【コラム】

シリコンバレー101

193 カトリーナ被害から得られた教訓、停電とインターネット

Yoichi Yamashita  [2006/09/26]

ウチのインターネット接続は、2週間に1度ぐらい4~5時間サービスが使えなくなる。ほとんど深夜に起こるのでケーブル会社の事情なのかもしれないが、コミュニケーション手段として考えると、度々使えなくなるというのは困りモノだ。

ただ、ケーブルでの接続が落ちても、モデム接続があるし、今は1カ月ほど前に始まったGoogleの公共接続サービスも使える。このように考えると、インターネットは実にしぶといコミュニケーション手段と言えなくもない。

さて9月19日に、Intuitの駐車場で「Silicon Valley Simulation Day」が行われた。災害時、電力の供給が止まり、通常の通信手段が使えなくなった状況でも、すぐに展開できるコミュニケーション技術をデモンストレーションするイベントだ。

2005年のハリケーン・カトリーナの被害では、被災地域で電力供給が完全にストップし、全てのコミュニケーション機能がダウンしたことが、避難や救援活動の大きな障害となった。軍や赤十字などは衛星通信設備を利用していたものの、その範囲はごく一部である。情報がうまく広がらなかったため、被災者が行き場に迷い、民間のボランティア団体や非政府組織などが効率的に動けない時間が長引いた。

その反省から始まったのがSimulation Dayである。オーガナイザーはTechReach Internationalを中心とした複数の非営利組織だ。参加者として集まったのは、警察や消防署など被災地で最初に活動する可能性のある人たち、ボランティア団体や非政府組織、地域政府の担当者など。カトリーナの時にはコミュニケーション手段を失った人たちの間にも、素早く展開でき、効率よい情報交換を可能にするコミュニケーション技術を浸透させるのがイベントの目的だ。低コストであることも重要な条件。具体的には電気も何もないところ(駐車場)でインターネット接続を回復して見せるのがSimulation Dayのシミュレーションである。

会場では、電話ボックスのような小屋に、自動車のバッテリで動作するBGAN端末とアンテナを取り付けた、衛星インターネットボックスが設置された。さらに太陽光から蓄電するGreen Wi-FiのWi-Fiノードを使って無線ネットワークを構築、被災地域では数少ないネット接続を効率的に共有できるようにした。ノード同士は最長1キロ間隔で設置できる。ネットワークの構築に複雑なステップは必要なく、現場でボランティアなどが簡単にノードを設置できるそうだ。太陽光が使えない場合は、自転車発電で電源を確保する。ハードウェアやネットワークだけではない。プロジェクト管理ツール、ブログやフォトサービス、避難キャンプの状況やボランティアの協力が必要な地域の情報がリアルタイムにアップデートされるWebサイトなど、緊急時向けWebサービスのデモも色々と披露されていた。

TelenorのBGANサービスを利用した衛星インターネットの受信小屋を設置中 (c)HumaniNet

避難キャンプやボランティアの活動を管理するオープンソースのツールのデモを行うSahana (c)HumaniNet

Simulation Dayという危機感を煽るイベント名は、緊急時向けの技術が直面している問題をよく現している。カトリーナ被害の直後は、政府の対応の遅さが批判され、デジタルデバイド解消を求める声も高まっていた。それから1年が経ち、「のど元過ぎれば熱さを忘れる」という雰囲気があるのも否めないのだ。

Simulation Dayでは"低コストな技術"が大きなテーマだったが、Green Wi-FiのWi-Fiノードは1つ約600ドルと、簡単に大量導入できるような価格ではない。量産の見通しが立てば半額程度になるというが、必ずしも必要でない投資への関心を高めるのは難しい。ただ、Simulation Dayからは、ハリケーン・カトリーナの時にすぐに活動できなかった人たちや、「こんな技術を活用できるのに……」という思いをした技術者、専門家の歯がゆい思いが伝わってくる。駐車場を会場にした、午後12時30分から6時までという小規模なイベントだったが、1年前の思いを風化させないためにも、今後の継続を期待したい。

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