北米最大のゲームイベントと呼ばれていたE3が今年からビジネス色を強めて規模を縮小した。一部の報道関係者とベンダーに参加者が絞り込まれ、6~7万人だった規模が1/10以下になった。では、今年の"北米最大のゲームイベント"の座はというと、PAX (Penny Arcade Expo)が有力視されている。

PAXなんて聞いたことがないという方も多いだろう。米国でもE3のような知名度はなく、完全に知る人ぞ知るという存在である。だが、8月末にワシントン州シアトルで行われたPAX 2007には3万人を超える参加者が集まった。で、今頃になって、なぜPAXを取り上げるかというと、同イベントは20日から始まる東京ゲームショウの北米におけるライバルとも呼ばれているのだ。正しくはPAX参加者の多くは東京ゲームショウにも興味津々であり、参加者交流が可能なイベントなのである。

ゲーマーでなければ理解不能な笑い

PAXがユニークなのは、オンラインで無料配信されている3コマ・コミック「Penny Arcade Strip」の読者コミュニティから始まったという点だ。Penny Arcade Stripはガーフィールド(Garfield)やディルバート (Dilbert)と同じ、典型的なストリップのフォーマットで、風刺の効いたコミックである。ただ普通の笑いではない。取り上げられているのはゲーム関連の話題のみ。ゲーム内で出てくる台詞、ゲーマーならではの単語や言い回しがぼんぼん飛び出してくる。ゲームの最新ニュースがネタになっている回も多く、ゲーム業界の動向を把握してなければ、オチがさっぱり分からない。読者となれる層が極めてせまいのだ。ただ、その限られた読者に圧倒的に支持されている。作者のMike Krahulik氏とJerry Holkins氏は、ゲーム専門のプレスと同様に開発中のゲームの情報をチェックし、トレーラーやデモに触れて、そのゲームが世に出るタイミングに合わせてPenny Arcade Stripのネタにする。その絶妙さがハードコアなゲーマーの心をがっちりつかんでいる。Penny Arcadeの現在のページビューは月5,500万程度。よほどがんばっているゲーム情報サイトでなければ、ゲーマーに対する影響力という点で太刀打ちできないと言われている。

Penny Arcade Stripの人気の高まりと共に、新聞シンジケートから掲載の打診を受けたようだが、作者2人は安易なビジネスモデルに乗らなかった。ゲーマーにとってクールな存在であるのをPenny Arcade Stripのビジネスモデルとし、ゲーマーが好んで読まない新聞を見送り、オンライン配信にこだわった。その結果、ハードコアなゲーマーに効率よくリーチできる場所と評価され、今ではBlizzard、NAMCO BANDAI Games、Midway、Ubisoftなど大手ゲームベンダーが競って広告を出している。

E3を失ったゲーマーの受け皿

PAXは、Penny Arcadeが2003年に始めたゲーマー向けイベントだ。数多くの試遊機とデモ、ゲームトーナメント、パネルディスカッション、コンサート等々。ゲーマーに楽しんでもらうためのゲーム・フェスティバルである。

東京ゲームショウのある日本では、ゲーマーが主役のイベントに違和感がないと思うが、米国で活気のあるゲームイベントはE3のようなゲームビジネス向けのイベントばかりだった。そこに試遊機やデモを目的にしたゲーマーも集まり始め、イベントが肥大化するに従って展示コストが高騰。コスト対効果の低下を嫌う出展者が現れ始めたため、E3はゲーマーが直接最新のゲームに触れる場所であることを切り捨て、より明確にゲームビジネスに焦点を搾ったイベントとなった。

問題はE3を失ったゲーマーの受け皿である。昨年までE3が開催されていたLAコンベンションセンターで、10月にE for Allという大規模な新イベントが行われる。ただ、従来のE3の試遊やデモを切り取って提示するだけでは、出展企業と参加者を満足させられるかは疑問符がつく。

PAXはE3後継を狙ったイベントではないが、Penny Arcade Stripに集まるゲーマーの年に1度のお祭りが自然と受け皿になっている。PAXをゲーム業界のウッドストックと呼ぶ声もある。ゲーム文化に根づいたコミュニティによるムーブメントの期待も込めた喩えだろうが、それに応えられるような勢いが今のPenny Arcadeにはある。その根っこが3コマ・コミックだけに、ネットコミュニティのパワーを実感できて痛快な気分になる。米国においてゲーマー向け大型イベントが初めて注目されている今年、コミュニティ色の強いPAXに"北米最大のゲームイベント"の座を獲得してもらいたいところだ。