噂のUS版VOGUE9月号を発売日に購入した。総ページ数がVOGUEの歴史で最多の840ページ。重さにすると、4ポンド9オンス(約2.07キロ)。しかも、そのうち727ページが広告である。出版不況もファッション誌には関係なし……という訳ではない。VOGUEが新たに開始した「ShopVogue.TV」というファッションサイトと連携した広告戦略で、VOGUEの広告ページが増加したのだ。雑誌がShopVogue.TVに完全にけん引されているのか、それとも雑誌とネットの相乗効果か……いずれにせよ出版業界に籍を置く者としては727ページもの広告を集めた中身が気になるところだ。

表紙にも記録破りの840ページと大書されているVOGUE9月号。これで価格は4.99ドル(約580円)

地域版の電話帳よりも分厚い。持ち歩けないし、机に置かずに読むのは不可能

実際に手にしてみると、まるで電話帳のようだ。雑誌としては致命的と思えるほど重い。本屋でも、通常20冊ぐらいの雑誌が積まれている棚に、5冊ぐらいしか置けない。売るにも効率が悪そうだ。中は広告だらけで、記事を見つけ出すのに本当に苦労する。通常、数ページの広告の後に現れる目次が、9月号では54ページ。目次は2ページ構成で、2ページ目が96ページに飛んでいる。その間は全部広告である。ちなみに最初の記事が始まるのは308ページだ。

記事ページには、ページの数字の横に「www.vogue.com」というURLが記載されているが、どこにもShopVogue.TVとは書かれていない。広告も、ファッション誌で見られるごく普通の広告である。キレイに撮影された写真とブランド名のみ。特にShopVogue.TVとの関係は記されていない。これではVOGUE9月号からShopVogue.TVに読者は誘導されない。つまり、あちらからこちらへの一方通行。ShopVogue.TVがVOGUEを補足するサイトではなく、VOGUEがShopVogue.TVのための雑誌であるようだ。

ファッション業界にも対応できるWeb媒体

ShopVogue.TVには「SHOP」「WATCH」「SHARE」の3つのメインメニューがあり、SHOPを選択するとVOGUE9月号に広告を出しているブランドのオンライン広告が表示される。170ブランドの1,500以上の商品の広告を、ブランド名、トレンド、カテゴリー、価格などからブラウズできる。ファッション誌は広告を含めたブランディングで作り上げられており、読者は広告も雑誌の一部として楽しめる。ShopVogue.TVでも同様に、オンライン広告がファッショナブルに仕上げられている。広告っぽくなく、見ていて楽しい。

WATCHは、ShopVogue.TVのメイン・コンテンツといえる合計240分のオリジナルビデオ番組で、「Behind the Lens」「60 Seconds to Chic」「Trend Watch」「The Collections」などのチャンネルが用意されている。SHAREは読者セクションで、ファッション、ショッピング、エンターテインメント、ダイニングなどに関する写真と簡単な情報を投稿できる。

米国では「Project Runaway」や「America's Next Top Model」など、ファッション業界を題材にしたリアリティショーが人気だ。ファッションという特殊な世界の裏側を覗きたいという願望が視聴者にあるのだろう。ただこれらのショーは、モデルやデザイナーを面白おかしく扱っており、ファッション・ブランドが広告を出すかというと、ブランドイメージが崩れるので"否"である。ShopVogue.TVは、B級番組にならないようにファッション業界の裏側をWATCHで紹介し、SHAREで読者も参加できるようにしている。ShopVogue.TVという名前ではあるが、ShopVogue.TVでは商品を販売していない。SHOPの広告はアート性が高く、情報は最小限。販売に関しては、各ブランドのWebサイトへのリンクがつけられているのみだ。

ファッション誌では情報提供以上に、ブランディングが重視される。そのためWebでは対応しきれない面があり、これまでオンライン進出が遅れていた。ShopVogue.TVでは、リアリティショーやビデオ/写真共有サービスなどの要素を取り入れながら、ブランディング・ビジネスというファッション誌の鉄則をネット媒体で再現している。その結果が170ブランドからの広告である。逆にいえば、ブランディングに適合できるほどWebの表現力が向上しているということだろう。

広告主と消費者を結ぶShopVogue.TV

New York Times紙によると、広告主はVOGUE9月号の全米広告ページを契約するとShopVogue.TVにも広告を掲載できる。複数ページの広告契約をすると、VOGUEのビデオ番組などでも扱われるそうだ。推測だが、VOGUEに広告を出したらオンライン版がおまけについてきたというケースよりも、ShopVogue.TVの枠の方を取りたくて雑誌に広告を出した広告主の方が多いのではないだろうか。それぐらいShopVogue.TVの完成度は高い。

一方VOGUEはというと、いくらファッション誌でも、広告727ページでは読み物とは言い難い。そもそも、より多くの部数を売る気があるなら、重さ2キロの雑誌なんて作らないだろう。では、雑誌VOGUEの役割は何か?

おしゃれなShopVogue.TVでは、1,500以上の商品をズラりと並べたサムネイルなど当然用意されていないので全体像がつかみにくい。雑誌のVOGUEならパラパラと広告を飛ばし見できる。めくれる広告ディレクトリーとして役に立つ。つまり見かけだけでなく、役割も電話帳。読者を広告主の商品に結びつける重要な役回りはShopVogue.TVが担っている。VOGUEの840ページは、ファッションサイトとしてのShopVogue.TVの順調なすべり出しの証明ということか……。Webサイトを印刷したら、こんなに分厚くなりましたという感じで、ちょっとむなしい。