【コラム】

シリコンバレー101

206 "奇跡のチームを作った男"が認めたシリコンバレー企業

    Yoichi Yamashita  [2007/01/09]

    フレモントに作られるシスコ・フィールドへの移転も決まって、ベイエリアまたはシリコンバレーを冠するのではないかと噂される大リーグ球団オーランド・アスレチックス(A's)。日本ではほとんど話題にならない。その理由はシブチン球団だから……だろう。

    ジャイアンツの桑田投手獲得にはちょっと期待したが、若くて話題性のある日本人選手の入札に参加することは「絶対にない!!」と言い切れる。06年の選手年俸総額は6,230万ドルで、ヤンキースの1/3以下、松坂投手への入札額(約5,111万ドル)に迫られている。大リーグ30球団中21位。意外と払っていると思う人もいるかもしれないが、昨年はチーム作りが成熟して、A'sとしては年俸総額が高い年だった。

    今年のストーブリーグは引退寸前のマイク・ピアッツァを獲得したぐらい。逆に昨年の勝ち頭でエースのバリー・ジト、チームのホームラン/打点王だったフランク・トーマス、チーム首位打者のジェイ・ペイトンをフリーエージェントで失った。もはや若手の伸びに期待するしかない……というチーム状況。普通に考えれば、あり得ないほどの戦力ダウン。フロントのやる気が問われるような結果である。

    しかし、これがA'sのストーブリーグで毎年繰り返される光景なのだ。キャンプインの頃の印象では、とてもプレイオフは望めない。ところが過去7年で5度もプレイオフに進出している。地味な選手ばかりで、豪快さはなく、試合運びも弱々しいのだが、終わってみれば勝ち星を積み上げられている。はっきり言って"強い"。

    無名の若手と他チームから放出されたベテランで構成されたチームが、結局ヤンキースと同じぐらいのところまで行くのだから、漫画みたいというか……。だから、A'sファンはやめられない。その抜群の効率性を支えているのが、97年にゼネラルマネージャー(GM)に就任したビリー・ビーンと言われている。おそらく、その見方は正しいだろう。00年~02年頃の成功は、当時のアート・ハウ監督の功績と言われたこともあったが、同監督はメッツに移籍してからは別人のような結果しか残せなかった。「マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男」で知られるビーンについては以前も取り上げたことがあるので、こちらも参照していただきたい。

    さて、そのビリー・ビーンがSaaSでCRMやERPを提供するNetSuiteの取締役に就任した。年内のIPOを狙っていると言われる同社には、Oracleのラリー・エリソンCEOが投資しており、Salesforce.comの成功という業界の勢いもある。さらに取締役の拡充を図る上で、ビリー・ビーンの就任はヒットである。大リーグという舞台で、投資対効果を追求し、地方球団が大都市球団に勝負できるようなチームを作り出しているビーンの参画は、NetSuiteのイメージを広く一般にアピールするだろう。

    ビーンは現在、アメリカンフットボールのヘルメットを扱うRidell、スポーツエンターテインメントのPROTRADEの取締役を務める。いずれもスポーツ関連であり、スポーツに全く関係のない事業に乗り出すのは今回が初めてだ。マネーボール以来、同氏にはビジネス畑からも数多くのオファーがあるそうだが、全て断っている。今後もNetSuite以外は受けるつもりはないという。ちなみにA'sもNetSuiteを利用しているそうだ。

    統計や数字の魔術師のように言われるビーンだが、マネーボールを読むと先見性に長けた信念の人という印象を受ける。札束合戦に身を投じなくても、強いチームを作れるというビジョンを持ち、それを実現する。この、自分を信じて実行するところが、なかなか難しい。その自分のビジョンを実現する上で必要な選手を見極めるために、統計や数字が活用されている。だからチーム作りのビジョンを持たずに、ビーンの統計術をコピーするだけでは、強いチームには仕上がらないだろう。その信念の人ビーンがNetSuiteに1票を投じたのだから面白い。Salesforceの後追いにとどまらない何かを感じたのだろう。

    ビーンがなぜこのような信念に人になったかを探ると、ビーンと同時期にメッツに入団し、86年のミラクル・メッツのセンターだったレニー・ダイクストラの影響が挙げられる。ビーンが80年のドラフト1巡目指名だったのに対して、ダイクストラは翌年の13巡目だった。ビーンはマネーボールの中で、身体・才能において自分の方が上回っていたはずなのにダイクストラに敗れた理由について、「ゲームに対する精神的なアプローチの違い」を挙げていた。ちなみに友人であり、かつて敗北感をもたらしたライバルだったダイクストラも、昨年末に独自の投資基金設立を発表している。野性味あふれるプレーヤーだったダイクストラが投資家というのはイメージしにくいが、よく調べてみると実業家としても成功し、The Street.comなどの分析記事やコラムで鋭い持論を展開している。もしかして現役時代の野球バカのような悪童ぶりは演出……。だとしたらビーンがダイクストラから学んだのは、精神的な取り組みだけではなさそうだ。

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