【コラム】
Skypeの創業者がインターネットテレビ企業を設立したというニュースで、増加しているネットとテレビの融合が"Shotgun wedding" (できちゃった結婚)と表現されていた。面白いんだけど、なんだか分かるような、分からないようなたとえだ。憤慨しながらも花婿に銃を突きつけて結婚させる父親が著作保持者だとして、じゃあ騒動の原因となった子供はYouTubeなどに上げられたコンテンツということか……。
さて、2月半ばにサンノゼのPBS(Public Broadcasting Service)局「KTEH」が住民とのミーティングを開催する。PBSは非営利の公共テレビ放送ネットワークで、加盟局は教育プログラムを中心にした良質な番組を放送している。個人的には「Antique Roadshow」という米国版お宝鑑定団みたいな番組をよく見るし、KTEHは地元の短編映画フェスティバルを主催していたので、けっこう親しみのあるテレビ局なのだが、経営は相当苦しかったようだ。10年前には60人いたスタッフが今は40人になり、そのせいで地元の人たちに人気だったKTEHオリジナルの地域番組を制作できなくなるという悪循環に陥っていた。結果、昨年10月にモントレー地域のPBS局KCAHと共にベイエリア最大のPBS局KQEDに統合され、Northern Californian Public Broadcasting(NCPB)という組織になった。KQEDが格段に裕福というわけではない。PBS局の台所事情はどこも苦しく、さらなる効率化を図った統合といえる。
PBS局は時間の流れがゆったりしているというか、10数年前に米国に来て初めて見たときにも「古いなぁ~」という感じがしたのに、それから番組の雰囲気がほとんど変わっていない。PBSを支援するミュージシャンのコンサートを放送して、その合間に寄付を募るという番組がある。最初は物珍しさもあって楽しめたのだが、いつまでも60年代や70年代のミュージシャンのコンサートばかり。住民のために良質な番組を放送し、住民の支援を得るというPBSのスタイルを最も理解してくれる年齢層を狙っているからなのだろう。ただ、月日の流れと共に、だんだんシニア向け放送局という雰囲気になってきて、それがPBS局を立ちゆかなくさせている。そこで若い層にもPBSを支援してもらおうと活動し始めたのが、PBS局統合の中心となったKQEDだ。今や普通のテレビ局ですら若い層の取り込みに苦労しているのにPBS局である。これは大いなる挑戦と言える。
若者取り込みプロジェクトは、いきなりPBS伝統のやり方が否定されてつまづいた。支援会員や寄付といったスタイルに若い層は全く関心を示さない。地域コミュニティをもり立てるために、少しの出費を……という意識はうすい。
ところが同じコミュニティでも、ネットコミュニティには協力を惜しまない。書き込みしたり、リンクを付けたりなど、積極的に活動する。それに面白いコンテンツは購入するし、役立つサービスをサブスクライブするのを厭わない。
そこでKQEDは若い層の感覚を取り入れるために、まず番組の予告のようなビデオをYouTubeで公開した。すると、ビデオに対する反応や評価がちゃんと返ってくるし、話題になれば番組を意識してもらえる。最初は、若い層には自分たちのコンテンツが古すぎたり、真面目すぎると受け止められるのではないか……という疑問を抱いていたが、古いライブでも視聴者が見たいものを提供すれば関心を持たれる。自然や歴史、紀行などの教育番組でも同様だ。そうなればPBSは良質なビデオの宝庫である。それから人々の反応を参考に、しっかりと番組プログラムを練り、ネットで宣伝しながら、視聴者を少しずつ拡大していった。またもう一つのコンテンツ提供手段として、「オンラインのPBS」と呼ばれるOpen Media Network(OMN)の利用を進めている。OMNを通じてビデオコンテンツのダウンロード販売を開始したほか、OMNがCESで発表したDVD品質のビデオをオンライン経由で提供するサービスの採用も検討している。今では経営が危うい状態だったKTEHも、番組提供というテレビ局本来の手段で持ち直してきているという。
若い層を取り込むめどが立ってきたのは良かったが、今新たな問題に直面している。PBSのローカル局は地域のテレビ局という役割も担っている。たとえば地元のフェスティバルや花火大会、地元高校のスポーツの試合の中継などだ。以前のKTEHはオリジナルの地域番組が看板で、全体の半分以上を占めていた時期もあった。それがPBSライブラリからの番組ばかりになってしまい、地元住民からの不満が噴出している。そのため来月半ばに住民とのミーティングを設けて、今後の地域番組について話し合うのだ。
KTEHでは業務の効率化で、少しずつオリジナルプログラムも復活させられる余裕が出来ているようだが、以前のように地域番組を中心に提供するのは難しいだろう。ただ果たしてこれが新しいPBS局の姿なのか……というと首をかしげたくなるところもある。PBS系のローカル局とネットの関係もまた、"Shotgun wedding"という雰囲気である。
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