【コラム】

シリコンバレー101

188 企業による公式"流出"!? 研究目的で公開された検索ログ

    Yoichi Yamashita  [2006/08/15]

    先週取材したセキュリティカンファレンス「Black Hat Briefings」では、ランチの時間に参加者が7~8人のグループになって、会話しながら食事できるようになっていた。2日目のランチの時、左右どちらの席もワシントンDCから参加したリサーチャーで、その2人の仕事が面白かった。

    1人は"デジタル鑑識官"と呼べるような仕事だ。コンピュータのハードディスクやメモリーカードなどの中身を分析する。クライアントが誰なのかは教えてくれなかったが、おそらく捜査当局と言われるところだろう。ファイルがどっさり持ち込まれ、その1つずつを細かく調査し、それぞれについて1枚ずつレポートを作成する。たとえば画像のExif情報で撮影日時が午後9時過ぎなのに、写っている風景がまだ明るければ、持ち主が時差のある場所に旅行していた可能性がある。そのような変わった点や気づいたところを、ファイルの説明と共に書き出す。分析の依頼ではファイルの出所は伝えられず、分析者にとって持ち主は番号でしかない。それでもファイルにはプライベートな内容が含まれるため、分析するうちに、その人の生活みたいなものまで想像できてしまうそうだ。

    もう1人は音声の研究者である。人が話す声のトーンから、相手の性格や状態を判断する技術を研究している。以前、たしかクレジットカード会社に住所変更の電話をした時だったと思うが、「電話で生年月日や母親の旧姓などを確認するだけでは、本人確認としては不十分ではないか?」と質問したことがある。クレジットカード会社の担当は、自分たちはプロだから、話し方から相手を推測できるし、疑わしい人には専用の質問を追加するからしっかりと判断できると言っていた。となりに座った音声の研究者は、そのような判断プログラムを作っている。

    たとえば、銀行や保険会社などのカスタマーサービスに電話すると、「サービス向上のために会話は録音されます」と言われる。あれは後で言った言わないの水掛け論にならないように録音しているのだと思っていたが、実はデジタル録音して、音声分析するためなのだそうだ。これは詐欺防止だけではなく、相手の機嫌や感情の変化が判れば、すぐに適切な対応ができる。また会話中だけではなく、後で会話を分析することで、サービスの改善や担当者のトレーニングにも活用できる。マーケティング上の貴重なデータにもなる。最近はカスタマー対応だけではなく、普通の会社が社員のモニターに音声分析を導入するケースも増えているそうだ。彼は、収集された音声データの分析を依頼された場合、依頼主の会社の社員は番号でしかないが、分析をするうちに各社員の個性、会社でのポジションや対人関係などが想像できる、と言っていた。

    さてAOLがAOL Researchを通じてWebクエリのサンプルデータを公開した(※米国時間の8月6日深夜からアクセス不能に)。サンプル期間は今年3月から5月までの3カ月間で、65万人以上のメンバーによる約2,000万のクエリである。ファイルは圧縮されているが、440MB近い。検索ログというと、米司法省の提出要請を米Googleが拒否した騒動を思い出すが、そのGoogleと提携しているAOLがこのようなデータを公開しても大丈夫なのだろうか。この点は今後確認するとして、問題はデータの中身である。ユーザーIDは番号化されているものの、各ユーザーの検索動向が一目瞭然。中身の確認のつもりで読み始めたら、あれこれ推測するのが面白くて止まらなくなってしまった。中には、自分で自分の名前を検索しているんじゃないかと思われる個人名もある。正直、これがデータの流出ではなく、AOLが公開したものなのだからびっくりだ。ブログでもぽつぽつと反応が出てきていて、英断とほめ称えるマーケティング関係者がいる一方で、AOLユーザーやその他のネットユーザーからは批判の声が噴出している。

    AOLはデータ公開について、「新たなリサーチツールの提供でアカデミック・コミュニティを支援する純粋な試み」と説明している。"純粋な"と念押ししているのは、データ共有を通じて、関連ビジネスの発展を狙っているのではないかという考えを打ち消すものだ。ただ何にせよ、たとえユーザーIDとデータが結びつけられないとしても、データは雄弁である。その扱いを誤れば攻撃の道具にもなり得る。だから、前述の2人はBlack Hat Briefingsに参加していた。会員サービスの無料開放でビジネスの立て直しを図る同社だが、どこか感覚的にズレているという感じがする……。

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