ゴールデンウィーク中にAppleのSteve Jobs氏が、環境対策に関するオープンレターを公開した

「Appleは2008年末までに、すべてのディスプレイからヒ素の使用を完全に排除する。技術的および経済的に実現可能ならば、水銀の使用を削減・排除するために、すべてのディスプレイをLEDバックライトに移行する計画だ」という。このほかにも、Apple StoreにおけるiPodリサイクルプログラムの世界拡大、具体的な数字を示したリサイクル目標が示されるなど、意欲的な内容だ。

環境対策の中に、さらりとLEDディスプレイの計画を盛り込んでいるところがうまい。環境対策の発表というと、エコ意識の高い人には読まれても、一般のユーザーには関心を持ってもらえないことが多い。だが、薄型・軽量、高輝度、低消費電力などの面でも向上が期待できるLEDディスプレイのような話が入れば、より身近な話として接してもらえそうだ。

この長いオープンレターの中でニヤりとしたのが、最後の段落の「このように長い間、ユーザーに方針を示さなかったことをすまなく感じている」という部分だ。Appleの環境対策については批判もあったし、環境運動家としても知られるAl Gore元副大統領が2003年3月にAppleの取締役に就任しているのだから、もっと早い時期に環境対策方針を明示してもおかしくはなかった。ただ、意地悪な見方をすれば、米国で環境対策を打ち出して追い風にできるタイミングは"今"なのだ。1年前なら逆風を弱める程度の効果はあっても、追い風にはならなかっただろう。それぐらい今、米国では環境対策への関心が高まっている。

カーボン・ニュートラル - 使った分は寄付でカバー

十数年前に米国で生活し始めたとき、驚かされたのは米国人の豪快なエネルギーの浪費っぶりだった。どこの家庭でも屋内の照明に60W~100W超の白熱電球を使っていた。もったいないから蛍光灯を買いに行ったら……売ってない。ただ、電気代の請求書を見たら、それほど高くなかったので、ある意味納得である。ガソリンも一時はボトルで売られている水よりも安い状態だったから、自動車はサンダル代わりである。そんな豊かな状況で暮らす人たちに"省エネ"を呼びかけても、必要性を分かってもらうのは難しい。

しかし、今では原油価格の高騰が米国にも影を落としている。元々が安かったので値上率が大きいし、安いガソリンに合わせたライフスタイルを送っていたから生活の修正も強いられる。おかげで、ここ1~2年の間にハイブリッドカーが売れるようになり、DIYの店には蛍光灯型の電球が並び始めた。財布を直撃されて、やっと芽生えた環境意識である。

特に今年に入ってからは、雑誌や新聞などで環境意識の高い生活が特集されるようになるなど、ガソリンの値上がりと直接結びつかない分野にまでエコフレンドリーな考えが浸透し始めている。だから今、企業が環境対策を打ち出せば、一歩先ゆく取り組みを広く消費者に訴えられるチャンスなのだ。

このタイミングはビジネスチャンスでもあり、面白い製品・サービスも登場し始めている。

たとえばTerraPassは、流行語にもなっている「カーボン・ニュートラル(Carbon Neutral)」な生活を可能にしてくれる。カーボン・ニュートラルというのは二酸化炭素の放出と吸収が相殺されている状態だ。飛行機を使って旅行する際、TerraPassで出発地と目的地を入力すると、飛行機が排出する二酸化炭素の1人分の量が算出される。その分を相殺するために、再生エネルギーや環境対策プロジェクトへの投資をTerraPassを通じて行えるのだ。たとえば成田とサンフランシスコを往復すると放出される二酸化炭素は3,984ポンド。7,500ポンド分のTerraPassは36.95ドルである。同様のサービスは他にも存在するが、TerraPassはオンライン旅行サービスのExpediaと提携しており、Expediaで航空チケットを購入する際にも利用できる。

飛行機や車を使用して排出したCO2を寄付で相殺できるTerraPass

ConsumerPowerlineのHome Jouleも面白い。家庭のコンセントに差し込むと、電気の使用状況や室温をモニターし始める。さらにページャーネットワークを通じて送られてくる気温や天気、電力会社からのデータなどの情報と比べながら、節電をアドバイスしてくれるのだ。デバイスはOrbで知られるAmbient Devicesが設計しており、エアコンなどを切るべき状態ではバックライトが赤くなり、節約状態ではグリーンになる。現時点でフルサービスを利用できるのはニューヨーク市のみだが、反響が大きいようなので他の都市にも広がりそうだ。パートナー企業を集めて、電気を節約したユーザーには映画チケットなどの報酬を提供する計画もあるそうだ。

エコフレンドリーというと"護る"というイメージだが、米国では"攻め"の姿勢が目立つ。ビジネスライクになり過ぎる感があるものの、それ故に分かりやすいし、環境問題に関心のない消費者でも参加させるような勢いがある。ただ、エコフレンドリーがビジネス的に追い風である間は進行が速いが、風が止んだときにどうなるか……という不安材料がある。

おまけで、Microsoft主催の「2007 Microsoft StartSomthing PC」のファイナリストに選ばれている「Energy Tree」も紹介しておきたい。家庭のエネルギー使用やリサイクル状況をモニターするためのPCで、上部に本物の木が植えられている。ユーザーがエコフレンドリーならば、木が生い茂り、その逆では枯れてしまう。コンセプトモデルだが、デザインした英国のBen Arent氏によると、技術は揃っているため生産が可能だという。価格は400ドル程度を希望している。今なら米国の企業が面白がりそうなアイディアだ。ちなみに2007 StartSomthing PCの受賞者は5月15日に発表される。

エコフレンドリーになれば盆栽が育つPC版たまごっち「Energy Tree」