【コラム】
米国のスポーツファンは地元のチームのファンであるのが基本だ。ただ、ニューヨークからシリコンバレーに引っ越してきたりすると、複雑な気分になる。スター軍団のヤンキースと地方の貧乏球団のアスレチックスでは、あまりにも違いすぎる。心からアスレチックス・ファンになれるのか……けっこう本気で心配していた。ところが、それから5年近くが経ち、今ではニューヨークにいた頃の3倍ぐらいの頻度でスタジアムに通っている。
FAとトレードで人気選手を揃えるヤンキースに対して、アスレチックスは若手主体で、あとは数人のベテランと他の球団をお払い箱になった選手で構成されている。だからといって弱いチームではない。今年の成績はヤンキースを上回るア・リーグの西地区優勝だった。
強さの土台はゼネラレルマネージャーのビリー・ビーンのユニークなチーム作りだ。たとえば打者ならば打率同様に出塁率を重視する。単打と四球は同じように査定されるのだ。投手ならば三振よりもダブルプレーにつながるゴロによるアウトが評価される。だから、今年のアスレチックスには3割バッターが1人もいない。選手個々の成績はパッとしないが、チーム全体では効率的に勝っているのだ。
"効率性"には年俸のコストも含まれていて、めったに長期契約を結ばない。数少ない長期契約選手は、実力に加えて、若手のお手本となるかが条件になる。人気だけの選手は、チームの勝ち頭であってもあっさりと若手と交換される。そのため選手の移り変わりが激しく、先発メンバーは3年周期ぐらいで一新されてしまう。
こんなチームではファンが感情移入できないように思えるが、マネージメントに確固たるチーム作りのビジョンがあり、そのお手本となる長期契約選手がいる。若手はチームの色を素直に吸収するので、入れ替わりが激しくても、ファンにとっては"いつでもアスレチックス"なのだ。
一方、最近のヤンキースは常勝軍団だが、90年前半にバーニー・ウイリアムスやデレク・ジーター、マリアーノ・リベラなどチームの生え抜き中心で強くなっていた頃の方がチームの色がはっきりしていた。今のヤンキースは全米、さらには海外も見据えた大規模なベースボールビジネスを展開している。その人気はアスレチックスの比ではないが、以前よりも地元ファンが感情移入しにくくなったように思える。
どちらの方が優れているというのではない。どちらのチームも今年はプレーオフに進出している。ただ最近、ヤンキースが今日のようなベースボールビジネスを行えるのは、アスレチックスのようなチームがあるからだよな……と思うのだ。アイディアのアスレチックスと人気のヤンキース。2つのスタイルが互角にぶつかり合えるからこそ、ここ数年の観客動員数増につながるメジャーリーグの活性化が起きている。
さて、ブログサービス「Blogger」を開発したPyra Labsの創業者の1人であるEvan Williams氏がObvious Corp.という新会社を立ち上げた。同氏は、GoogleがPyraを買収した後、Google社員になったが、2004年10月に退社。その後、ポッドキャスティングサービスのOdeoを設立し、グループで情報を共有するSMSサービスのTwitterを提供している。
今回、Williams氏はOdeoの資産を自分で買い取り、新たにObviousとして再出発した。つまりベンチャーキャピタルの力を借りずに、自らが全てを管理できる形にしたのだ。なるべく他人のふんどしで相撲を取るのがシリコンバレーのやり方なのに、わざわざリスクを背負った。その謎の行動の理由は、Googleを退社したときの「自分の子供を置いてきた……」という同氏の言葉にある。
90年代後半のシリコンバレーはスタートアップを始めてIPOでゴールというのが成功のシナリオだった。バブルがはじけてからは、Yahoo!やGoogle、Microsoftなどの巨人に売却するというシナリオが加わった。ただ、どちらのケースも、事業の規模が大きくなったり、長い物に巻かれるとともに、以前の輝きが薄れ、開発者や創業者の存在が薄れる傾向がある。
そこでWilliams氏は、技術やサービスを売り飛ばすのではなく、開発者がユーザーとのつながりを保ちながら自ら育むというスタイルを実践する。Obviousでは、思いついたアイディアをすぐに実行できるプラットフォームを用意するという。開発チームは小規模にまとめ、低コストで自分たちがやりたいことを、自分たちでコントロールしながら進める。軽いフットワークで様々なアイディアを試し、役立つサービスをどんどん送り出す。有望なサービスはスピンオフして独立させることもあり得るという。
もちろん、これは変化のスピードが速く、小規模なグループでも開発できるコンシューマー向けWeb技術が注目され始めたからこそ可能になったスタイルだ。現時点では、このやり方が上手くいくという保証はない。ただ、どことなく「小規模で効率的に強いチームを」というアスレチックスのマネジメントに似ているように思える。成否はWilliams氏がビリー・ビーンのようなユニークな見識を持ってプロジェクトを切り盛りできるかにかかっている。上手くいけば、地元ファン(コンシューマー)をワクワクさせる存在になりそうだ。
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