようにバージョン2.0のベータが登場した。バージョン1.0の反省からセキュリティ機能の強化をアピールすると思ったら、新機能はホームネットワークに接続する複数のPCの管理。方針を修正することなく、バージョン2.0でも"統合的なPCケア"で勝負している。Windowsプラットフォーム向けにセキュリティソフトを提供する企業に遠慮しているとは思えないし、なぜMicrosoftはユーザーに伝わりやすいセキュリティを控えめにして、PC管理をアピールするのか……。

予想外の高コストにほっとけ論も

などと考えていたら、サンノゼ・マーキュリー紙に「ポルノ・フィルターのコスト集計 - サンノゼ図書館へのインストールに285,000ドル」という記事が掲載された。サンノゼ市議会の小委員会で、市図書館のパソコンへのコンテンツフィルター導入に関する中間報告が行われたのだ。それによると市図書館のコンピュータにフィルターシステムを追加するのにかかる費用が285,000ドル。加えて、7人のスタッフの雇用を含む維持費が年間210,000ドルになるという。これは未成年が図書館のPCから成人向けのコンテンツにアクセスするのを防ぐのが主な目的である。サンノゼ市図書館ではブランチだけではなく、サンノゼ州立大学の図書館もネットワークに参加している。両図書館が連携することで、市民と学生が効率的に書籍にアクセスできる非常に便利なシステムになっているのだが、大学図書館としても利用されているのがが、ネットアクセスのフィルタリングを難しくしているそうだ。

サンノゼ州立大学の近くにあるメインライブラリのDr. Martin Luther King Jr.図書館では、今年に26件の成人向けコンテンツへのアクセスに関するトラブルが報告されており、うち17件は逮捕または起訴に発展している。その他の図書館に関しては2005年からこれまで6件の問題が報告されているのみ。一般利用者の多い図書館ではトラブル報告が少ないため、Dr. Martin Luther King Jr.図書館で大学生の利用者が多いのが原因と考え、システム全体へのフィルタリングは不要と主張する関係者もいる。サンノゼ市では今後も調査を継続し、来年1月に市議会で決議が行う予定だ。

ユーザーに適切なPC環境をきちんと提供

現在サンフランシスコでは、米ISPのComcastがBitTorrentのようなP2Pネットワーク経由のファイル転送を制限しているのが「ネットの中立性」を損なうとして集団訴訟に発展しそうになっている(Comcast側は制限行為を否定)。図書館におけるフィルタリングも同様の問題となる可能性を含むが、これまでのところ自由なアクセスの制限の影響を懸念する声はほとんど聞こえてこない。悩みの種はコストであり、むしろコストが高いから少しぐらいのトラブルには目をつぶろうという意見が出ている方が問題に思える。これが書籍なら、すぐに館内から排除されるだろう。

ウイルスやスパイウエアに比べると、コンテンツフィルタの必要性は実感しにくい。だが数が少なくとも逮捕者が出ていることが、サンノゼ図書館でのフィルター導入の動きにつながった。そして今回の予算見積もり結果である。このような事例は、今後増加していき、手頃なコストで利用者に適したコンテンツアクセスがきちんと行われる環境が求められるようになりそうだ。

PCユーザーが高いセキュリティ意識を持つ中でMicrosoftがPC管理に力を入れるのは、そこに未開の分野を見ているからだろう。同社は、Live OneCareの直前に、家庭向けコンテンツフィルタリングWindows Live OneCare Family Safetyを含むWindows Liveの新版をリリース、またXbox 360ユーザー向けに家族向けガイドラインPACTの提供を開始するなど、パレンタルコントロールの幅広い導入に向けた動きが目立つ。ただ前述の通り、図書館においても多少のトラブルは仕方がないという声が出てくるのだ。Microsoftと言えども、適切なPC管理の効果をきちんと浸透させるのは難しそうだ。