【コラム】

シリコンバレー101

209 広がる所得格差、景気回復で悲鳴を上げる非テクノロジ労働者

    Yoichi Yamashita  [2007/01/30]

    「シリコンバレーはダイナミックな進化を遂げる新時代に突入した」

    Joint Venture: Silicon Valley Networkのプレジデント兼CEOであるRussell Hancock氏のコメントだ。同団体は先週、シリコンバレーの指標レポートの最新版「2007 Silicon Valley Index」を公開した。

    2006年6月末までのデータをまとめた最新レポートでは、シリコンバレーが5年間におよぶ低迷を抜け出して再び成長し始めたと分析している。前年度比2.90%増となる33,000人の新規雇用を実現。地域の失業率は4.1%に下がった。ベンチャー投資もシリコンバレーに集中しており、2000年には米国全体の21%だったのが2005年は27%となった。

    1950年代から自身の再発明を5~6回繰り返してきたシリコンバレーにおいて、今回新たな成長分野となっているのがWebテクノロジと環境技術だ。Web技術は"Web 2.0"というキーワードで語られるムーブメントを作り出している。クリーンテクノロジについては、同分野への投資が2005年第1四半期から2006年第3四半期の間に173%増加した。近い将来、シリコンバレーはエネルギーバレーと呼ばれるようになるという声もある。

    Joint Ventureは新レポートの内容を反映させたカンファレンス「2007 State of the Valley Conference」を2月2日にサンノゼ市で開催する。基調講演のスピーカーはWebテクノロジとクリーンテックから1人ずつ。まず午前がGoogleのCEOであるEric Schmidt氏、そして午後が映画「不都合な真実」が話題となっているAl Gore元副大統領だ。久しぶりにValley Conferenceの基調講演を聞いてみたい……と思わせるのも、これら2つの分野にけん引されてシリコンバレーが勢いづいている証拠だろう。同じように感じている人は多いらしく、同カンファレンスのチケットは受け付け開始からアッという間に売り切れてしまった。

    さて、今回の成長にはこれまでになかった面白い特徴がある。成長分野において競争とコラボレーションのどちらの可能性も見られるのだ。

    グローバリゼーションの影響で、シリコンバレーがこれまでのような存在感を示せなくなるという指摘を目にするが、これまでのところ逆に自身の役割を見つけ出し、うまく成長につなげているようだ。製造主体からアイディアを供給する役割へシフトし、それがWeb技術やクリーンテックなどの新分野の成長を生み出している。

    特許取得数を地理的に見ると、2005年の米都市のトップ10にシリコンバレーの6地域がランクインしている。その一方で、国際的な共同特許数が1993年から2005年の間に6倍に増加しており、インド、中国、イタリア、台湾、フィンランドなどを相手にコラボレーションの成果が見られる。英国、日本、台湾、イスラエル、シンガポールなどからのベンチャー投資がシリコンバレーに流れ込み、逆にシリコンバレーのベンチャー投資家も中国、英国、イスラエル、韓国、インド、日本、ドイツなどに積極的に投資している。その結果、シリコンバレーは住民の36%が米国外生まれという国際色豊かな地域となっている。

    米国全体では景気の横ばい推移となっている中、ひとり春を謳歌するシリコンバレーだが、住人の1人としては複雑な気分になる数字も見られる。シリコンバレーの労働者の平均所得は74,300ドル。ただし、この数字は全体の30%でしかないテクノロジ関連の仕事に就いている人たちによって大きく引き上げられている。

    たとえばソフトウエア産業だけで見ると平均148,935ドルだ。一方で小売り/カスタマー・サービスに就いている人たちの平均は29,031ドル。高所得な住民の存在と北カリフォルニアのおだやかな気候を反映して不動産価は一向に下がる気配がなく、一戸建ての平均価格は住民の4分の3にとっては手が届かないものとなっている。さらに30%のテクノロジ関連と70%の非テクノロジの労働者の所得格差は広がるばかりで、米国規模で平均的な収入レベルの人たちでもシリコンバレーでは生活できない。このままでは様々な職種が混ざり合わなくなり、街として機能しなくなるのではないか……という不安を抱えている。教育面では、高校の卒業率や、4年制大学に入学できるレベルの学力を持った高校生の比率が下がった。また未成年、そして成人においてもドラッグによる逮捕者数が増加した。豊かになったデメリットと思われるデータがいくつか見られる。

    景気が上向くと共にドットコムバブルの頃の暮らしにくさを思い出す回数が増えているが、今回はテクノロジ企業内のエリート率が高まっている。前回よりも業界格差が"暮らし"に直撃しそうな雰囲気だ。グローバリゼーションの影響で厳しい競争にさらされるのは、むしろシリコンバレーの非テクノロジ産業の人たち。一見シリコンバレーの隆盛とは関係がないように思えるが、豊かな暮らしという点では、彼らもまたシリコンバレーを支える屋台骨の1本である。

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