【コラム】

シリコンバレー101

185 思いつきだけでも発明長者に - クラウドソーシングによるソフト開発

    Yoichi Yamashita  [2006/07/18]

    マウンテンビューにあるコンピュータ歴史博物館で7月12日と13日に「Mashup Camp 2」が開催された。マッシュアップの仕掛人がアイディアを持ち寄り、オープンな議論を通じてアイディアに磨きをかける。企業側からの注目度も高く、Adobe、AOL、Google、Intel、Microsoft、Sunなどがスポンサーに名を連ねている。1回目からの変更点としては「Mashup University」というトレーニングセッションの追加だ。講師はスポンサー企業(APIの提供者という立場から……)や著名な開発者である。Mashup全体で見れば、開発者のアイディア交換会の場であるCampに、Universityが追加されたことで、ビジネス側からのアプローチとのバランスが図られた形になる。言い換えれば、アイディアだけではなく、いかにビジネスとして成立させるかがMashupの議論のポイントになっているのだ。

    さて、職業柄1日に1度はGoogle関連のプレスリリースをチェックし、ニュース検索で"google"を検索している。6月27日に「Cambrian House Inc.がGoogleにランチを配達」というプレスリリースが引っかかった。1,000枚以上のピザをGoogle本社"Googleplex"に届けたという奇妙なリリースである。新たにGoogle御用達になったピザ屋が、感激のあまりリリースを流したのかと思ったが、Cambrian Houseはカナダのカルガリーを本拠とするソフトウエア会社である。よく読むと、同社は「オンラインの世界を変えた団体および企業」を讃えるNational Viking Association(NVA)というものを設けており、ホールオブフェーム団体の第1号にGoogleを選んだらしい。1,000枚以上のピザは、その賞品代わりである。配達時の様子は写真共有のFlickrやビデオ共有のYouTubeで公開されている。ちなみに届けたピザはマウンテンビューのダウンタウンにあるAMICI'Sに注文したようだ。ここは東海岸ピザの人気店で、ちゃんとしたレストランであり、チェーン店よりも値段が高い。おふざけ企画の中にも、ピザの質にこだわっているあたりにGoogleに対する尊敬と称賛の念が感じられる。

    そのCambrian Houseだが、「しょうがない会社だな……」と思いつつサイトをのぞいてみると、これが本業の方でも面白いことをやっている。よく調べてみると地味に注目も集めているようだ。

    Cambrian Houseが6月26日に開始した新サービスは、いわゆる"crowdsourcing (クラウドソーシング)"によるソフトウエアやオンラインサービスの開発である。クラウドソーシングは、大勢(Crowd)から、コンテンツやサービスなどを調達(Sourcing)するビジネスモデルだ。コンセプト自体は新しくはなく、Cambrian HouseもiStockPhotoInnoCentiveなどの具体例を挙げている。iStockPhotoは、メンバーのフォトグラファーが登録した写真をWebや出版物向けに提供するサービスだ。プロだけではなく、アマチュアの写真も幅広く登録されており、ユーザーは膨大なカタログの中から必要な写真だけを購入できる。写真家を雇ったり、プロのフォトストックを利用するよりも、ずっと経済的に写真を調達できるのがメリットである。InnoCentiveはR&D向けのサービスだ。企業が製品開発上で直面している問題やトラブルをメンバーに公開し、それを解決するアイディアや技術に報酬が支払われる。機密情報が漏れる可能性があるので、企業側は情報の公開に慎重になる必要があるが、うまく利用すれば、R&Dコストの大幅削減を実現できるという。

    Cambrian Houseがクラウドソーシングをどのようにソフトウエア/サービス開発に持ち込んでいるかというと、まず1つのプロジェクトに1,500のロイアルティポイントを設定している。大本となるアイディアには150ポイントを配分し、そのアイディアをメンバーに公開し、プログラミングやコピーライト、画像/イラストなど商業化に必要な作業に関わった人にポイントを提供する。アイディアが製品化され、売上げが発生するとロイアルティポイントに応じた配当が支払われる。

    アイディアがコミュニティによって形になり、Cambrian Houseによってビジネスに

    これならば技術がなくてもアイディアだけでソフトウエア/サービス開発に参加できるし、逆にプログラミングだけに没頭することも可能だ。企業に属さなくてもプロジェクトを実現する人材を集められるし、自分で参加するプロジェクトを選べるというメリットもある。ただしCambrian Houseでは、集まってきたすべてのアイディアがコミュニティメンバーに公開されるのではない。絞り込まないと数が増えすぎて効率が悪くなるので、まずCambrian Houseのスタッフが審査し、可能性のあるアイディアがIDEA WARZで公開され、最終的にメンバー投票によって実際に試すプロジェクトが決定する。

    仕組上、規模が大きくならないと優れた人材がそろわないが、大規模なコミュニティになれば、メンバーの意思統一や管理が難しくなる。その点メンバー投票によるプロジェクト決定は、話題性があるし、メンバーを誘導しやすい。よく考えられている。あとはプロジェクトをビジネスの成功例に導けるか……だ。ある程度、形になった場合、投資家がどのように反応するかも興味深いところだ。

    「Cambrian Houseが成功するか?」と問われれば、正直きびしいと思う。企業がスポンサーになった賞金プロジェクトのような、もっと俗っぽい魅力がなければ、無名な会社がブレークするのは難しいのではないか。それでも期待してしまうのは、クラウドソーシングである。クラウドソーシングが大きなうねりになりそうだから、「ひょっとしたら……」と思ってしまう。

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