9月にベータが公開されたばかりの無料オンライン・ファイナンスサービス「Mint」を試している。複数の銀行口座やクレジットカードのバランスを1カ所で管理できるサービスだ。ただし、利用する上でオンラインバンキングのIDとパスワードをMintに委ねる必要があり、仕事半分でなければトライすることもなかったと思う。色々な人から勧められて試用することにしたが、すぐにアカウントを閉めて、登録した口座のパスワードを変更するつもりだった。ところが、すでに試用は3週目に突入し、条件次第では、このまま使い続けることすら考え始めている。

10分でセットアップ完了、あとは待つだけ

Mintの魅力は"使いやすさ"と"スピード"、そして"情報"にある。Mintによると、平均的な米国人は、4つ以上の金融機関にアカウントを持っているそうだ。そこで複数のアカウントを一元管理するためのデスクトップ版のファイナンスソフトが利用されているが、「時間のかかるセットアップ・プロセスと面倒なデータ入力に対する不満で多くの人が利用をあきらめている」とMintは指摘する。

Mintを利用するには、まず電子メールアドレスとパスワードを設定してアカウントを作り、続いて銀行口座やクレジットカードのアカウントを登録する。すでにオンラインサービスを提供している3,500以上の金融機関がMintに対応しており、検索機能を使って自分が契約しているサービスを探し出し、それぞれのログインに必要なユーザーIDとパスワードを登録するだけでセットアップを完了できる。アカウント作成から銀行口座(×2)とクレジットカード(×2)を登録するのに10分とかからなかった。

Mintは、ネット上からかき集めたデータを便利で使いやすい形に再構築する"Webならでは"のファイナンスサービスと言える。現金の引き出しや小切手振り出しなどのトランザクションを、ユーザーがいちいち入力する必要はない。Mintが1日に1回、登録されたオンラインバンキングにアクセスし、取引内容をMintのサービスに同期させる。ユーザーは、Mintのアクティビティページを見るだけで、複数のアカウントをまとめた貯金残高や負債などを確認できる。支出は自動的に「エンターテインメント」「ガソリン代」「グローサリー・雑貨」「外食」「ショッピング」などに分類され、それらの比率が円グラフで表示されるほか、各カテゴリの支出額の月々の推移を棒グラフで確かめられる。

支出は自動的にカテゴリー分けされ、比率や月々の推移がグラフ表示される。カレンダーの開始ポイントと完了ポイントを移動させるだけで分析期間を変更できるなど、デスクトップソフトに引けを取らない操作性も特徴

節約指南の画面。ユーザーの利用サービスを分析し、より有利な利子の銀行口座やクレジットカード、IPフォンへの変更などを提案。年間の予想節約額が表示される

アラート機能も充実しており、残高が少なくなった時や大きな額のアクティビティなどの条件を設定すれば、電子メールやSMSで通知してくれる。また資産運用のおすすめ機能もあり、ユーザーが利用しているサービスを分析して、より利子の高い銀行口座、低利子のクレジットカードなどをリストアップし、それらを利用した場合に倹約できる年間予想額が示される。このあたりのスピードと柔軟性もオンラインサービスのメリットと言える。

ネットからかき集めたデータで自分を構築

Mintはユーザーがアカウントを作成する際に電子メールアドレスしか収集ない。これは不必要な情報を集めることでユーザーから悪用が懸念されるのを防ぐためであり、またサービス上でユーザーの特定を難しくする狙いもある。Mintがオンラインバンキング口座から同期する情報もトランザクションだけで、個人を特定できるような情報は含まれない。つまりMintのデータを見られても、誰が、誰のトランザクションを集めた結果なのかは分からない。

ある仮想的なアイデンティティ(電子メール)の下に、トランザクションデータのみをアグリゲートするMintの手法は、ビジネスがデータ保管のセキュリティとコンプライアンス準拠を強化する中で、センシティブな情報をネットでセキュアかつ便利に活用するためのソリューションの1つとなる。ユーザーがMintに預けるオンラインバンキングのユーザーIDとパスワードは、提携している金融機関に対して必要なデータをMintに提供してもらうための引換券のような役割と言える。

ただ、そのようにMintが信頼できるサービスを訴えても、同社はまだスタートアップに過ぎない。幅広い金融機関との提携を果たしているものの、実際にオンラインバンキングのユーザーIDとパスワードを登録するのには躊躇する。私自身、その信頼性を確信していないから冒頭で「条件次第では~」と書いたし、センシティブな情報を渡すリスクを考えると、現状では他の人にお勧めすることはできない。

今回Mintを使って驚いたのは、普通に生活しているだけで自分のファイナンス情報が自動的にネット上に克明に記録されているという事実だ。米国がクレジットカード社会というのも影響していると思うが、本当にトランザクションをマニュアルで入力する必要が全くない。口座のオンラインサービスを登録してあとは放っておくだけ。Mintにネット上のデータをかき集めさせるだけで、正確な家計簿ができあがってしまうのだ。このような状況は今後、ファイナンス以外の分野にも広がっていくのだろう。その意味では、ネットの様々な場所で生成されるデータをアグリゲートして、自分の情報として構築するアイデンティティ・サービスというアイディアは非常に面白い。そしてユーザーの信頼を獲得するための取り組みが伝わってくるようになれば、有望である。