旧来の音楽のビジネスモデルに挑戦状を叩きつけてきたLala.comが新しいサービスを開始した。同社はネットを介した中古CD交換サービスでスタート市民ネットラジオを追加して、今度はデジタルロッカーとオンデマンドのストリーミングサービスを無料で提供しようとしている。

新サービスを利用するにはまず、Lala.com Playerという専用プレーヤーをWebブラウザ(Internet Explorer 6.0、Firefox 1.5、Safari 2.0以上)にインストールする。すると音楽が保存されているディレクトリ(マイミュージックやiTunesのフォルダ)がスキャンされ、Lalaのアカウントに自分がPCで管理している音楽のリストが反映される。それらの楽曲ファイルはLalaのサーバにアップロードされ、完了すればPCを使ってどこからでも自分の音楽ライブラリにアクセスしストリーミング再生できるようになる。MP3.comのデジタルロッカーと同様、もし自分が所有している音楽を他のメンバーがアップロード済みならば、その曲の再アップは行われない。だから時間と共にアップロードの手間は省かれるはずだが、今のところアップロードされない楽曲に出会う方が少ない。

スキャンの対象となるのは、CDから取り込んだ音楽やiTunes Plusで購入した音楽などDRMフリーのファイルのみ。Napsterのサブスクリプション形式のサービスでダウンロードしたファイルやiTunes StoreのDRM付き音楽なども試してみたが、楽曲の情報が登録されることはあってもフルストリーミング再生の対象にはならなかった。

iTunesとLalaがiPodで合体

ユニークなのは、このようにして作成した自分の音楽リストからプレイリストを作ってiPodに同期できるのだ。iTunesを介する必要はない。実際に使ってみると、これが意外と便利。外出時でも自分の音楽ライブラリにアクセスして、iPodの楽曲を入れ替えられる。Lalaの発表を読んだ時は、iTunesから転送したiPod内の音楽ファイルが消されて、新たにLalaのプレイリストが同期されると思ったが、iPod内でiTunes分とLalaのプレイリストがきれいに融合される。iTunes Storeから購入したDRM付き音楽をキープしながら、残りのスペースをLalaからの音楽で埋められるのだ。

新サービス開始と共に新デザインとなつたLala.com。左から所有している音楽リスト(My Music)、コミュニティ(Discober)、中古CD交換(Trade)、CD購入(Buy)のタブが並ぶ。実際には4つのサービスが密接に連携している

Lala.comに登録した音楽から作成したプレイリストをLala.com Playerを使ってiPodに同期

同期後のiPodの中身。AJICOはCDから取り込んでiTunesで転送、GorillazはiTunes Storeで購入したDRM付きファイル、FeistはLala.comのマイミュージックから同期。これらがiPod内で同居

iPodに転送したLala.comのマイミュージックのプレイリストをiTunesで確認。何も表示されない

Lalaは将来的に音楽のダウンロード販売を計画しており、購入した音楽はストリーミング再生またはiPodに直接転送するかたちになる。詳細については明らかにされていないが、おそらく転送回数に制限を設けないのではないだろうか。

オンデマンドの無料フルストリーミング

新サービス開始に合わせて、LalaはWarner Music Groupとの提携を発表した。現在Lalaでは約30秒の試聴を提供しているが、Warnerの楽曲についてはオンデマンドの無料フルストリーミング再生が可能になるという。もちろんユーザーが再生するたびに、Lalaが使用料を支払うことになる。しかも他のレコード会社とも同様のライセンス契約で交渉しており、Lalaは今後2年間で約1億4,000万ドルのコストを予測している。

それほどのコスト負担を背負ってまで、なぜこんなサービスを提供するのか。Lalaの考えでは、音楽にお金を払う熱心な音楽ファンであるほど、音楽をレンタルではなく所有する傾向が強く、また厳しく取捨選択して音楽を購入する。つまり試聴や人の意見を重視するのだ。そのカギが曲全体を無料で聞けるストリーミングサービスの提供だと考えている。当サービスを通じて、ユーザーは十分に試聴した上で納得して購入できる。Lalaならばワンクリックだし、期待ほどではなかった場合は中古CDの交換で入手するという方法も選択できる。またフルストリーミングはLalaコミュニティの活性化にもつながる。コミュニティ内で音楽論議を交わしている時、その曲の一部ではなく、その場で曲全体を聞ければ、お勧め効果が飛躍的に高まるとLalaは期待している。

Lalaのコミュニティはつながりが濃い。中古CDを交換したら、感想はどうだったかとか、お前の所有リストを公開しろとか、週末のオフ会に参加しろとか、メンバー間のコミュニケーションが発生し、すぐに自分と同じ音楽の趣味を持つグループがふくれあがる。面倒に思うことも度々だが、こんな音楽好きの濃いコミュニティだからこそ、お勧めに信頼がおける。だからLalaはオンデマンドの無料フルストリーミングサービスにおいて、ただ聴きを推奨している。無料ストリーミングに惹かれてLalaのアカウントを作り、サービスを利用開始したとしても、次第にコミュニティに取り込まれ、所有しているCDを交換したり、新たにCDを購入することになる。

それでも……だ。Lalaのような社員23人の小さな会社が、コミュニティサポートのために1億4,000万ドルものコストを背負うのはリスクが大きい。Lalaは自らのコミュニティに、それだけの価値があると試算したのだろうが、さてどのような結果になるだろうか……。