【コラム】

シリコンバレー101

177 30秒で納得できる出来映え - Appleが米で放映中の比較CM

    Yoichi Yamashita  [2006/05/24]

    スーパーボウルの翌日になると、試合の合間に流されたCMの人気ランキングが発表される。毎年ビールメーカーが健闘しているが、それでなくても米国では、日頃からビールメーカーのCMがよく話題になる。その理由を考えると、CM制作上のハンデに思い当たる。

    米国では、テレビCMにアルコールを飲むシーンを映すことが禁止されているのだ。これがウイスキーやワインなら、飲まなくてもなんとかなるだろう。だが、15秒または30秒という短い時間で、ビールの魅力を伝えるには、やはり「ゴキュゴキュ、ぶっはぁー」である。簡単で効果的な方法があるのに、そのシーンを使えないから、逆にそのイメージを再現するのに四苦八苦する。結果、ボトルをさわった人を凍らせたり、バーでビール飲みのコントをやったりと、凝った演出のCMが出来上がる。

    日本の輸入雑貨店でも見かけるスキットルズ(Skittles)のCMも変わっている。M&M'Sと同じメーカーのMarsが出しているカラフルなキャンディーで、特徴は酸味のきいた奇妙な味。キャッチコピーは「Taste the Rainbow」である。実際に食べてみると、たしかに虹を味わっている……という感じがするので、言い得て妙なのだが、逆にTaste the RainbowをCMでストレートに伝えるのは難しい。そこでMarsは味ではなく、その奇妙ぶりをストレートに伝えるCMを流している。スキットルズのサイトに2つ公開されているので、是非ともご覧いただきたい。特に、面接の席でヒゲを使ってスキットルズを食べる、ヒッピー風の男のCMの方が有名である。どちらのCMを見てもスキットルズの味は想像できないと思うが、スキットルズの味を知っていると「あ~、こんな感じだよな」と妙に納得できる。

    米国でのトヨタ プリウスのCMも、ハンデを克服したCM……だと個人的には思っている。今でこそガソリン価格の値上がりで、米国でもハイブリッド車の人気が高まっているが、少し前までプリウスは、一般的には「なんだかよく分からない車」であり、数少ないプリウス・オーナーは"うんちくを語りだしたら止まらないウザい人"というイメージだった。そこでトヨタは、そのイメージを、そのまんまCMにした。元49er'sのクオーターバックSteve Youngが、公園のベンチで隣に座った人とか、パントマイマーとかに、プリウスのうんちくを喋りまくって嫌がられる。それだけである。ただ、人の良さそうなSteve Youngが演じているので、嫌みな感じではない。車はほとんど走らないが、なんとなくプリウスという車の持ち味、オーナーがこだわる理由が伝わってくる。

    さて、MacBook発売の少し前に、米国でAppleが新しいCMを流し始めた。Mac OS Xを軸とした、ひさしぶりのMacのCMである。これがなかなか良くできている。

    Macを広告する難しさというと、シェアの壁を考えるかもしれないが、Macに限らず、CMの短い時間でパソコンの持ち味を宣伝するのは難しい。Intel製CPUがMacに搭載された際のCMも、PCを"退屈"と表現したことが話題になったが、Intel搭載の"事件"ぶりは伝わってこなかった。最近では「Dell Dude」のCMが比較的成功したものの、役者が演じていた"Dell Dude"キャラクターが受けていただけで、Dell製品の持ち味を伝えるCMではなかった。結局、役者がマリファナ購入容疑で逮捕というドタバタもあって、いつの間にかDellのCMを見かけなくなってしまった。

    Macの新CMには、Steve Jobs氏のイメージをいい方向にぐっと引き伸ばしたラフな格好の若者と、Bill Gates氏のイメージを悪い方向に強調したスーツにめがねの男の2人が登場する。「ウイルス」「再起動」「ネットワーク」「iLife」「WSJ(ウオールストリートジャーナル)」「Better(より優れた……)」という6タイプが用意されており、いずれも「Hello, I'm a Mac」「I'm a PC」で始まる。つまり、この2人はMacとPCを擬人化したキャラクターなのだ。で、PCの方は、ウイルスで臥せったり、フリーズしたり、日本製デジカメを擬人化した女の子と話せなかったりと、トラブルに見舞われ続け、Macをそれらを飄々とこなす。コカ・コーラをこき下ろすペプシのCMに似た過激さもある。だが、擬人化したことで、Macの持ち味が一目瞭然となり、30秒という短い時間の中でも、しっかりと伝わるCMになっている点は評価したい。

    ただ、気になるのは、Macのキャラクターのようなパソコンユーザーって、やっぱり少数派ではないかということ。あと、この2人の中身が同じであるということや、実はMacがBoot Campというスーツを仮縫い中ということ、Macが意外とお手頃価格ということなど、今の消費者に訴えかけるポイントを外しているのが……残念。

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