【コラム】

シリコンバレー101

158 生まれ変わったガレージ伝説発祥の場所

    Yoichi Yamashita  [2005/12/13]

    Hewlett-Packard(HP)がHPガレージ(367 Addison Ave., Palo Alto CA)の修復を完了した。HPガレージは、同社の創設者であるBill Hewlett氏とDave Packard氏が1939年に起業した場所であり、カリフォルニア州から「シリコンバレー発祥の地」に認定されている。老朽化が進んでいたこともあって、2000年にHPが買い取って修復作業を行っていた。以前は個人の持ち物だったため、HPガレージの中には入れなかったが、HPが管理・保存するようになったことで一般にも公開されるチャンスが出てきた。

    敷地内には3つの建物がある。1つは2階建ての住宅。この1階をPackard夫妻が借りていた。裏にはHewlett氏が寝泊まりしていた約8×18フィート(約2.4×5.5メートル)の物置小屋と、約12×18フィート(約3.7×5.5メートル)のガレージがある。ガレージは作業場で、ここでHPの最初の製品となったオーディオ発信器「Model 200A」が開発された。当時、家賃は月45ドル。HP創業の資金は538ドルだった。

    Packard夫妻が1階を借りていた家。左の方にガレージが見える

    Hewlett氏がしばらく暮らしていた家の裏にある物置小屋

    以前は塀にさえぎられてよく見えなかったガレージ

    HPがWalt Disneyに売り込んだ「Model 200A」

    ガレージには古い工具や組み立て中の発信器、物置には小さなテーブルの上に図面、住宅にはマーケティングに使った文書など、当時の雰囲気を伝える様々な資料が配置されている。HPは、これらを関係者からだけではなく、オークションサイトなども利用してかき集めたそうだ。

    たとえば居間に置かれているオーディオ発信器の広告をよく読むと、最後に「詳細、その他の情報については"A部門"までご連絡ください」と書かれている。A部門と言っても、このオフィス兼アパートを見回すと、居間とダイニングしかない。A部門は、おそらくPackard夫人が帳簿をつけていたダイニングあたりか……。しかも、そのダイニング兼A部門の部屋は、夜になると折りたたみベッドが開いて寝室に早変わりする。こんな感じで、ちらっと見た感じではごく普通の米国のアパートとガレージだが、細かくチェックすると当時のドタバタぶりが伝わってくる。

    HPガレージ修復に関しては、遺族ではなく、HPが管理することに対して、「シリコンバレー発祥の場所を企業のイメージ戦略に利用するのはどうか……」という声もある。自分も同様の懸念を持っていた。だが、修復後のお披露目されたガレージを見る限りでは、過剰な装飾や演出はなく、HPの原点をそのままの形で残しているのではないかと思う。

    当時を再現したキッチン。オーブンも発明専用で、料理には使用されなかった

    ダイニング兼オフィス。夜になると折りたたみベッドを倒して寝室に……

    Hewlett氏が寝泊まりしていた小屋の中。かなり粗末

    照明は裸電球1つ。ところ狭しと工具が散らばっているガレージの中

    "開発中"のオーディオ発信器「Model 200A」

    家の前に立てられている「シリコンバレー発祥の場所」のプレート

    ガレージというのは車庫である。ただ、サウスベイは雨が少なく、雪も降らないので、車をガレージの前のドライブウエイや家の前の道ばたに停めている人が多い。では、本来車が入るはずのガレージはどうなっているのかというと、秘密基地だ。"ガレージバンド"という言葉があるように、バンドをやっていればスタジオになるし、モノを作りたければ工房になる。Hewlett氏とPackard氏のように会社だって興せる。冷蔵庫の中身で、その家庭の食生活が分かるように、ガレージをのぞけば、そのアメリカ人家庭の趣味や性格が見えてくる。そんな場所なのだ。

    アメリカの子供にとっては自分の部屋よりも重要な場所かもしれない。ガレージの中には大人の道具がならび、ガラクタの層を掘り起こせば、自分の父親が昔、ガレージでこそこそとやってきた歴史が見えてくる。それらを使って、自分も何かを始められる。子供が大人の世界に触れられる場所であり、心からワクワクできる場所なのだ。

    ガレージで起業というのは米国、特にシリコンバレーではめずらしくない。今でも、その文化は綿々と受け継がれている。重要なのは「ガレージからでも起業ができる……」ではなく、子供たちの想像力をかき立てる空間が、どこの家庭にもあるということだ。その雰囲気はHPガレージではなくても、ごく普通のエンジニアのガレージからでも伝わってくる。逆に言えば、HPガレージを訪れたとしても、外から眺めるだけでは不十分。その魅力は中身にあるので、興味がある方はHPが計画しているというツアーを利用することをお勧めする(現時点では建物内部の一般公開については未定)。

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