ついにというか、やっと今月20日に米国でDVDの保護技術を管理するDVD Copy Control Association (DVD CCA)が、商業ベンダーおよび個人に対してCSS (Content Scrambling System)で保護されたDVDの作成を許可する新規定を最終的に承認した。注文を受けてその場で映画のDVDを作成するキオスクや、オンライン配信で入手したファイルからユーザーが自ら映画DVDを作成できるサービスなどが可能になる。これでDVD化されていない映画もDVDで楽しめる可能性が出てきた。

音楽ではできるのに、映画では不可能

米国では2006年春にMovielinkやCinemaNowがメジャースタジオの映画作品のオンライン販売を開始している。同年9月にはAppleがiTunes Storeを通じた映画販売を本格的にスタートさせた。ただ、これらのサービスから購入した映画の再生はパソコンや対応する携帯メディアプレーヤーに限られる。オンライン音楽配信ではCDで再生可能なオーディオCDを作成できるのに、オンライン映画配信では購入したビデオコンテンツをDVDにバックアップできるのみ。映画DVDは作成できない。携帯型プレーヤーになじむ音楽に対して、映画は持ち歩くよりもリビングルームでゆっくり楽しみたいと考える人が多い。映画のオンライン配信こそ広く普及しているDVDプレーヤーに対応すべきなのに映画DVDを作成できないから、オンライン音楽配信のような爆発的な普及に至っていない。その原因となっていたのがDVD CCAだった。Sonic SolutionsがオンデマンドDVD作成向けの技術を開発し、昨年8月にDVD CCAがCSSを使った映画DVDの作成を認める新規定を明らかにしたものの、なかなか最終的なゴーサインを出さなかった。

DVD CCAが承認を渋った理由は、まず違法コピーに対する懸念である。違法コピー対策という点でCSSは万全にはほど遠いのが現状だ。それにDVDが規格化された当時、オンライン配信など想定外だった。加えてオンデマンドDVD作成で新たな配信サービスが盛り上がると、Blu-ray DiscやHD DVDの立ち上がりに影響しかねない。DVDの延命を手助けするより、早く次のステップへと進みたいのが正直なところである。

ただ音楽においては、まだCDが主流とはいえ、売り上げの減少が目立つ。対してオンライン音楽配信は、便利でユニークなサービスや、数百万曲におよぶ膨大な販売曲のライブラリが魅力として消費者に浸透し、着実に売り上げを伸ばしている。今年はついにCD同様にDRMフリーな音楽がオンラインストアで販売されるようになった。音楽産業が違法コピーに悩まされる姿を見ながら同じ轍を踏まないように慎重になっていた映画産業だが、今はむしろCDの凋落の方が気になるのだろう。

DVDのオンデマンド作成に関して具体的なサービスは発表されていないが、現状の技術では元となるファイルはDVDへの書き込みにしか使えない。オンライン音楽ストアで販売される音楽ファイルに比べると、利用の幅がせまい。また書き込みには専用のDVDディスクが必要になる。なにかと制限があるものの、前述のようにDVD化されていない作品もDVDで手に入れられる可能性は大きな魅力である。そのためMovielinkを買収したBlockbusterに加えて、ストレージ事業に力を入れるAmazon.comも新サービスに意欲を示している。

消費者にはうれしいオープンモデルの台頭

ここ最近、ネットを通じたコンテンツ配信のビジネスモデルという点では「エッ」と思うような発表が続いている。販売価格をめぐってAppleと交渉決裂したと報じられたNBC Universalが、広告ベースで人気番組の無料ダウンロード提供を開始すると発表した。どうもNBCが嫌ったのは価格ではなかったようだ。ネットワークテレビの本分である番組配信をしっかりとコントロールしたかったのだろう。ABCとCBSもネットでの無料の番組提供を強化する姿勢を示しており、3大ネットワークがいずれもネット上で無料サービスを軸に視聴者とスポンサーを上手く結びつけようとしている。これは基本的にテレビと同じ手法なのだが、ネット向けのマーケティングがカギとなる。たとえばCBSはブログやソーシャルネットワークサービスへの露出を重視するなど、ライバルよりもネットコミュニティ重視の戦略を展開している。もう1つ、同時期にNew York Times紙が有料会員制の「Times Select」の中止を発表した。一部の読者にプレミアコンテンツを提供するよりも、全てを無料で公開して得られる広告収入の方が成長を期待できるという。

「コンテンツこそがキング」というメディア企業の姿勢は以前から変わらない。ただネットという手段では、無料提供を含めて、ユーザーがアクセスしやすい状況を作る方が大きな収益に結びつくと考え始めた。ユーザー視点からの理想として語られることが多かったオープンモデルが急速に実践されるようになっている。