【コラム】

シリコンバレー101

191 ネットのメリットが見えてこない映画のダウンロード配信

    Yoichi Yamashita  [2006/09/14]

    NBCの人気トークショーTonight Showにゲストで登場したベン・アフレックが、ビデオiPodを役作りに利用していると話していたそうだ。俳優ジョージ・リーヴスの半生を描いた「Truth, Justice and the American Way」に主演するアフレックは、リーヴスが演じたTVドラマ「スーパーマン」をiPodに入れ、何度も見返しながらリーヴスの癖を研究しているという。

    その日のTonight Showを見ていなかったのだが、このベン・アフレックのトークは、一部のiPod関連のWebサイトやブログで話題になっている。さて、発言のどこが問題かわかるだろうか?

    ネット上では、iTunes Music Store(現iTunes Store)でTVシリーズのスーパーマンが販売されていないことから、「ベン・アフレックはDVDからリッピングしているのか」と指摘されている。これを取り上げた記事は、Diggでもけっこう上位にランクインされていた。

    実際のところ、ベン・アフレックが著作権侵害に荷担していると本気で疑っている人はほんとんどいないだろう。そもそも著作権侵害や不正アクセスなどの問題がなかったから、本人は気軽に話したとも考えられる。ただユーザーは、もっと便利にビデオコンテンツを楽しみたいのに、様々な制限にしばられている。そんな日頃の不満が、今回のアフレック発言騒動には反映されているのではないだろうか。

    さて、Apple Computerが米国時間の9月12日に、プレス関係者などを集めたスペシャルイベントをサンフランシスコで開催し、iTunes Storeを通じて長編映画のダウンロード販売を開始すると発表した。米国では先週、Amazon.comも「Amazon Unbox」という映画とTV番組のダウンロード配信サービスを開始している。音楽に続いて映画も……という期待が高まっているが、残念ながら2003年にAppleがiTMSを発表した時の、一気にネット配信が広まるような勢いは感じられない。Amazon Unboxには20th Century Fox、Paramount Pictures、Sony Pictures、Universal Pictures、Warner Bros、MGM(Metro-Goldwyn-Mayer)が参加し、Walt Disneyは不参加。iTunes Storeでは、そのDisney系列の映画会社の作品のみを購入できる。メジャーな映画会社が揃ったものの、2つに分かれた上、全体的に購入できるタイトル数が少ない。上記のジョージ・リーヴスのスーパーマンは見つからなかった。

    消費者はネット配信に対して、DVD化されている作品はもちろん、DVD化されていない作品も幅広く入手できるような豊富なタイトル数を期待する。マイナーな作品の売上げは少ないだろうが、在庫や物流にかかるコストが少ないオンラインストアでは、むしろ販売数量が少ない商品を大量に揃えて、長期的に売り続けることで大きな売上げに結びつけられる。いわゆるロングテールである。AppleやAmazonは、その点を十分に理解しているはずだ。それにも関わらず、この現状というのは、映画会社がネット配信に対して慎重な姿勢をとっているのだろう。

    皮肉にもAppleのスペシャルイベントでは、映画配信とは関係のない場面で心躍る瞬間があった。同社が開発中だという「iTV」のデモで、Steve Jobs氏がビデオキャストの「Rocketboom」をテレビで再生した時だ。Rocketboomは低予算でも質が高いと評価されている人気のニュースブログだ。YouTubeのようなビデオ共有サービスが大きな注目を浴びている中、DVDでも手に入るような映画を買えるよりも、Rocketboomをテレビで見られる方がネット配信のメリットが生きているように思えた。

    米国ではビール会社大手のAnheuser-Busch(バドワイザーのメーカー)が、数十億ドルの巨費を投じた「BUD.TV」というインターネット放送を2007年2月に開始する。タイミングを考えると、スーパーボウルでの放送開始を狙っているのだろう。Anheuser-Buschのターゲットである、21才以上を対象にした本格的な番組コンテンツを提供し、YouTubeのような投稿型のサービスも用意するそうだ。

    テレビCMの大スポンサーであるビール会社が、自らネット上に放送チャンネルを作ってしまうのだから驚きである。しかし、MySpace世代が20代全体にまで広がっていること、米国においてビールメーカーがTVでのマーケティングで様々な制約を受けていることを考えれば、無茶苦茶な戦略ではない。自分たちのターゲット向けに深く掘り下げたコンテンツを提供するニッチな媒体になるだろうが、それだけに貴重な情報ソースとも言える。マーケティング上の効果が証明されれば、他の業種からの参入もあり得る。ロングテールではないが、ニッチな媒体の数が増えることで、総体的な影響力も出てくるかもしれない。

    今やネットだからこそ実現する情報配信がある。PCとテレビを結びつけようとする際に、その武器があまりアピールされていないのは、ちょっともったいない気がする。

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