【コラム】
先週サンフランシスコで開催されたGame Developers Conference(GDC)で、エキスポ会場を歩いていたらノートPCに向かって念力を送っているような不気味な集団に出くわした。サンノゼを本拠とするNeuroSkyのブースである。同社は脳波の変化をコマンドに変えて、手を使わずにゲームを操作できるようにする技術を開発している。GDCでは一般参加者でも簡単なデモを体験できたので、さっそく試してみた。
脳波をとらえるコントローラは、マイク付きのヘッドセットのような形で、マイクの部分に相当する部分がセンサーとなっており、その先端の電極をこめかみにあてる。通常ジェルを塗った電極を数多く装着しなければ正確に脳波を記録できないそうだが、NeuroSkyのコントローラはジェルを塗る必要はなく、ヘッドセットをかける感覚で装着できる。ただ複数の人が試すのを見ていたら、髪型や体毛、頭の形などで感度が異なるようだった。
デモで挑戦するのは、ゲーム空間の中のオブジェクトを動かしたり、浮揚させる簡単な操作だった。
まずマウスでボールや椅子などをクリックして、動かすオブジェクトを決定。NeuroSkyのヘッドギアは、ユーザーが何かに注意を払っている状態とリラックスしている状態を読み取るほか、目の動きを認識する。それらのバイオ信号を同社がeSenseアルゴリズムと呼ぶライブラリに照らし合わせて、ゲームの操作に変換する。つまりアテンションとリラックスを上手く使い分けるのが重要で、一度コツをつかめば連続的に動かせるようになる。ただしオブジェクトを動かすぐらいのレベルまでにアテンションを引き上げるには、周囲の雑音をシャットアウトして対象物に集中する必要がある。
誰でも立ち寄れるオープンなブースで十数人に囲まれ、モニターの向こう側からこちらをのぞき込む顔がちらちらするような状態では、そのレベルまで集中するのが難しかった。試しに「これを動かせなければ、レポートが書けない…」と精神的に締め切り間近風に自分を追い込んでみたが、やっぱりダメ。結局、壁を前に純粋に集中するのが一番だった。
DGCでは、サンフランシスコを本拠とするEmotiv Systemsも脳波をゲーム操作に変換するデモを披露していた。
こちらのコントローラの試作機はヘルメット型で、NeuroSkyよりも電極が多い。またデモスペースは集中しやすいクローズドな場所となっていた。スタッフによるデモの内容は、NeuroSkyとほぼ同じだったが、アテンションとリラックスを区別するだけの競合他社よりも細かく脳波の動きのパターンを解析できる点をアピールしていた。これによりモノを動かすというような意識的な操作だけではなく、驚いたり喜んだりというプレイヤーの無意識な感情もゲームキャラクターの表情や行動に反映できるという。
EmotivはGDCでEmotiv Development Kitというゲーム向けの開発キットを発表、NeuroSkyのブースでもゲーム開発者担当者が次々と来る開発者の対応に追われていた。どちらも来年には製品として形になる見通しを示しており、開発者の関心の高さを目の当たりにすると、その可能性は十分にありそうだ。
ただ正直なところ、バイオ信号でゲームをコントロールするというアイディアには疑問符がついた。小さなコントローラを使わずにゲームキャラクタを動かせれば、操作のもどかしさが解消されるように思えるが、実際には一体感のような感覚は得られなかったからだ。ゲーム向けの開発キットが出てきた状態で、まだまだゲーム操作との統合が進んでいないという現実を差し引いても、ちょっと違うな……という印象だった。おそらく通常の生活においてモノを動かすのに手足を利用しているように、念力で動かすといったイメージの操作に現実味がないのだろう。たとえばスターウォーズのゲームで、Xウイングを沼から引き上げるシーンならリアリティもあると思うが、ゲーム操作全般に有効とは思えなかった。
EEG(electroencephalogram:脳波)は、教育や医療、居眠り運転防止機など、様々な用途が検討されている。商業化に取り組む企業の中には、一般の注目度が高いゲームを使えば、技術の有効性を効率的にアピールできるという期待があるだろう。
ただ任天堂の宮本茂氏がGDCの基調講演で指摘していたように、新しいテクノロジを使えばゲームが面白くなる訳ではない。ゲーム開発者のアイディアとテクノロジとのマリアージュが不可欠。それを実現できるかが今後の課題になりそうだ。
Emotivが取り組んでいるように、プレイヤーの無意識な反応をゲームに反映させるための補助的なツールとして使うのは面白そうだ。またゲーム操作ではなく、ゲームに対するプレイヤーの無意識な反応をゲーム開発者がモニターするツールとして利用するという手もある。そのデータを利用すれば、よりプレイヤーの感情に訴えられるゲームに仕上げられそうだ。
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