【コラム】
アリバイサービスというのをご存じだろうか。その言葉通り、アリバイを作ってくれるサービスである。たとえば2~5日のアリバイだと、カンファレンス・パッケージというものがある。事前にカンファレンスの主催者や、旅行代理店などを騙って、Eメールや電話でカンファレンスの参加を確認してくれる。開催(されているはずの)期間中にも、ちゃんと参加していた証拠となるEメールを送ってくれる。オンラインで申し込むだけで、探偵やなんでも屋に依頼するよりも格安で、手軽に使えるのがポイントだ。初めて存在を聞いたのは3~4年前だと思うが、今検索してみると、実に数多くのサービスがヒットするので、それなりの結果と需要があるのだろう。
さて、ここ最近、あのEメールは本物か……という議論が各所のトップニュースを飾っていた。騒動の終盤では「民主党は新たに何も提示できず……」という報道が目立ったが、そこで気になったのは「Eメールに証拠能力を持たせる何かってナニ?」である。それが最初からはっきりしていれば、もっとすっきりと事が進んだように思えるし、また、真贋の証明に右往左往したことで、Eメールはあいまいなコミュニケーション方法であるという印象を残してしまった。では、なにかと訴訟の多い欧米で、メールの証拠能力はどのように扱われているのだろうか?
手紙を始めとする文書とEメールの違いは、Eメールには送信受信の痕跡が残される点だ。そのため監査トレイルを行える。だが英Datasecは、2003年に発表したEメールの証拠能力に関する報告書の中で、あらゆる面においてEメールは改ざん可能であり、知識があれば監査トレイルをごまかすこともできると指摘している。そのため、Eメールを重要な証拠として採用する場合、監査トレイルの検証も必要になるとしている。逆に監査トレイルも行われていない、たとえばEメールの印刷コピーだけを訴えに持ち出しても、証拠としての価値はほとんど認めらない。
Datasecが引用しているBSI(British Standard Institution/英国規格協会)の見解は、「電子情報を証拠として用いる場合、データが保存されていた場所、メディアからメディアへの情報の動き、システムの管理状況など、より詳細なサポート情報の提供が必要になる」と厳しい。Eメールのヘッダ情報を見ると、メールの差出人/あて先/送信日時、使ったメールソフト、経由したメールサーバーなどの情報がわかる。だが、それだけでは監査トレイルとしては不十分。クライアントのIPアドレスの変化や時差の影響など、疑問符となり得るすべての要素を考慮する必要がある。送信元を隠すスパムメールの手法はヘッダの偽装にも利用できるため、そのような可能性も疑わなければならない。ちなみにDatasecのアナリストが、2003年2月に、カンタベリークラウン裁判所の判事と陪審員の目の前で、偽装したEメールを送信するデモンストレーションを披露したことがあるそうだ。ヘッダを詳細に調べれば不審な点に気づくが、それを証明するには、さらに詳細なネットワークの調査が必要になる。Datasecは「条件がそろえばEメールは証拠となり得る」としているものの、「それでも決して覆されることのない完璧な証拠とはならない」と結論づけている。他にもいくつもの報告書や資料で、同様の指摘が行われている。
このように調べてみると、電子情報のやり取りをしっかりと管理している企業、デジタル署名が使用されているケース、裁判所がデータ提出の命令を出した場合などを除き、Eメールを証拠として利用するのは難しいように思える。だが、米国における個人レベルの訴訟において、Eメールが取り上げられていない訳ではない。むしろ、その機会は増えている。たとえば子供の親権や養育権が争われる際、助言を与えるために立ち会う養育の専門家は、適正を見る上で比較的幅広い情報から判断しようとする。そのため、たとえ判事がEメールを証拠として認めなくても、その内容から伝わる人間像が結果に影響を与える可能性もある。また、Eメールだけでは主張を通せなくても、手紙や会話の録音など、Eメールの内容をサポートする証拠をそろえれば状況は変わってくる。
このトピックについてはもう少し調べてみたいと思うが、今は、偽装の可能性を指摘するよりも、本物であることを証明する方が難しいというのは本当なんだな……というのが実感。ただ、Eメールが証拠として無力という訳ではない。Eメールをふりかざすのではなく、どのように主張を展開するかという、しっかりとしたプランが肝要であるようだ。
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