【コラム】
正月のローカルニュースで、カーネギーメロン大学の教授がチリの学者と共に、ワインの発酵を数学的に解析し、醸造過程をコントロールする公式を編み出したとレポートしていた。2年間の研究成果は、今のところ白ワインのみ。より複雑な赤ワインは今後も研究が続けられるそうだ。この公式に従うことで、生産者は効率的に安定した品質のワインを醸造できるようになり、消費者は高品質のワインをより低価格で買えるようになると説明されていた。
歴史が長いのに、今でも生産業者を悩ませ続けるワイン。気候や土壌、管理のちょっとした違いが出来映えに大きな違いをもたらす。一筋縄ではいかない産物というイメージが強いためか、ワイン作りは農業のIT化の実験に用いられることが多い。
米国でもっとも有名なワイン産地ナパが近くにあるシリコンバレーでも、数多くの企業がワイン生産のIT技術導入に協力している。最近ではワイン業者とのつきあいが高じて、自らワイン製造業者に転身するエンジニアが少なくない。受賞ワインの生産者の経歴に、Sun MicrosystemsやHewlett-Packardという名前を見つけるようになった。
ワイン業者が技術導入に積極的になり始めたきっかけは、90年代の景気後退にある。打開策として、消費者が求めやすい1,000円台の製品の改革に乗り出した。必要なのは作業の効率化と収穫の安定、狙った風味を醸し出す醸造技術だ。たとえば畑全体にセンサーを配置し、温度/湿度/土壌水分/風速などを常にモニターする。それらのデータはサーバに送信され、ブドウの生育状況や天候が及ぼす影響、醸造の状態などをオフィスで集中管理する。このようなデータに、冒頭の公式のようなプログラムを当てはめて、安定した生産を実現する。
ワイン生産へのIT技術の導入は、90年代に取り入れられてからすぐに、ある程度の成果につながった。特にブドウ生産の安定という面で効果があり、天候に左右されやすかった中小規模のワイナリーに福音をもたらした。ところが、個性的で売れるワインづくりという点で課題が残った。代々引き継がれてきたワイナリーの特色が反映されないのだ。
そこで最近では古の知恵もデータ化する作業が進められている。たとえばブドウを桶に入れて素足で踏みつける要領、ブドウ畑の近くで栽培しているバラの状態のデータなどを採取する。バラは非常に気むずかしい植物なので、旧スタイルのワイン生産者は毎日バラを観察し、ブドウの木の健康状態を保つための参考にしていたそうだ。これらはIT化の中で、一度は非効率的と切り捨てられたが、今では売れるワインを生み出す貴重なデータとなっている。昨年、ナパでEnologixのシステムを導入し、受賞ワインを生み出した畑を観察したが、そこは廃業して枯れ木を放置しているのか……と思うほど荒れていた。しかし、それがワイナリー伝統の風味を再現するために、水分を徹底管理している状態なのだそうだ。このように個性を反映できるようになった最近では、大規模ワイナリーよりも中小規模のワイナリーの方が元気である。
さて、昨日までラスベガスで米最大の家電展示会CESに参加していた。個人的には、今年は"プラットフォーム"に沿って開発された製品でにぎわっていたという印象である。ノートPC、タブレットPC、メディアセンターPC、モバイル機器などを1社が独自に開発すると莫大なコストがかかる。当然、製品価格も高くなる。だが、リーダー企業が音頭を取って、製品の特徴や性能を引き出す部分を共通化すれば、提携企業はコストを抑えた製品開発が可能になる。たとえば、これまでプレミア感のあったモバイルノートPCやタブレットPCも、より求めやすい価格になる。米国で、ある程度のモバイル性能を備えたノートPCが1,000ドル以下で販売されているのは、Intelのプラットフォーム戦略の恩恵と言える。これは、飲み過ぎても翌日に頭痛を残さない、10ドル以下ワインを増やしてくれた"ワインのIT生産"と、どことなく似ているような気がするのだ……。
ただPCなどに関しては、まだワインのIT生産がカベにぶつかる前のような雰囲気だ。製品を見ただけでは、どこのメーカーか判断しにくい。今後、ハードウエアだけではなく、ソフトウエアやサービスを含めて、メーカーの個性をいかに引き出すかが課題になりそうだ。そのためか、プラットフォームの効果を認めながらも、オープンスタンダード重視を主張する声が目立ったのも印象的だった。
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