【コラム】
今月5日に米サンフランシスコで開催されたAppleのスペシャルイベントで、AppleとStarbucksの提携が発表された。基調講演の中でSteve Jobs氏が両社の提携サービスを「コーヒーとiPod」と述べたのは、Starbucksの歴史をふまえた表現と言える。そんな紹介だったから、業界の常識を打ち破るようなサービスの発表が期待された。
アトランタ五輪の時に、アトランタのミッドタウンでStarbucksを発見してうらやましく思った記憶がある。当時、私が住んでいたニューヨークにStarbucksは進出できていなかった。その頃の売り物はコーヒーだけで、しかも客がだらだらと長時間を過ごせる効率の悪いスタイルである。コストのかかるマンハッタンには適応しにくいと言われ、実際存在しなかったのだ。
そんな行き詰まりを変えたのが、大手書店チェーンのBarns & Nobleとの提携だ。書店内にStarbucksの小スペースが設けられ、そこでコーヒーを飲みながら、腰を落ち着けて書店内の雑誌や本を自由に立ち読み(正確には座り読み)できる仰天サービスが始まった。"本と本格的なコーヒー"の組み合わせはBarns & Nobleのアイディアだったが、Starbucksも斬新なコーヒーショップとして注目され、全米展開の弾みとなった。
このような経緯があるため、その後Starbucksはいち早くホットスポット・サービスを導入するなど、コーヒーと共に楽しめる何かを創出するのを大きなテーマとしている。音楽事業への進出も、コーヒーとの組み合わせの一環である。
さて、今月5日に米サンフランシスコで開催されたAppleのスペシャルイベントで、AppleとStarbucksの提携が発表された。基調講演の中でSteve Jobs氏が両社の提携サービスを「コーヒーとiPod」と述べたのは、かつて"書店でコーヒー"を実現したStarbucksの歴史をふまえた表現と言える。そんな紹介だったから、業界の常識にとらわれないサービスふたたび……そんな雰囲気に会場は包まれた。
結果から言うと、発表されたサービスはAppleとStarbucksの組み合わせから多くの人が期待するほど刺激的で意外なものではなかった。「iPod touch」または「iPhone」を持ってStarbucksに行くと、Wi-Fiサービス経由で店内でかけられている曲の情報やStarbucksのミュージックコレクションにアクセスでき、楽曲の購入もできるサービスを全米のStarbucksに展開する。その後の報道をチェックすると、「iPod touch / iPhoneの利用スタイルが大きく広がるわけではない」「iPod touch / iPhoneユーザーがStarbucksに行く回数が増えるとは思えない」というような意見が目立つ。
個人的には、両社の提携は出口と入り口が上手くつながった成果ではないかと考えている。Starbucksは音楽事業のてこ入れが必要だ。音楽レーベルとしてStarbucksのHear Musicはユニークである。関わったRay Charlesの「Genius Loves Company」、Herbie Hancock「Possibilities」がグラミー賞を獲得。さらにPaul McCartneyと契約するなど話題性が高い。店内に流れる音楽は、オールディーズであっても古さを感じさせない選曲で、曲名やアーティストに興味を持つ人も多いだろう。ただ音楽販売という点では斬新さを欠いている。音楽事業進出以来、Starbucksのカウンターの横でCDが販売されるようになったが、今までコーヒーと一緒にCDを購入している人を見たことがない。スーパーのレジ横のガムと違って、簡単には手が伸びないようだ。CDショップスタイルのStarbucks "Hear Music"も、これまでのところ音楽ファンの行き先となっていない。コーヒーショップとCDの相性は今ひとつであり、レーベルで扱っている音楽は従来のCD流通に頼らざるを得ないのが現状。その打破のために、オンライン音楽配信の活用が課題となっている。
一方、Appleの課題は入り口だ。現在iTunes Storeの楽曲ライブラリは600万件を超えており、ユーザーがそれら全て試聴するのは不可能である。ライブラリが大きくなるほどに、iTunes / iPodユーザーと音楽を的確に結びつける仕組みが重要になる。iTunes Storeにも数多くのおすすめ機能があるが、優れた案内人が多すぎて困ることはない。ユニークな視点で音楽を発掘するStarbucksは最適なパートナーなのだ。
Starbucksとの提携発表の翌日、AppleはiBiquity Digitalおよび主要ラジオネットワークと共に、iTunes StoreとHD Radioを連係させる新サービス「iTunes Tagging」を発表した。デジタルFM放送で気に入った曲がかかったら、HD Radioのレシーバーのタグボタンを押すと、あとでiTunes Storeで購入できるように記録される。2008年前半に対応機器の提供が予定されている。これもiTunes Storeの入り口を広げる取り組みの一つと言える。
コーヒーとiPodは、Starbucks Hear Musicのいくつかの出口とiTunes Storeのいくつかの入り口の一つが結びついたに過ぎない。それが太いパイプになるかは現時点では何とも言えない。ただ、それぞれが出口と入り口の拡充に努めているというのは今後の展開に期待できる事実だ。
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