発展途上国の子供向けに低価格ノートPCを提供するプロジェクトを進めるOne Laptop Per Child(OLPC)が、期間限定で北米でも低価格ノートPC「XO」を販売する。話題のニュースとなっていたのでご存じの方も多いと思うが、北米では推定価格の倍以上となる399ドルで販売され、1台は購入者に、そしてもう1台は発展途上国の子供たちに寄付される。

1台399ドルでGive 1 Get 1。ガジェット好き以外も購入するだろうか?

100ドルPCというコンセプトに続いて、今度は「1台寄付すれば、あなたにも1台(Give 1 Get 1)」。OLPCの活動では、常に数字が話題になる。では、ニュースでもスポットが当てられる、これらの数字からあなたはどのような印象を受けているだろうか?

想定外の数字をシャットダウンする頭

写真家のChris Jordan氏が「Running the Numbers」という、米国社会の大量消費の"膨大な数字"を可視化した作品シリーズの一部をWebサイトで公開している。たとえば「Plastic Bottles, 2007」は、米国で5分間ごとに消費される200万本のプラスチックボトルを並べた写真だ。同様に「Cell Phones, 2007」には、米国で毎日捨てられる426,000個の携帯電話が山積みされている。これだけの数が1カ所に集められた全体像の写真は何が何だか分からないが、大量消費の無駄の迫力は伝わってくる。これらの作品はそれぞれ、一部拡大と実物大まで拡大された2枚の写真との3枚セットになっている。3枚を見比べてほしい。はっきりとペットボトルや携帯電話を確認できるほどに、大量消費の浪費や害が身近に感じられるのではないだろうか。特に実物大の写真を眺めていると、自分が消費している量に近いだけに「自分もリサイクルで貢献すれば、何とかなる」という気になる。では、これらの作品が全体像の写真1枚だけだったら、どのように感じるだろう? 一見しただけでは何の写真だか分からないし、説明を読んだ後でも、あまりの量に自分が努力したところで何も変わらないような虚無を感じる。

このような反応をソーシャルサイエンスのシンクタンクDexision Researchを運営する心理学者Paul Slovic氏は、数に対する心理的な麻痺だとしている。私たちは自分でイメージできる数や計算できる範囲の数字には敏感に反応し、感情を移入できるが、数が大きくなりすぎると把握・理解するのを止めてしまう。頭が自動的にシャットダウンしてしまうのだ。たとえば負傷した戦争孤児が米国の施設で難しい手術を受けるというようなニュースをテレビで見ると、すぐに寄付を考える人は多い。ところがルワンダやダルフールの問題が報じられても、政治的な圧力をかけるための寄付の必要性を感じる一般的な視聴者は少ない。

数の問題ではないと考える人もいると思うが、Slovic氏はグループを2つに分け、1つには飢えた子供が1人写っている写真を見せ、もう一方には2人の飢えた子供が写っている写真を見せて、それらの反応を調べる実験を行った。その結果、2人の子供の写真を見たグループの寄付が15%少なかった。さらに別のグループに8人の子供が写っている写真を見せたところ50%も少なかったそうだ。少ない数ではより多くの情報を吸収し、それが感情移入につながるが、数が多くなるにつれて鈍る。耳に置きかえると、音が小さい時には様々な音の要素をとらえられるが、音が大きくなるほどに細かなニュアンスが分からなくなる。大きくなりすぎれば、ヘビーメタルとクラシックほどの違いがあっても騒音でしかない。これに近い反応を、われわれは数字に対しても行っているそうだ。

100ドルを実現する難しさと身近な1台

慈善事業が取り組む問題というのは、多くの人が脳をシャットダウンしてしまうようなレベルの数である。効果的に協力を求めるには、我々の頭を働かせるひと工夫が必要になる。

そこでOLPCの数字を考え直してみると、"100"ドルPCはクローズアップ画像のように問題を身近に感じさせる数字に思えるが、実際には「市場規模が数千万台規模にならなければ実現できない価格」とか、「受注は100万台以上から」など、巨大な数字を意識させるばかりだった。OLPC会長のNicholas Negroponte氏によると、同団体が北米での販売に踏み切った背景には、XO導入で合意した国からの支払いが滞っているという問題があるという。導入国にとっては1台200ドル以下であっても、負担が巨大であることに変わらないのだから、その結果もうなずける。

対してGive 1 Get 1は、自分と同じ1台を共有している子供がいるという点で問題を身近に感じられる。自分が直接寄付できるから親近感を感じるんだ……という声もあると思うが、発展途上国の子供たちの教育を支援したいのなら、これまでだってOLPCに寄付することは可能だった。Give 1 Get 1というプログラムに実物大の画像のような効果があるからこそ、399ドルと割高であっても、より多くの人の寄付を集めるのではないかと期待している。

ただ1対1のつながりで終わっては、究極の問題解決にはならない。Jordan氏の3枚組の作品のように、自分の1台が巨大な問題を解決する一部であることを強く意識させる仕組みが必要。そういうプログラムが盛り込まれて欲しいところだ。だってXOはネット端末なのだから……。